日産が「やったぜ! 日産キャンペーン/3つのカテゴリーで2018年上半期(2018年1~6月)販売台数日本一」と、大々的に宣伝し、「50万円の購入資金」または「クルマ1台が当たる」キャンペーンを2018年9月29日~11月30日まで行っている。
3つのカテゴリーとは、2018年上半期の登録車販売台数ナンバー1がノート。次にセレナがミニバン販売ナンバー1、3つ目がSUV販売ナンバー1のエクストレイルである。
なぜ!? あのクルマがいない事情と本命 日本カー・オブ・ザ・イヤー10ベスト発表
まさに飛ぶ鳥を落とす勢いに感じられる日産車の販売だが、この3台は本当に売れているのか? そのほかの車種はどうなのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が、日産車の販売状況を考察してみた。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部
■ノートとセレナの大ヒットぶり!
まずはノートが「登録車販売台数ナンバー1」だという。軽自動車を含めると、N-BOXとスペーシアに負けるが、登録車(小型/普通車)に限れば2018年上半期の1位だ。2位はアクア、3位はプリウス、4位はセレナであった。
その勢いは衰えていないのか? 直近の2018年10月の販売台数を見ると、以下のようになる。
1位/アクア:1万405台
2位/シエンタ:9840台
3位/ノート:9740台
4位/プリウス:8792台
5位/カローラ:8644台
6位/ヴォクシー:7831台
7位/フリード:6751台
8位/クラウン:6715台
9位/フィット:6534台
10位/ルーミー:6440台
直近の2018年10月こそ3位に甘んじたが、6月と7月が2位、8月と9月が1位になるなど、失速しておらず、好調を維持している。
2つ目のカテゴリーとして、セレナを「ミニバン販売ナンバー1」として宣伝している。販売台数を見ると、ミニバンの2位のヴォクシーに8393台という大差を付けての堂々の1位。マイチェンで2列シート車が売り上げを伸ばしたのか、3位にシエンタが入り、4位がフリード、5位がステップワゴンだ。
直近の2018年10月の販売台数では以下のようにヴォクシー、フリードに抜かれミニバン3位となったが、6月~9月までミニバン1位の座を死守していた。
1位/ヴォクシー:7831台
2位/フリード:6751台
3位/セレナ:6409台
4位/アルファード:5818台
5位/ノア:4584台
6位/ステップワゴン/4341台
7位/ヴェルファイア:3788台
8位/エスクァイア:3498台
9位/オデッセイ:1312台
10位/デリカD:5:983台
3つ目のカテゴリーはエクストレイルで「SUV・4WD販売ナンバー1」だという。どこがナンバー1なのかと思うが、条件が「SUV・4WD」であり、日本自動車販売協会連合会の区分に基づく「オフロード4WD」の1位なのだという。
そこで一般的なSUVのカテゴリーの車種を集計してみると、上記の表の通り、1位がC-HR、2位がヴェゼル、エクストレイルは3位となった。
エクストレイルは前輪駆動をベースにした4WDで、副変速機も備えないから、一般的にはC-HRやヴェゼルと同じシティ派SUVに属する。
オフロード4WDは副変速機などを備えたランドクルーザー、同プラド、パジェロ、ジムニー、同シエラと考えるのが一般的だが、エクストレイルは基準が違うらしい。このナンバー1には無理があるかもしれない。
直近の2018年10月のSUV販売台数を見るとエクストレイルは5位。2018年下半期および2018年通年でSUVナンバー1になれるのか注目していきたい。
1位/C-HR:5862台
2位/ヴェゼル:5061台
3位/フォレスター:3985台
4位/ハリアー:3763台
5位/エクストレイル:2850台
6位/ランドクルーザー:2385台
7位/CX-3:1556台
8位/CX-8:1396台
9位/CR-V:1129台
10位/CX-5:1118台
蛇足だが、最近の日産はナンバー1が好きで、以前はリーフが「EV(電気自動車)販売ナンバー1」と宣伝した。ほかのEVは、乗用車では設計の古いi-Miev程度だから、リーフが1位になるのも当然だ。
もっとも最近の日産は、シリーズ型ハイブリッドのノートe-POWERを「電気自動車のまったく新しいカタチ」と宣伝する。大量に売れるノートe-POWERを電気自動車に位置付けたから、リーフの「EV販売ナンバー1」は使っていない。
■日産車全体の直近販売台数を見ると3位~4位!
