ビッグニュースが到来した。カワサキとヤマハ、そしてスズキ、ホンダの国内バイクメーカー4社が水素エンジンの共同開発に関する検討を開始。熾烈な争いを繰り広げてきたライバル同士が手を組み、内燃機関を存続させるために壮大な試みを始める。
文/沼尾宏明、写真/YAMAHA他
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【画像ギャラリー】ヤマハ水素エンジン詳細とカワサキの二輪用直噴エンジンを比較
トヨタとカワサキに加え、マツダ、スバル、続々集う水素仲間
「5月の富士24時間レースより我々自動車業界のカーボンニュートラルにおける挑戦の旅が始まりました。この半年間、スーパー耐久の各戦で、情熱を持った意志ある行動により、エネルギーをつくる、はこぶ、つかう に対しまして、多くの仲間達が自発的に増えてまいりました」
トヨタ・豊田章男社長の発言から始まった11月13日の記者会見には、マツダ、スバル、川崎重工業、ヤマハ発動機の社長という錚々たる面々が登壇した。
この会見は、カーボンニュートラル実現に向け、「内燃機関を活用した燃料の選択肢を広げる挑戦」について共同でアピールするのが趣旨。同日に行われたスーパー耐久第5戦・岡山で実施された。
旗振り役のトヨタは5月のスーパー耐久第3戦を皮切りに、水素エンジンのカローラでレースに参戦を開始。今回の第5戦までに着々と戦闘力を上げている。
川崎重工は、2010年から水素を「つくる」部分と「はこぶ」部分で様々な活動を行ってきた。今回は「つかう」部分での表明で、2018年に世界で初めて成功した水素ガスタービン発電技術のノウハウをベースに、二輪車用や船舶用の水素エンジン開発を進めている(過去記事:バイクにも水素!? カワサキが目論む内燃機関のミライ)。
マツダは今回、次世代バイオディーゼル燃料を使いスーパー耐久に参戦。スバルは、バイオマスを由来とした合成燃料を使用して2022年シーズンST-QクラスにBRZで参戦する。このように豊田社長の発言にあった「仲間」が続々集まっているのだ。
記者会見に登壇した二輪&四輪メーカーの社長たち。右から、川崎重工業の橋本康彦氏、ヤマハ発動機の日髙祥博氏、トヨタ自動車の豊田章男氏、スバルの中村知美氏、マツダの丸本明氏
4社は、カーボンニュートラル燃料の「つくる」「はこぶ」「つかう」選択肢を広げる3つの取り組みをアピール
ヤマハがクルマ用のV8水素エンジンを世界初公開
会場では、世界で初めて披露されたヤマハのV型8気筒水素エンジンも注目を浴びた。展示されたパネルによると、このエンジンはトヨタからの委託で2018年に製作。レクサス・RC-Fなどに搭載される5リッターV8 ガソリンエンジンを改良したもので、最高出力335kW(445ps)/6800rpm、最大トルク540Nm(55kg-m)/3600rpmを発生する。
水素エンジン用に改良された部分は、インジェクター、燃料パイプ、シリンダーヘッド、シリンダーヘッドカバー、チェーンカバー、サージタンクなどで、メインブロックはガソリンエンジンと共通だ。
ミッドシップへの搭載を想定したV8水素エンジン。官能的な排気音も魅力で、8in1集合排気管がハーモニックレーシングサウンドを奏でる
ヤマハの音叉マークをシリンダーヘッドカバー上に設置。カワサキが10月に展示したバイク向け水素エンジンより開発が進んでいる印象だ
トヨタが仲介し、国産バイクメーカー4社のタッグが実現
さらに、この会見で初めて、「国内バイクメーカー4社が水素エンジンを共同開発する可能性について検討開始した」ことも明らかになった。
事の発端となったのはヤマハだ。元々ヤマハは、トヨタ、デンソー、ケン・マツウラレーシングと5年ほど前からクルマ向けの水素エンジンの開発に携わっている。スーパー耐久の水素エンジンが競技レベルにまでメドが立ったことから、「二輪用もやりたい」と考えていた。
その矢先に、カワサキがトヨタと連携し、二輪用水素エンジンの検討をスタート。トヨタが仲介役となり、ヤマハとカワサキが二輪用水素エンジンの共同研究の可能性について検討を始めることに。その後、ヤマハがスズキとホンダに声をかけ、4社協業が検討されるに至った。
引き続きバイクメーカーのみの会見も行われた。右から、スズキの伊藤正義 二輪事業本部長、ヤマハ発動機・日高社長、カワサキモータースの伊藤浩社長
ヤマハの日高社長によると、話が動き始めたのは9月頃で、スズキとホンダに話を持ちかけたのが数週間前。細かいすり合わせをしている時間はなかったものの、共同研究の内容については合意しているという。なお、ホンダは会見に参加しなかったが、これは急なスケジュールによって都合がつかなかったのが理由とのことだ。
