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【ヒットの法則447】ジャガーXFのモダンな内外装と走りは「新世代ジャガーの世界」を感じさせるものだった

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【ヒットの法則447】ジャガーXFのモダンな内外装と走りは「新世代ジャガーの世界」を感じさせるものだった

2006年7月にジャガーXKクーぺ、2008年5月にジャガーXFが日本に上陸したことで、「ジャガーらしさ」に注目が集まった。Motor Magazine誌では、新たに上陸したXFと、スポーツクーペXKの試乗をとおして、興味深い考察を行っているのでその模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年8月号より)

アイコニックなかつてのジャガースタイルは見当らない
猛省中である。私が初めて、ジャガーが自らの呪縛を払いのけ、新たなるチャレンジを試みたコンセプトカー「C-XF」の写真を見たときのこと。一瞥にて我が脳の扁桃体は、「このカタチは嫌い」という信号を発してしまい、その後、前頭前野がいくら懸命に、徹してロジカルに理解しようと努めても、頑としてXFをジャガーと認めようとはしなかった。

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生産デザインが発表され、その全貌が明らかになってなお、私にはある種の拒否反応があったのだ。

少しでもニュートラルな目で現物を見ることができていたなら、もっと違う評価があったろうにと今さら思うが、実際には二次元の写真をただ眺めるだけだったので、一度脳が下した判断がそう易々と覆るはずもない(ちなみに、XFの顔立ちは、写真で見るよりもずっと彫刻的だ。写真では表現しきれない。ぜひ、実車で確認して欲しい)。

「クルマはカタチが命」。それは愛車を選ぶユーザーにとっての真理ではあるけれど、私が単なる潜在顧客のような判断をしてしまっては、元も子もあるまい。それにクルマの世界では、「とてもよくできたクルマは、だんだんと格好よく見えてくるもの」という逆のことも、またよくある話なのだ。

というわけで、私は目下、猛省中なのだった。2月にモナコで開催された国際試乗会、そして日本仕様の箱根試乗会、さらには今回のじっくりロングドライブ取材と、XFの試乗を重ねるごとに、痛恨の念は深まるばかりだ。

改めて言おう。XFは、まったくもって素晴らしい「ジャガー」であり、それ以外の何者でもない、と。そして、「何を今さら」ながら恥を忍んで言えば、今、私の目の前にあるXFは、ジャガーらしさに溢れている。遅きに失したかもしれないが、果たして、今はそう見える。

あえて自己弁護をするなら、それは決して古式ゆかしきジャガーのイメージではない。60年代以降の、アイコニックなジャガースタイルは微塵もない。だからこそ、多くのクルマ好きは新しいXFを見て、「らしくない」と一度は突き放したはずだ。

ここは、「新しいジャガー」の姿を発見したのだと言っておきたい。まさに今、ジャガーはブランドとして大いなる分岐点を通過したばかりというべきだが、新しい方向に進みはじめて即、すこぶるつきの結果をまずは商品で世に送り出すことに成功した。どうやらそれは、ブランドの質的転換を狙ったものだとも言えそうだ。

そんな洞察へ導かれるほどに、このクルマの走りは私に強烈なインパクトを残してくれたのだった。

今回、あらためて試乗に供されたのは、スーパーチャージドV8のSV8と、V8自然吸気の4.2プレミアムラグジュアリー、V6自然吸気の3.0ラグジュアリー、そしてスポーツクーペのXKだ。

XFシリーズについて簡単に復習しておこう。Sタイプの後継モデルとして昨年末にデビュー。エンジンや車体構造など、基本的にはSタイプを踏襲するが、シャシデザインはXKシリーズと同じもの。つまりは、サルーンだけどスポーツカーのアシを持つ。デザイン的に見ても、前後ピラーをXKと同じ角度にするなど、スポーツサルーンであることをことさらにアピールしている。

日本仕様は、先に記した3グレードに加えて、3L V6のプレミアムラグジュアリーという計4グレードが用意された。

一気にモダンになったのは外装だけではない。インテリアもそうだ。飛び出る円筒型のオートマチックセレクター(ジャガードライブセレクター)やスタートボタンの鼓動明滅、タッチセンサーオープナーなど各種の演出が散りばめられ、もはや古めかしい、ウッドとレザーだけのジャガーネスなど見当たらない。そこにあるのは、今、もっとも新しい雰囲気のコクピットである。

