日本では、2L水平対向ターボエンジンを搭載した最後のモデル「ファイナルエディション」を限定発売し終売したスバル『WRX STI』。なのだが、米国部門のスバルオブアメリカは2020年12月10日、2021年モデルの『WRX』と『WRX STI』を2021年3月に米国市場で発売すると発表。
搭載するエンジンは2.5L水平対向ターボエンジン。WRXが「ベースモデル」「プレミアム」「リミテッド」、WRX STIが「ベースグレード」「リミテッドウイング」「ロープロファイル・トランクスポイラー」を設定するとした。
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なぜ日本では終売したのに、北米だけ2021年モデルを登場させたいのか!? 新たに登場する2021年モデルがどういったモデルなのか? スバルが抱える日本と北米の事情の違いについて、日米を拠点に世界各国で自動車産業の動向を取材する桃田健史氏が考察していく。
文/桃田健史
写真/SUBARU、編集部
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■「アメリカファースト」の印象色濃く
なぜ日本では消えて、アメリカで存続するのか?
スバルのアメリカ法人、スバルオブアメリカ(SOA)は現地時間の2020年12月10日、『WRX』と『WRX STI』の2021年モデルを2021年3月に発売すると発表した。
WRX(写真右)が「ベースモデル」「プレミアム」「リミテッド」、WRX STI(写真左)が「ベースグレード」「リミテッドウイング」「ロープロファイル・トランクスポイラー」を設定するとした
一方、日本市場では周知のとおり、第46回東京モーターショー(一般公開:2019年10月25日~11月4日)に『EJ20 ファイナルエディション』プロトタイプが公開され、同年12月23日まで限定555台の注目受付を終了した。
市場の違いや、仕様の違いなど、さまざまな理由はあるにせよ、アメリカでのWRX STI新モデル登場のニュースを日本人が聞くと、WRX STIの日米におけるスバルの商品戦略に対して、改めて疑問を持つユーザーが多くいるのではないだろうか。
その疑問を解くカギとして、まずSTI(スバル・テクニカ・インターナショナル)の基本方針からご紹介したい。
STI本社(東京都三鷹市)で平岡泰雄社長に2020年7月、STIの過去・現在・未来について詳しくお話を聞いたことがある。インタビューの際、スバル本社(東京都渋谷区恵比寿)で、EJ20 ファイナルエディションの広報車を借りてSTIに向かった。
■STI平岡社長は「スバルフィロソフィーの定着を目指す」と強調
まず、「STIブランドの現状」について、業界の現状を筆者なりに考察した。
メーカー系ハイパフォーマンスブランドは2000年代以降、大きく変化してきた。海外ではダイムラーによるAMG内製化、BMW・Mの多モデル化、さらに国内ではレクサスFシリーズの開始などがプレミアムブランドでの正規チューニングが当たり前となり、通常ラインアップに加わった。
一方、STIと三菱ラリーアートは世界ラリー選手権(WRC)を起源として、ほかのメーカー系ハイパフォーマンスブランドとは別の道を歩んできた。その上で、STIはいま、独ニュル24時間レースを軸足としたブランドイメージを継承しており、そうした中でSTIとスバルの関係性がどう維持されているのか?