協業に関しては、「まだ声かけをした段階」のため、具体的なことは何も決まっていない。今後、各社における技術の取締役やエンジン技術の統括といったレベルの者が集まり、知見を交換していく。
しかし「エンジンは競争領域、メリハリをつけて進めていきたい」と日高社長は話す。つまり、カワサキが培ってきた水素用の燃料タンクを筆頭に、エンジンに燃料を供給する配管関係、吸気デバイスといった周辺技術は共同研究するものの、従来通りエンジン本体は各社の持ち味を活かした競争領域になる模様だ。
各社の単独研究では実現する見通しが立たない。それほど水素エンジンは未知の技術と言い換えることができる。
移動の足は電動、趣味性が高いバイクに内燃機関を残したい
水素エンジンは、250cc以上の趣味性が高いバイクへの採用を想定している。125cc以下のコミューターバイクは、走行距離やパワーよりも実用性が重視されるため、ユーザーも電動化を受け入れやすい。一方、それ以上のクラスでの電動化は難しい部分があるという。
「大型になるにつれ、バッテリーを積むスペースが必要になる。現在のエンジンスペースにバッテリーとモーターを組み込んだとしても重くなり、エネルギーも必要になる。今のユーザーがなぜ趣味のバイクに乗っているのか考えると、この領域は電動化が難しい」(日高社長)
また、社内に“内燃機関推し”の技術者が存在し、内燃機関に関連したサプライヤーも多い。4社で共用する部品も多く、協業することのメリットはサプライヤーにも大きい。そこで、バイクに内燃機関を残す可能性を追求する手法の一つとして、水素エンジンが選ばれた経緯もある。
「企業としては2050年にカーボンニュートラルを目指すと発表しているが、その一方で社名に“発動機”と入る我々は内燃機関への思いも人一倍強い。水素エンジンはそれを両立できる可能性を秘めている」(日高社長)。さらに、水素エンジンを研究することで、合成燃料やバイオ燃料などのカーボンニュートラル燃料対応エンジンの開発ハードルが下がると述べた。
砂糖の生産が盛んなブラジルでは、ホンダやヤマハからバイオエタノール燃料対応のバイクが既に発売中だ。写真はホンダ・XRE300
商用化へのハードルはクルマより高いが、10年以内には明確に?
もちろんバイク用水素エンジンの開発はハードルが高い。最も頭が痛いのは水素タンクだ。スーパー耐久参戦の水素エンジン車は全容量180Lもの水素タンクを搭載するが、充填1回あたりの航続距離は約60km。バイクは搭載スペースに限りがあり、実現のハードルが高い。
また、クルマで水素エンジンが成立したとしても、使う回転数の領域やサイズが異なるため、すぐバイクに転用できるわけではないという。
とはいえ、「燃料が変わってもエンジンの特性は変わらない。水素に関してはわからないことも多いが、今後研究が進めば見えてくる。その中で新しいエキサイティングな商品をつくりたい」と日高社長が展望を見せた。
水素で発電する燃料電池車のスズキ・バーグマンFC。2017年には公道テストも開始していた。水素+電動も選択肢の一つだ。「現在も開発は継続中」とスズキ・伊藤二輪事業本部長
電動、水素、合成燃料など動力源の選択肢がある中で、「一車種のバイクで様々なパワートレインが選べるのか」といった質問も記者から出た。これに関しては車種のキャラクターに応じた最適な技術を選択することなるようだ。
「どのパワートレインがどの車種に向いているかは、現段階では言えない。ここ数年から10年以内にはそこをハッキリと決める覚悟で開発をやっている」と日高社長が述べ、「代替燃料は供給のインフラが重要。ブラジルはエタノール、日本は水素が先行するかもしれない。インフラと技術的な特性との組み合わせで決まってくる」とカワサキ・伊藤社長が話すように、将来のインフラ整備との兼ね合いも動力源普及の決め手になる。
したがって、商用化の目標時期に関してもまだ「置いていない」のが現状だ。全てこれからというのが正直なところだが、バイクに関してはクルマより脱炭素化への道筋が不透明だった。今回の会見では、「125cc以下のコミューターは電動、趣味性の高い大型バイクは内燃機関」という一定の道筋が見えたのは収穫だ。豊田社長の言う「仲間」がさらに大きな輪となり、一致団結して高いハードルを越える姿を見守りたい。
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発電機から船舶、航空機と様々な分野では内燃機が必要だし開発は頑張って下さい