CATSが生む新たなジャガーのネコ足
改めて3つのXFとXKクーペを乗り比べてみて、もっとも感動的な走りをみせてくれたのは、XFの最上級グレードのSV8だった。

欧州車の評価において、小さいタイヤを履く廉価グレードを褒める傾向が強いが、XFに限っていえば、3L V6モデルのレベルの高さを承知しつつも、SV8の乗り味にはかなわないと断言する。

20インチという、およそミッドサイズのラグジュアリーサルーンらしからぬ大径タイヤも、それが電子制御アダプティブダンピングシステム(CATS)を導入した結果だと思えば納得がいくだろう。

とにかく、中速域から高速域まで、まるでレールを掴んで走っているかのような安定感で、その上ちゃんと心地いいクッションも確保しているから、気分は爽快だ。

多少、路面状況がバンピーな高速コーナーであっても、まったく恐怖心なくクリアできる。上屋こそきっちり揺れてくれるが、アシが路面をまるで離そうとしない。

結果的に、その時々の姿勢をドライバーが納得して受け止めることができ、ただクルマを信じて走り抜ければいいという安心感が芽生えてくる。路面に刷毛で塗料を塗るかのような粘り腰ある安心感は絶大で、高速域における操安性が自慢のドイツ車ともまたひと味違うテイストだ。

ワインディングで試すと、もうひとつ、このクルマに備わる魅力に気付く。それは、ボディサイズの適当さだ。足まわりのクオリティが突出しているため、サイズがドライバーの手のうちにあって、さらに姿勢を掴むのが容易い。結果、不安が薄まり、操りやすくなる。

もちろん、前脚の食いつきの良さ、後脚のねばりの強さの両方をもって、ジャガーの「ネコ足」が成立している。足まわりの贅沢さはクラス随一であり、高速道路においては洗練の走りを、峠道ではXKに負けないスポーツ性を、発揮してくれるのだ。

電子制御を駆使し、明らかにジャガーであると思わせる、凄みのあるハンドリングを実現した。これもひとつの伝統と革新の融合であろう。SV8の走りは、間違いなく同じCATSを履くXKシリーズの延長線上にあると、今回同時に試乗してみて確信するに至った。

もちろん、XKの方が明らかに軽く、スポーツカーらしい乗り味だ。コーナーを駆けぬける気持ち良さはXFのざっと3割増しといったところだろうか。

かっちりとしたボディ、しなやかによく動くアシ、腰で回るハンドリング感覚など、攻めの走りのシーンにおいては、すべてにおいてXFを少しずつ上回っているのも確かだ。

ただし、XFには懐の深さと言おうか、パフォーマンスを発揮しつつも全体を柔らかく包み込むという度量の大きさが備わっている。それが、スポーツカーではない、ラグジュアリーサルーンとしての役目だと言わんばかりだ。

それにしても、改めてXFとXKを並べてみれば、60年代のマーク2&タイプEの名車セットを思い出してしまうのは、美化し過ぎであろうか。XFと並んでXKはより一層、ダイナミックかつ艶やかな肢体をさらけだし、XKと並んでXFはスポーツサルーンとしての妥協ないパッケージングの妙を見せつける。

そういえば、普段乗りのライドフィールに優れるうえ、極めてスポーツカーライクにも振る舞えるSV8から降り立ったとき、63年に初代ETCチャンピオンになったジャガーマーク2を思い出したものだ。

革新の技術とデザインを走りの伝統で昇華させる
では、ノーマル足まわりのV8自然吸気モデルはどうだったか。

基本的なインプレッションは、エンジンパワー以外もちろん同じベクトル上にあると言えるが、あえて言うならCATSでない分だけ、古典的なイギリス車の味わいを持っていると私は思った。