ここまで「販売ナンバー1」をそろえるのに、さぞや相当販売台数が伸びていると思うのだが、商用車を除いた乗用車の2018年1~10月の販売台数を見ると、登録車(普通車+小型車)単独では、トヨタ、ホンダに次ぐ3位だった。
まず今の国内販売では、37%が軽自動車で占められ、トヨタと日産を除くホンダ、スズキ、ダイハツは軽自動車で売れゆきを伸ばすことが挙げられる。
ホンダではN-BOX(スラッシュを含む)がホンダ車全体の33%を占めて、軽自動車まで枠を広げるとホンダ車の約半数に達する。
日産もデイズと同ルークスに力を入れるが、他メーカーはそれ以上に軽自動車が強く、これが好調に売れて総台数を押し上げた。
そうなると軽自動車が売れる代わりに登録車は下がり、日産車が上位に入る余地を与えている。日産の軽乗用車の販売台数を見ると、ダイハツ、スズキ、ホンダに続いて4位だった。
登録車シェアの45%をトヨタ(レクサスを含む)が握り、日産は13%だ。日産が登録車市場で2位といっても、一強多弱の後者に含まれる。
要は日産が登録車で好調に見えるのは、国内の売れゆきが軽自動車中心に移行した結果にすぎない。
イメージ的にはずっと日産は2位メーカーと思っていたのだが、登録台数と軽自動車を合わせた乗用車の販売台数の総合順位は4位だから「販売台数ナンバー1」を連呼するのは少々空しい気もする。
■ノートが登録台数ナンバー1になった理由
ノートが登録台数ナンバー1になった理由として、以前は登録車の販売1位を競っていたプリウスとアクアの売れゆきが、最近になって下がったことも挙げられる。
アクアの発売は2011年末だから、今では約7年を経過する。売れゆきが下がって当然で、むしろそれでも販売上位に喰い込んでいるほうが立派だ。
販売1位のノートも2012年の発売だから古いが、e-POWERを2016年に追加して、今ではノート全体の圧倒的多数を占める。ノートe-POWERという新型車を発売したようなものだから、ハイブリッド車として古くなっていたアクアに勝てた。
両車を比べると燃費はアクアも優れ、ボディが軽いから動力性能は十分だ。背が低く走行安定性も良いが、比べれば動力性能はノートが高く、静粛性も優れている。さらにノートは前席に加えて後席も広く、大人4名が乗車しても快適だ。機能はノートが少し勝る。
そしてノートe-POWERは宣伝が巧みだった。「電気自動車のまったく新しいカタチ」と銘打って関心を集め、S/エコモードでは回生充電の効率を向上させた。
アクセルペダルを戻せば即座に回生による減速が生じるため、アクセル操作だけで速度を自由に調節できる。この機能はユーザーによって馴染みやすさが異なるが、ノートe-POWERでは便利な先進技術と宣伝して人気に結び付けた。
そしてアクアの設計が古くなり始めたタイミングでノートe-POWERを発売したから、販売合戦で勝つことができた。
もうひとつの理由に、トヨタ車では緊急自動ブレーキを作動できる安全装備の遅れがあった。トヨタセーフティセンスCは遅れて装着されながら、歩行者を検知できない。最近になって改良を開始したが、安全装備の遅れもアクアがノートに差を付けられる一因になった。
■プリウスの自滅が原因かも
プリウスは2015年12月の発売だから設計が新しく、トヨタセーフティセンスPは発売時点から標準装着されて歩行者も検知できた。JC08モード燃費は売れ筋グレードが37.2km/Lに達する。ノートe-POWERは大半が34km/Lだから、プリウスはボディが大きいのに燃費数値で上まわった。
さらにプリウスは現行型でプラットフォームを刷新したから、走行安定性と乗り心地のバランスも良い。ノートe-POWERは1.2Lのノーマルエンジン搭載車に比べてボディが170kgほど重く、走行安定性では無理が生じている印象だが、プリウスなら違和感はない。
このように商品力が高いのに、プリウスの売れゆきが伸び悩んだ理由として内外装のデザインがあった。ヘッドランプの細いフロントマスク、テールランプを縦に配置したリアビュー、白黒のコントラストが強いインパネなどが不評だった。プリウスの客層がノートe-POWERに流れた、という見方もできるだろう。
そしてプリウスの人気低迷が目立ってきた2016年12月に、ハイブリッドシステムやプラットフォームを共通化したC-HRが発売されて好調に売れたから、ますます顧客を一層奪われた。
だが、2018年12月7日にプリウスがマイナーチェンジして巻き返すことが予想されるため、ノートは安穏とはしていられないだろう。
■セレナがミニバン販売ナンバー1になった理由
次はセレナについて見てみたい。発売は2016年8月だから、2014年1月発売のヴォクシー/ノア/エスクァイアに比べると設計が新しい。しかも2018年2月にe-POWERを加えたから、売れゆきに一層の弾みが付いた。
セレナの特徴に優れた居住性も挙げられる。標準ボディが5ナンバーサイズに収まるミドルミニバンでは、セレナは車内が最も広くて快適だ。
特に3列目に余裕があって大人の多人数乗車にも適する。シートアレンジも豊富だ。緊急自動ブレーキもセレナはヴォクシー3姉妹車よりも先進的で、最初から歩行者検知を可能にした。運転支援技術のプロパイロットを「自動運転」と宣伝したことでも注目を浴びた。
ただし、セレナのプラットフォームは従来型と共通で、床はヴォクシー3姉妹車に比べると約70mm高い。セレナは乗降性が劣って高重心だ。そのために操舵感が曖昧で、プロパイロット作動時には、直線路でも制御を受けるハンドルが左右に振られやすい。
■e-POWER効果がいつまで続くのか?
