かつては多くのバイクに付属していた「車載工具」
2000年代初頭頃までの国産バイクは、もれなく「車載工具」を装備していました。何点かの工具がビニール製の携帯ケースに収められ、シート下などのスペースにゴムベルトなどで固定されていました。
あくまで非常用なので工具のクオリティはいまひとつですが、それでも無いよりは安心です。また1990年代頃までのBMWバイクの車載工具は点数が多く、日常整備に問題なく使えるほど高品質で、パンク修理キットまで付属する充実振りで羨ましく思うほどでした。
ところが、2000年代の半ば頃から日本車・外国車を問わず、車載工具を装備しなくなったり、シートの裏側に六角棒レンチが1~2本だけソレ用の溝にハマっているだけの状況になりました。これではメカに強くバイク整備の心得があったとしても、トラブルに対処できる気がしません……。
出先で修理できるコトは限られている
それではいま一度、車載工具が必要な状況を考えてみましょう。大きな整備は基本的にバイクショップに依頼するし、簡単な整備やカスタムを自分でやるライダーも、出先ではなく自宅のガレージや庭などで行なうので、車載である必要はありません。……と言うより、整備作業を安全確実に行なうなら、はっきり言って車載工具では不足で、相応に揃った工具が必要になります。
というワケで、車載工具が必要になるのは、当然かもしれませんが「外出時のトラブル」です。このトラブルも大別して2種類あります。
ひとつは「故障」で、何かしらの原因でエンジンがかからなくなったり、ブレーキが効かないなどの機能的なトラブルが発生した時です。
ですが近年のバイクは非常に丈夫なので、滅多に壊れません。もちろん日常的なメンテナンスや保管状況も大きく影響しますが、新車で購入して半年~1年くらいなら突然故障することは皆無に近いのではないでしょうか。
バイクも機械なので絶対に故障しないわけはなく、たとえば重要な電子部品(エンジンを制御するECUなど)が突然壊れる可能性もゼロではありません。
しかし、もし外出先でそんなトラブルが起こったら、一般ライダーでは原因を特定するだけでも困難ですし、プロのメカニックで工具がバッチリ揃っていたとしても、部品が無ければ直せません。
もうひとつは、転倒などによる「破損」です。これは転倒の規模によって大きく左右されます。それなりのスピードで転倒してエンジンカバーが割れたり、フロントフォークが曲がった、ホイールが歪んだ等の大きな破損があれば、車載工具レベルでは修理できません。もちろん補修部品も必要になります。
反対に、軽微な「立ちゴケ」でミラーが緩んでしまったような場合は、サイズの合うスパナが1本あれば直せます。ブレーキやクラッチのレバーが折れてしまうこともありますが、ドライバーやスパナでレバー交換できる場合も少なくありません(予備のレバーを持っていれば)。この程度の破損なら、車載工具で対応できるでしょう。
また故障と破損の両方で可能性があるのが、ヘッドライトやウインカーなど「灯火類」のトラブルです。突然電球が点かなくなることもあれば、転倒などで割れてしまう場合もありますが、これを車載工具で直せる・直せないかはランプの種類によります。
2000年代半ば頃まで主流だった「白熱電球」ならば、電球の予備を持っているか、無くてもバイクショップやバイク用品店、クルマ用品店で購入すれば、車載工具で比較的簡単に直せる場合が多いでしょう。
しかし最近主流のLEDランプは、ヘッドライトやテールランプは車種ごとの専用品で、ウインカーもアッセンブリー交換やユニット交換の場合が多く、バイクショップでも部品を在庫しておらず発注・取り寄せになるので、出先での修理はほぼ不可能です。
LEDランプは白熱電球のように寿命(経年劣化)で切れることはあまりありませんが、立ちゴケでウインカーを壊した際などは修理のハードルが高いことも事実です。
愛車にあわせて、最低限用意すれば良いのかも
それでは結局、車載工具を持つべきか否か? 故障でも破損でも、出先で修理できることはかなり限られるので難しいトコロではあります。また、どんな工具を揃えれば十分なのかも疑問です。もちろん工具や予備パーツを大量に持っていれば対処できることは増えますが、積載量にも現実的な限界があります。
そこで判断基準になるのが、愛車が製造された時期や、バイクのタイプではないでしょうか。
たとえば生産から年数が経ったバイクや旧車の場合は、経年劣化による故障が考えられますが、それこそ普段のメンテナンスの影響が大きいので一概には言えません……。ただし昔の2ストロークエンジンのように、乗り方や環境(気温など)で点火プラグがカブる可能性があるなら、プラグレンチや予備プラグを持っていれば安心です。
また前述したように、灯火類が白熱電球タイプなら電球の入手や交換作業が比較的容易なので、2000年代中頃までのバイクなら、それらを交換できる工具を持っていると役立つかもしれません。
そして年代は問いませんが、カウリングやスクリーン、シートカウルなどを装備するスーパースポーツ系やツアラー系の場合は、軽微な立ちゴケでも樹脂製のカウルが割れたりヒビが入ることがあります。コレだけなら走ることに問題ないようにも感じますが、割れて鋭利な断面に触れてケガをしたり、走行による風圧でヒビが広がったり、ともすれば脱落する危険もあります(飛んで他車や歩行者に当たったら一大事!)。
そんな事態を防ぐには、ヒビ割れた箇所にガムテープ(クラフトテープ)を貼ると、ひとまず安心です。他にもタイラップ(結束バンド)での固定もオススメです。ちなみにガムテープはコンビニなどでも購入できるので、常に持ち歩かなくても大丈夫でしょう。
あとは工具の種類ですが、やはり前述したミラーの緩みを処置したり、レバー交換やレバーホルダーの締め直し(立ちゴケでホルダーが動いてレバーの角度が変わってしまうこともありがち)など、あくまで自分で作業できる範囲の工具を持っていれば十分ではないでしょうか。
同じような使用箇所でも車両によってボルトやナットのサイズや種類(6角ボルト、キャップスクリュー、トルクスなど)が異なるので、自分のバイクに合った工具を選ぶことが大切です。
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