IoTにおける進化の早さは当然のことながらクルマで活用される「テレマティクスサービス」へも大きな影響をもたらす。その進化には驚くばかりだが、その一方で静かに終了したサービスも存在する。
その中でもひそかに大打撃となっているのが「G-BOOK」サービスの終了だ。20年間先進的なテレマティックスサービスをけん引してきたが、設備の老朽化によりサービスが終了となった。
これぞ永遠の別れ!! さらばG-BOOK!! 先進的カーナビの終焉は呆気ないものだった
これによって愛車の機能の一部が使えなくなってしまった筆者の実体験と悲哀、そして中古車への影響も考えてみた。
文/高山正寛、写真/高山正寛、トヨタ、ホンダ
■それは1枚のハガキから始まった
自宅に届いたハガキ。トータルで3回送られてきた。この辺の手厚いフォローはさすがトヨタだ
筆者の愛車はトヨタ・プリウスPHVの旧型(ZVW35型)である。購入からこれまで約3万キロを走り、EVモードも併用することで生涯燃費は29.2km/Lと非常に満足している。
そして満足度を上げたもうひとつの理由は(購入の決め手になった)トヨタのテレマティクスサービスである「G-BOOK」を搭載した純正カーナビが搭載されていたからだ。
使える機能に関しては後述するが、出先からでも車両へのアクセスが可能など、2013年式の車両としては先進性の部分でも満足できるものだった。
長く乗りたい、と思っていた2021年2月のことだった。自宅に1枚のハガキが届いた。
表面に「重要」と書かれた文字を見て嫌な予感はした。もちろんその脇にも書かれてはいたが、それは的中した。
「2022年3月31日をもちましてG-BOOKサービスは終了となります」
ああ、やはり来たか……。いつかは来ることだけど、もう少し頑張ってサービス継続して欲しかったな、そんな事を考えながら最後の日までサービスを使い倒そうと思った。
■終了の理由は老朽化によるもの
購入した頃のG-BOOK対応純正HDDナビゲーションシステム。現在でも通信さえ繋がれば十分現役だ
送られてきたハガキにも書かれていたが、サービス終了の理由は、
・システムの老朽化
・サービスの施設管理が困難になった
この2つがメインのようだ。
上記の理由はかなりざっくりとしたものだが、大きな原因は通信をつかさどる通信モジュール「DCM」にある。
G-BOOK自体は2002年からサービスを開始しているが「DCM」は基本au(KDDI)の通信網を使っている。
ただこの通信網、当時の“3G”を使っており、KDDI(沖縄セルラーも含む)がサービスを終了することで、G-BOOKやレクサスの「G-Link」の一部車種(2016年以前のモデル)もサービスを終えることになったことが大きな理由だ。
それでも実際使っていた身としては通信速度の遅さで不便を感じたことはないし、よく20年近くサービスを継続してくれたな、という感謝の部分もある。
そして運命の日はやってきた……。
■正直ダメージがデカすぎる(泣)
3月31日の夜に最後の別れ(通信接続)を行い一度就寝。そして翌日の午後にカーナビ(G-BOOK)にアクセスしてみた。
最初に言っておくとカーナビ自体はこれまで同様に使える。ただ厳しい言い方をすれば「ただのカーナビ」である。
G-BOOKサービスは終了したことで使えなくなった機能は以下の通り(全てではない)。
・プローブ情報を活用して渋滞回避も含めより緻密なルートを計算できる「Gルート探索」
・地図(部分)更新が行える「マップオンデマンド」
・オペレーターサービス
・充電ステーション探索
・ヘルプネット
この他にも写真にあるように「G」マークのあるサービスは基本すべて使えなくなってしまった。
ただ「マップオンデマンド」に関しては通信では更新できなくなったが、ネット経由(ディーラーでも可能)で地図更新DVDを注文すれば可能だ(2000円:税込/送料/メディア代含む/代引き)。
ちなみに筆者はG-BOOKサービス終了が確定した後、わざわざディーラーで「地図更新サービス」を申し込んだ。ゆえにサービス期間は2023年6月まで残っているのだ。だからこそカーナビの命とも言える「地図更新」にはこだわっている。