また2018年上半期の車名別登録台数ランキングで、セレナは5万6095台を登録してミニバンの1位になったが、ヴォクシー/ノア/エスクァイアの3車種を合計すると9万8465台だからセレナの登録台数を大幅に上まわる。そればかりか登録車で1位になるノートの7万3380台も超えていた。
あくまでも車名別だからノートやセレナが1位に違いはないが、トヨタ車では基本部分を共通化した姉妹車の台数を合計すると、販売ボリュームが大幅に伸びることがある。
以上のようにノートはe-POWERの効果と、アクアの設計が古くなったり、プリウスのデザインが不振なことを追い風に売れゆきを伸ばした。セレナもヴォクシー3姉妹車に比べて設計が新しく、安全装備も先進的で、e-POWERを加えたことにより人気を得た。
■エクストレイルの人気の理由はどこにある?
エクストレイルは、前述の「SUV・4WD」で販売1位としたことに無理が伴うが、人気車であることに変わりはない。
4WDを主力に据え、シートや荷室には防水加工を施し「タフギア」という屋外でハードに使える機能を表現した。最近はシティ感覚のSUVが増えたが、エクストレイルのタフギアは、このカテゴリーの本質でもあるだろう。
今はジムニーが人気を集め、ジープブランドでもラングラーアンリミテッドが売れ筋だ。原点回帰というか、SUVの本質を重視する消費動向が見られ、エクストレイルはそこにハマった。SUVのツボを押さえている。
■新車をあまり出さない日産
これらの日産車が売れた最後の理由は、ほかの日産車の設計が古くなり、買う気にさせる車種が減ったことだ。
日産にはかつてコンパクトカーのティーダやティーダラティオ、SUVのデュアリス、ワゴンではウイングロードやアベニールなどが用意されて相応に売れていたが、今はすべて廃止された。
コンパクトカーのキューブやマーチは購入可能だが、発売から8年以上を経過して、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備も備わらない。ジュークには追加されたが、発売から8年以上を経過した。
さらにエルグランド、スカイライン、フーガなども設計が古く、歩行者を検知できる緊急自動ブレーキも備わらない。こんな状態だから、乗り替える車種がなくて困っている日産車ユーザーが大勢いる。
ノートがe-POWERを追加して売れゆきを伸ばしたのは、まさにこの需要の受け皿になったからだ。販売店によると「普通のノートでは物足りなくて購入する気分になれないが、付加価値の高いe-POWERなら、買ってもいいと判断するお客様が多かった」という。
そのためにここで取り上げたノート+セレナ+エクストレイルの登録台数を合計すると、日産の登録車全体の43%に達する。今の日産は、実質的に車種を大幅削減したのと同じ状態だ。
■もう少し日本のことを考えてほしい!
今の日産は世界中でクルマを売るから、国内の市場規模と将来性を考えれば、この程度と割り切っている。
e-POWERの開発も、取り扱い車種を増やさずに投資を抑え、リーフのメカニズムも活用することで最大の効果を得ようとした結果だ。
さらにいえば衝突被害軽減ブレーキを「自動ブレーキ」、運転支援技術を「自動運転」、シリーズハイブリッドのe-POWERを「電気自動車のまったく新しいカタチ」と広告したり、「販売台数No.1」を連呼するのも、限られた予算で最大の効果を得ようとした結果だろう。
これはかなり痛々しい。青くさいことをいえばクルマは夢を売る商品だから、何事にも余裕がほしい。「自動ブレーキ」や「自動運転」は、いうまでもなく交通事故の危険を招く表現だ。
今の新車需要は70%以上が乗り替えに基づくから、大半のユーザーがクルマに詳しい。用途や予算に応じて的確に選ぶから「販売台数ナンバー」と聞いて「それを買おう」と考えることもない。もう少しマトモな宣伝をしてほしい。
この時には開発者の意見を積極的に聞くべきだ。「自動ブレーキ」や「自動運転」で最も悩んでいるのは、日産の開発者だろう。
そして日本で売っているから、海外でも「日本車」と呼べるのではないのか。ドイツで売られていないメルセデスベンツとか、イタリアで買えないアルファロメオなど、欲しいと思うだろうか。
「生き残るだけで精一杯」という状況だと思うが、もう少し、日本のことを考えてほしい。知恵を働かせるのがCMだけでは、なんともやりきれない。
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