■レクサスブランドが影響を与えた「クラウンの立ち位置」
13代目「クラウン」が発売されたのは2008年2月のことです。12代目「クラウン(通称:ゼロクラウン)」は、これまでのクラウンのイメージを刷新し“ゼロ”からのスタートを強調しました。この戦略が功を奏して、12代目「クラウン」は歴代のモデルの中でも大きな成功を収めることとなりました。
トヨタ過去との決別!? 通称「ゼロクラウン」 12代目は“ZERO”からのスタート
その流れを引き継いだ13代目「クラウン」ですが、外見上は非常に保守的な変更にとどまっています。よほどクルマに詳しい人でない限りは、ひと目見て変更点を見つけることは難しいです。13代目は、外観面ではほぼ変更のないキープコンセプトのフルモデルチェンジだったのです。
この時期のトヨタでは、北米向け高級車ブランドとしてスタートしたレクサスを日本導入するという大きな出来事が2005年にありました。
トヨタ「ハリアー」とレクサス「RX」、トヨタ「アリスト」とレクサス「GS」、トヨタ「セルシオ」とレクサス「LS」などトヨタブランドとレクサスブランドで重複するモデルが統合される中で、トヨタブランドの雄である「クラウン」は、その名が消えてしまうことはありませんでした。
しかし、レクサスブランドの登場によって『日本の高級車』としての立場が微妙になってしまったことも事実です。1980年代後半から1990年代にかけて、トヨタブランド内に「セルシオ」が登場したことによって「クラウン」の立場が微妙になりました。今回も同様に身内の“お家事情”の渦中に巻き込まれることになってしまったのです。
一方、新ブランド導入という大きな出来事の中で、変化を好まない層も一定数存在します。13代目「クラウン」は、そうした層を狙うべく、あえて見た目上の変化を少なくしたフルモデルチェンジの道を選んだのです。
■挑戦的な機能が盛りだくさん
しかし、「クラウン」という日本を代表する高級車のフルモデルチェンジが、先代からほとんど進化がないはずがありません。13代目「クラウン」では、外見上の変更よりも、中身の変更が重視されました。
もともと、13代目「クラウン」は、12代目「クラウン」からエンジンやシャシなどの基本構造を引き継ぐという前提で開発がスタートしました。基本構造から見直し、ゼロからのスタートとなった先代モデル(ゼロクラウン)のような開発工程ではなかったのです。
一方で、エンジンやシャシといった部分だけが、クルマの評価につながるような時代ではもはやありません。現代は、環境性能や安全性能まで含めた、自動車の総合性能が求められるような時代になりました。
そういった点で、13代目「クラウン」は大きく進歩しています。環境性能では、「クラウン ハイブリッド」のカタログ燃費を14km/Lに向上。安全性能では、いまでこそ多くのクルマに搭載されるようになった自動ブレーキの原型でもあり、衝突回避を目的としたブレーキアシスト機能「プリクラッシュセーフティ」などをいち早く採用されています。
特に、この「プリクラッシュセーフティ」を中心とする安全装備には、カーナビの地図情報を利用して一時停止交差点でのブレーキをアシストする「ナビ・ブレーキアシスト」や居眠り検知機能を備えた「ドライバーモニター付きプリクラッシュセーフティシステム」といった革新的な機能が与えられています。
当時、これらの機能は、普及するにはまだまだ課題の多い挑戦的な機能ではありましたが、こうしたチャレンジこそ、初代から受け継がれた「クラウン」の魂といえるでしょう。
■大事なのは目に見えない部分
13代目「クラウン」は、見た目こそ先代「クラウン(12代目)」から大きく変化していないように見えますが、実際のオーナーが得られる体験は先代とは比べものにならないほど進歩しているといえます。
クルマが発明されておよそ100年、『走る・曲がる・止まる』といった基本的な部分は、大きく改善してきました。以前は、耐久性や走行性能にメーカーやモデル間で明確な優劣がありました。
技術が進歩した現在では、よほど詳しい人でない限りは「どのクルマもみんないいクルマ」という時代です。だからこそ、自動車メーカーは“モノ”としての優劣だけでなく、そのクルマによってどんな体験が得られるかを重視するのです。
「クラウン」の場合、最優先されることは『日本の道を快適に走る』ことですから、重要なのは乗員の疲労度です。13代目「クラウン」の開発では、ドライバーの尿中アドレナリンを計測して疲労度を計測したという逸話も残っています。
クルマの開発というと、デザインやエンジンスペックなどが花形のように見えますが、現在では目に見えない部分も重視されているのです。
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