この他にも情報サービスとして「高速道路の渋滞情報と予測」機能やCDからHDDに音楽をリッピング(保存)したあと、楽曲データを記録できる「Gracenote(グレースノート)」も元々HDDにデータが入っていない新譜などには対応しなくなっている。
ここまでであれば正直「耐えて使ってもいい」と思っていた。しかし最後の最後に「これは厳しい~」と思わせる事象が発生したのである(大げさ)。
■PHVだからこその機能が使えなくなった
通信を使った機能は多彩、ヘルプネットにも対応していた
今回この記事を書くにあたり一番ショックだったのが以下の機能が使えなくなったことだ。
プリウスPHVには充電状況をスマホで確認することができる「eConnect(イーコネクト)」というサービスに対応している。筆者の車両は普通充電のみだが、それでも充電中は状況を随時チェックすることで少し早めに車両に戻り、充電待ちをしている人に対し、少しでもスムーズに入れ替えを行うようにしてきた。
ZVW35型はゼロから満充電までカタログ上約90分だが、実際はゼロから充電することは少ないので1時間位で終了することもある。さらにスマホでの確認を怠ってもメールやApple Watchへの連絡も入るので利便性は抜群だった。
そしてもうひとつ、エアコン(冷房)のオン/オフを時間指定も含めて行える「リモートエアコン」。これも使えなくなった。
夏場の炎天下で事前にエアコンで車内をクールダウンできるこの機能は家族にも好評でさらにPHVのバッテリーで動かせるのでエンジンもかからない。この点も気に入っていた。
くどいようだが、要は通信が使えなくなったことでここまで語ってきたサービスが全部使えなくなったわけだ。
■カーナビだけは交換したい、しかし……
通信が使えなくなったことで、当たり前だったPHVとの生活に不便が生じてきたのは事実である。
しかし仕事柄というか、テレマティクス機能を持っていないカーナビを使い続けるのは精神的に落ち着かない。
ならばカーナビだけでも交換しよう!と考えたのだが、人生そんなに甘いもんじゃなかった。
筆者のプリウスは元々メーカー純正の「G-BOOK対応HDDカーナビ」が標準装備されていた。普通に考えればこれを取り外して交換すれば良いだけなのだが、某市販カーAVメーカーの「適合表」を見ると「このグレード(Gレザーセレクション)は純正カーナビが装着されているので適応不可」という表記がされていた。
最近の市販カーナビの多くは純正のステアリングリモコンにも対応しているので、その点は問題ないはずだし「CAN-Bus(車内LAN技術の一つ)」もインターフェースユニットを入れれば対応できるのではないか、と思っていた。
実際、メーカーオプションのG-BOOK対応純正ナビ(後述するWiLLサイファなど)を装着していてもそれを外して市販ナビを換装した強者もいる。
そこで自分で考えるよりプロに分析してもらおうと、数社(数店)のプロショップに「取り付けは可能なのか」というメールを一斉に出してみた。
■まさかの盲点にがっかり
筆者のプリウスPHVは最上位の「Gレザーパッケージ」、HDDナビやHUDが標準装備となる
プロショップからの返事は「その気になればやれますが、かなり高額になる」「実車を見ないと何とも言えない」、前述した市販カーAVメーカーの記載と同じで「そのグレードは取り付け不可」というものまで様々だった。
そして某ショップからの返事のひとつに「そこか~」と思わず肩を落としてしまった。
そのショップによると「このグレードにはシンプルパーキングのような車庫入れ等をサポートする機能が付いているはずですが、これを機能させる「舵角センサーからの信号」がナビに接続されているはずです。
またHUD(ヘッドアップディスプレイ)にもナビ案内が出せますが、ナビを交換するとこれらの機能は全て使えなくなります」とのことだった。
それでも交換できないのか?と食い下がってみると「HUDは使わなくても済むが、舵角センサーを潰すわけにはいかないので安全性の面からもやめたほうがいい」とのこと。
ちなみに舵角センサーはギアをバックに入れた際、ディスプレイ上に進行ラインが表示させる機能もあるが、ショップによると「バックカメラだけならば連動できる変換アダブターがあるが、シンプルパーキングのような機能はステアリング操作まで関わってくるし、各種センサーとの連携もあるので、やはりやめた方がいい」とのことだった。