STI はラリー技術を起源とした「タフさ」を売りに、日本国内では一定の知名度を得てきた。その中でも『WRX STI』はそのイメージを体現し、所謂『スバリスト』から憧れの的となっている
これについて平岡氏は、STIはスバルの100%小会社であり、事業計画はスバルとの協議を上に進めるのが基本であること。レース参戦の知見をSTIが、またアイサイトに代表される先進安全技術での知見をスバルが、というように互いの得意分野を尊重すること。なかでも、STI SportsについてはSTIのサスペンションセッティングに関するデータがフル活用されていることを指摘した。
次に、STIブランドとしての認知度についても聞いた。
この点については、2019年に国内で数百人を対象とした調査を行った結果、「STIに興味があるが、自身では操れないシロモノのようなイメージが残る」として、試乗、そして購入へと結びつかないケースがあることがわかったという。
そうした中で、「STIフィロソフィー」として掲げている、STIが目指す「速いが、人にやさしく、例えSシリーズでも長距離乗って疲れないクルマ」という認識をさらに高めていきたいと主張した。
こうしたSTIブランドの訴求は着実に進めていくことと同時に、スバル本体の販売事業計画の中で、STI量産モデルの在り方を、仕向け地(販売地)別に考えていく必要があるとも指摘した。つまりそれは、日本市場とアメリカ市場で異なる事業戦略を取るという意味である。
■アメリカでのスバルとSTI
米国向けSTIシリーズの第3弾として投入された『S209』。オーバーフェンダーによるボディのワイド化で265/35R19タイヤを納め、それに見合うだけの高出力化や足まわり強化を行っている
では、アメリカ市場でのSTIを含めたスバルブランドの存在について、1980年代から2020年代まで、アメリカ各地での実体験を基に振り返ってみたい。
1990年代まで、アメリカでのスバルブランドのイメージは、日本でもスバルの古典的な商品イメージである、降雪地域での生活四駆だ。具体的な地域は、西海岸のオレゴン州とワシントン州、中部ではコロラド州、中東部ではミシガン州、ウィスコンシン州、ミネソタ州、そして東部ではニューヨーク州、ニューハンプシャー州、メーン州である。さらに北米大陸としたはカナダ全土を含む。
こうした米北部地域から南下した、カリフォルニア州、テキサス州、ジョージア州など
サンベルトと呼ばれる自動車販売台数が多い主要マーケットへの販売促進活動が2000年代中盤から本格化した。それに伴い、商品企画を大きく見直した。
これが、現時点まで続く、スバルの事業方針であるアメリカシフトであり、スバル成長の基盤となっていることを改めて言うまでもないだろう。
この2000年代、アメリカシフトが本格化する少し前、アメリカでは日系チューニングカーブームが到来した。映画「ワイルドスピード(原題:ザ・ファスト・アンド・ザ・フューリアス)で描かれた世界である。そのブームの真っただ中に、スバル・インプレッサWRXが北米上陸。筆者は当時、ロサンゼルスでWRXを購入して日常利用していた。
その後、WRX STIが上陸し、ハイパフォーマンス系スバルの商品イメージでの訴求が始まった。
日本国内向けの『WRX STI』は走りの本質をさらに磨き上げるため、現行型の販売を終了したようだ
だが、日系チューニングカーブーム終焉後、ラリーやニュル24時間レースの認知度があまり高くないアメリカでは、STIに対するブランドイメージがなかなか定着しなかった。
実際、平岡氏も2020年7月時点で「アメリカのSTIは、一部に熱狂的なファンがいるのだが、いまだにSTIはブランドとしてではなく、モデルグレードとしての認知にとどまっている」と指摘している。そのために、『S209』を中心にSTIブランド全体の底上げが必須だという。
そうした点を考慮すれば今回、2.5Lユニットを搭載したWRX STIを2021年モデルとして継続的にアメリカ導入することは、スバルおよびSTIとしては当然の流れだと思う。
アメリカ市場では一般的に、フルモデルチェンジやマイナーチェンジといった考え方ではなく、毎年イヤーモデルとして商品改良する商法であり、2021年モデルについても、全米スバルディーラーからの各種要望を踏まえた細かい改良にとどまっている印象がある。
こうしたアメリカ市場と比べて日本では、STIの商品改良とは走りの本質に根差した本格的な技術進化を求める声が多く、そのためにEJ20ファイナルエディションが存在した。
日本向け『次期WRX STI』の登場は、いましばらくの時間が必要だ。
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みんなのコメント
全車種の燃費性能が目標燃費より劣るスバル車のラインナップではWRX STIを販売したくてもできない状況になったから。
日本は2030年代の電動化のムードが増してきているから、スバルの高性能スポーツモデルの旨みは無くなりつつある。