2030年度の運賃予測
6月はじめに野村総合研究所が公表した、トラック輸送費(運賃)の将来推計が話題だ。同推計によれば、2030年度のトラック運賃は、2023年度比で「34%上昇」するという。
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これまで全くといっていいほど上がらなかったトラック運賃としては、なかなかインパクトのある数字である。
ただ、昨今のインフレ基調を踏まえると、7年間で34%というのが十分な上昇かといえば、正直、微妙ではある(例えば郵便料金の急激な値上げなどと比べると、生ぬるい印象が拭いきれない)。
とはいえ、程度の差はあれトラック運賃が上がるのは、運送業界にとって大きなニュースだ。そこで本稿では、今後予想されるトラック運賃上昇の背景と影響について考えてみたい。
運賃上昇の背景にある人手不足
まずはじめに、運賃上昇が予想される“背景”を確認しておきたい。燃料費高騰などの要因が挙げられるものの、最大のものは、
「ドライバー不足による賃金上昇」
だ。野村総研の推計でも、2030年にはドライバーが25%減ると予測しているのだが、トラック業界における働き手の不足は深刻だ。
現在のドライバーの中核は40~50代のいわゆる氷河期世代である。この点は他の類似業種も似たような傾向ではあるものの、ドライバーが他業種と違うのは、
「20~30代が極端に少ない」
という点だ。若者のクルマ離れに加えて免許制度変更の影響から、若年層が極端に薄いのがトラック業界の特徴である。このため氷河期世代が60代に差し掛かる2030年代には、若手の人手不足は急速に悪化することになるのである。このような働き手の不足にどのように対処するかといえば、やはり賃上げ以外に方法はない。
現在、ドライバー職は製造や建設業等と比べ時間給が2割も安いが、このままでは、人手不足は解消しないのは自明だろう。よって相応の賃上げをすることが必要だ。
一方、賃上げは運賃上昇に直結することになる。ざっくりといってトラック輸送の
「原価の4割弱が人件費」
であり、賃上げは運賃上昇にダイレクトに結びつくのである。これが運賃上昇が予想される基本的な流れである。
値上げを阻む多重下請けの解消
一方、読者のなかには、
「本当に運賃がそんなに上がるのか」
と疑問を感じる人もいるだろう。実際、足元ではドライバー不足が深刻であるにも関わらず、運賃値上げの動きは鈍い。これまでも、経済環境が厳しくなると
「大手主導で値下げが進む場面」
が繰り返されてきた経緯を踏まえると、業界関係者が疑心暗鬼になるのも理解できる。大手運送会社は1次、2次下請けなどの形態で多数の傭車(ようしゃ)を専属に近い形で抱えている。このような日本的な固定的な多重下請け構造が圧力となり、値上げを阻む要因となってきたといえるだろう。
ただ、近年のデジタル化の進展により、トラック輸送分野でもスマホ等を使った「デジタルマッチング」の仕組みが浸透しつつある。荷主と実運送会社との間で直接マッチングが可能になれば、多重下請け構造は自然に解消に向かう。
これに加え、この4月に成立した、いわゆる「改正物流法」により下請け規制が導入されることも影響する。この新しい規制では、元請けは荷主に、実運送を担うトラック会社の社名を通知することが求められる。これまで多重下請けによる
「中抜き」
はブラックボックスだったが、この構造が白日のもとにさらされることになるのである。このような背景を踏まえると、トラック運賃は需給逼迫をダイレクトに反映して、上がりやすい環境に変化する可能性が高い。
バラ色ではない運賃アップ
賃金が上がるのは、ドライバーにとっては間違いなくプラスだが、中小企業の多いトラック運送業にとっては厳しい側面もある。物価上昇には、
・値上がりした原価が上乗せされることによる「コストプッシュ」
・需要が増えることによる「デマンドプル」
と呼ばれるものの2種類がある。では今後起きる運賃上昇がどちらに近いかといえば、コストプッシュである。もちろん、トラック不足による値上げというデマンドプルの側面もあるが、基本的にはドライバーの賃上げが原因だからである。
需要増による値上げは問題ないのだが、コストプッシュによる値上げは、中小企業にとってデメリットも大きい。なぜなら中小零細ほど人手不足が深刻であり、コストプッシュの影響を強く受けるからである。
中小の人手不足が深刻であるのはなぜか。その最大の理由は、求職者、特に若手が
「表面的なイメージ」
で会社を選ぶ傾向が強いためだ。名前の知られた大手は比較的低い賃金でもドライバーが集まるが、中小は求職者から問い合わせをもらい、面接にこぎ着けるだけでも難しい。トラック業界でもウェブの有料媒体が求人の主流だが、多額の募集コストを掛けないと人が集まらないのが中小の現状だ。
今後、人手不足の状況がさらに悪化すると、中小では値上げによるメリットよりも求人コスト増大のデメリットのほうが上回ってしまう可能性がある。
中小運送業の生き残り戦略
以上のことを踏まえれば、中小トラック運送業が生き抜くための方向性もハッキリしている。要は
「人材の確保と定着」
が事業継続のキーになるということだ。なお、「就職四季報」(東洋経済新報社)などを読むと運送業各社の従業員定着率がわかるのだが、大手でも意外に定着率が低い(すなわち離職率が高い)会社が目立つ。
上述のとおり大手はネームバリューで人材確保が可能であるため、それでも成り立つのだが、中小で人材が定着しないままでは、今後は致命的である。では、中小企業で定着率を上げるために何が必要だろうか。身もふたもない話ではあるが、
「給与」
が最大のファクターであることは間違いない。他社より飛び抜けて給与が高い必要はないが、ほどほどに稼げるレベルにない会社だと、優秀な人材は他社に引き抜かれてしまうだろう。
給与以外の待遇面についても同様だが、ドライバーの待遇を改善するには相応の原資が必要であり、そのためには、仕事の内容を「割のいい」ものに入れ替えていくしかない。具体的には、新規案件の営業を強化し、荷主・元請けとの運賃交渉を進める必要がある。
もちろん、このような活動を主導するのは、ドライバーではなく、オーナーをはじめとした経営幹部である。当たり前の結論で恐縮だが、トラック運送業という業態では、
「経営幹部の地道な努力」
が経営を左右する要素であり、この点は従業員の待遇を改善し、ドライバーの離職を防いで職場をひとつのチームとして機能させるという観点でも同様である。
働き方改革や「改正物流法」による新たな規制は、トラック運送業にとって千載一遇のチャンスだが、追い風にもなれば向かい風にもなり得るものである。各社の積極的な取り組みが、業界の活性化につながることを期待している。
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原価計算出来ないアホ運送屋がいる限り、、