■今後発生しそうな“テレマ難民”にはどう対応すればいいのか
ここまで説明してくれたショップにも感謝だが、メーカー純正のテレマティクスサービスの利便性を今まで享受してきたユーザーにとってサービス終了は死活とまでは言わなくても深刻な問題だ。
実際、IoTの進化に伴い、各自動車メーカーのテレマティクス環境は転換期に入っている。
・トヨタ→G-BOOKからT-Connect、そして次世代型への進化(OTA機能の搭載など)
・日産→カーウイングスから「NISSANConnect」へ
・ホンダ→インターナビから「Honda CONNECT」へ
G-BOOKは終了したが、他社のサービスは車種ごとに現在並列で運用している、しかしいずれ現在最新のサービスに完全スイッチすることは容易に想像できる。
また今後を考えると5G通信が車載側に実搭載(運用)された際にはさらなるサービスの進化(自動運転への応用も含む)も期待できるが、筆者のように現在これらのサービスを使っている現ユーザーは今後“テレマ難民(筆者命名)”になってしまう可能性がある。
また中古車の購入を考えている人にとって、これらのシステムが搭載されている場合、どう選べば良いのだろうか。
■中古車選びはあえてシステム非搭載グレードを狙ってみる
旧型ノア/ヴォクシーなどに設定されている純正ディーラーオプションナビ。DCMだけなく個人所有の携帯電話を接続して「T-Connect」なども使うことができる
G-BOOKサービスは冒頭に述べたように2022年3月末で終了したが、実は先行してG-BOOKを標準搭載した「WiLLサイファ」は2019年3月末でサービスを終了している(システムが異なるため)。
また極めて流通量は少ないが、マツダやSUBARUも一時期G-BOOKを採用していたこともあるのでそれらもチェックしておいたほうがいいだろう。
こうなると中古車選びの際、G-BOOKが搭載されているモデルはテレマティクスが使えないので購入前には一度立ち止まって考えた方がいいだろう。
工場装着のカーナビは昨今も含め、インテリアのデザインにこだわった結果、従来までの「DIN規格」ではない車両も増えてきた。筆者のようにセンサー関連の問題がなく、交換が可能だとしても、その際には専用取り付けキットなど導入時のコストアップも予測される。
もちろん、この場合はポータブルカーナビや人気のスマホナビを使うという手もあるが、せっかくカーナビが付いているのにテレマティクスが使えないのは厳しい。
ゆえに中古車選びの際にはあえてテレマティクス非搭載で、2DINサイスのユニット装着が可能、またはディーラーオプションのモデルが装着可能かを検討するという考え方をオススメする。
メーカーごとの差や取り付け可能車種の制限はあるが、ディーラーオプションにはテレマティクス対応(トヨタで言えばT-Connect)のカーナビも用意されているので取り付けスペースが確保できるのであれば、ディーラーに相談してみるのも手だ。
もちろん、2DINスペースが確保できるのであれば市販カーナビのテレマティクス対応モデルは選択肢も多く、コスパも高いのでこちらもオススメだ。
逆に「もうテレマティクスはいらない、でもこの(純正)カーナビは使い続けたい」というのであれば、地図の更新が可能なのかをメーカーのホームページ等で確認することをオススメする。
地図更新だけであれば概ねだが新車登場時から10年位はフォローしてくれるケースもある。ちなみに筆者のHDDナビの場合は技術料込みで2万3100円だった。
冒頭に述べたように筆者の場合、現在純正カーナビも使ってはいるが、タブレットやスマホを並列で使っている。しかしこれらの機器は夏場を迎えるにあたり、熱問題のリスクも抱えることになる。
個人的な気持ちとしてはこのストレスから脱出するためには車両自体を入れ替えるのも視野に入れざる得ないのかもしれない。先立つものは無いが……(号泣)。
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