ブラックコーヒーにミルクを垂らしたように、最初は上屋の動きとアシの動きに多少のズレを感じ、どたばたしている印象を受けるが、ミルクコーヒーになった暁には、ごく自然な乗り味となり、SV8に似た味わい深さを得る。乗れば乗るほどに身体にフィットしていく感覚は、ロールスロイスやベントレーを筆頭とするイギリス車の伝統でもあるのだ。

誤解を怖れずに言うなら、V8自然吸気モデルの方が相当に「旦那仕様」である。出だしのフィールとステアリング操作における初期の切れ味の良さ(これは長所である)を除けば、その挙動は常に落ち着き払っており、いぶし銀の走りだと言ってもいい。

さらに旦那仕立てなのがV6で、タイヤのせいか低速域でやや雑味があるが、乗り味そのものはさらにおっとりとしている。

さしずめ、ジャガーをこだわりの造り酒屋に喩えるならば、XFという銘柄のSV8は、飲んだ瞬間に誰もが「こりゃ旨ぇ」な純米大吟醸であり、V8は飲めば飲むほどに味わい深い純米吟醸、そしてV6といえばツウ好みで毎日飲みたい純米酒、となるだろうか。

まるで欠点のないクルマのように思われるかも知れないが、それを十分に挙げることができないのは足まわりの素晴らしさが目立ち過ぎるせいで、もちろんXFとて完全なクルマではない。

もっとも立ち後れているのが、エンジンだろう。これは、どうにも古くさい。スーパーチャージドであるなしにかかわらず、V8エンジンのフィールはひと言でいって、野暮ったく、パワー感も現代レベルではない。スペックほどの凄みを感じない。

その他、乗っていて気になったのは、高速域におけるミラー周りの風切り音と、ワインディング路におけるブレーキキャパの少なさだった。

とくにブレーキ性能に関しては、XKクーペでも物足りなく思えたので、できるだけ早期の改良を望みたい。何しろ、ついつい走りを楽しめてしまうクルマである。2、3回楽しんだらもう緩くなった、では話になるまい。

もう一度言うが、そんな欠点を覆い隠してしまうほど、足まわりのデキは秀逸である。

こう書くと、よっぽど前モデルのSタイプがひどかったのか、と思われそうだが、少なくともSタイプの後期モデルには、すでにこの乗り味の兆候があった。中でもスーパーチャージドのタイプRのライドフィールは、実に当代随一だったと言えるだろう。あの、後席の心地よさは、XFへと確実に受け継がれている。

そう、ジャガーはやはり綿々と、その内部に息づいていたのだ。

革新のテクノロジーと内外装デザインを、走りのDNAという伝統が見事に支え切る。ジャガーネスに限らず、クルマの本質は、実はそうやって受け継がれていくものなのだと、再確認するに至った。

6月2日、タタ社による買収完了。XFの進化を見守れば、ジャガーの未来が見えてくるというものだろう。(文:西川淳/Motor Magazine 2008年8月号より)



ジャガー XF SV8主要諸元
●全長×全幅×全高:4970×1875×1460mm
●ホイールベース:2910mm
●車両重量:1900kg
●エンジン:V8DOHCスーパーチャージャー
●排気量:4196cc
●最高出力:426ps/6250rpm
●最大トルク:560Nm/4000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:995万円(2008年)

ジャガー XF 4.2プレミアムラグジュアリー 主要諸元
●全長×全幅×全高:4970×1875×1460mm
●ホイールベース:2910mm
●車両重量:1800kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4196cc
●最高出力:304ps/6000rpm
●最大トルク:421Nm/4100rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:870万円(2008年)

ジャガー XF 3.0ラグジュアリー 主要諸元
●全長×全幅×全高:4970×1875×1460mm
●ホイールベース:2910mm
●車両重量:1750kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2967cc
●最高出力:243ps/6800rpm
●最大トルク:300Nm/4100rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:650万円(2008年)

ジャガー XKクーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4790×1895×1320mm
●ホイールベース:2750mm
●車両重量:1690kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4196cc
●最高出力:304ps/6000rpm
●最大トルク:421Nm/4100rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:1150万円(2008年)

[ アルバム : ジャガー XFとジャガー XKクーペ はオリジナルサイトでご覧ください ]

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