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「エンパイアステートビル」86階展望デッキにどうやってフォード「マスタング」を運んだのか裏側をお教えします【クルマ昔噺】

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「エンパイアステートビル」86階展望デッキにどうやってフォード「マスタング」を運んだのか裏側をお教えします【クルマ昔噺】

いまなお生産されているマスタング

モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る昔話を今に伝える連載。第16回目は、アメリカ・エンパイアステートビルの86階展望デッキで発表された初代フォード「マスタング」の裏側を振り返ってもらいました。

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エンパイアステートビルの展望デッキにマスタングを展示!

もう60年近く前の話になるが、1964年4月17日。1台のクルマが誕生した。フォード マスタングである。このクルマが発表された会場となったのは、ニューヨーク・ワールドフェア。そして考えうる効果的なディスプレイとしてフォードが選んだのは、なんとエンパイアステートビルの86階展望デッキだったのである。

とはいえ、当時の技術でホンモノのクルマを狭いエンパイアステートビルの展望デッキまで運び上げることなどそう易々とはできない。彼らは果たしてどのようにしてそこまでクルマを運んだのか。その答えが今から10年ほど前、マスタング50年周年の記念イベントで明かされた。

50周年を祝うイベントに先立ち、フォードはマスタングがデビューした時と全く同じ手法で、再びエンパイアステートビルの86階に運び上げたのだ。それはクルマをいくつかのパートに分解し、それをエレベーターで86階まで運び、再び組み上げるというもの。50周年のイベントの一部としてその模様は58階に設えられたフォード特設会場に写真として展示されていた。今から10年前のマスタング50周年記念イベントはこうして始まった。

その催しは全米各地で行われ、まずはニューヨークショーに50周年のアニバーサリーモデルを展示し、エンパイアステートビルの展望デッキにマスタング・コンバーチブルをディスプレイ。その見学の後は同日開催で選択を迫られた。ひとつはラスベガスでの記念イベント。そしてもうひとつはシャーロットスピードウェイでのイベントであった。私がチョイスしたのはシャーロットでのイベントだが、これについてはまたいずれお話ししようと思う。

とにもかくにも、ニューヨークのど真ん中、エンパイアステートビルの展望デッキにマスタングが飾られたという事実が、ある意味で衝撃的だった。

マスタングは国民車並みに愛されたモデル

86階の展望デッキは回廊状にひと回りでき、まさに摩天楼の名をほしいままにするニューヨークの景色が一望できる。その回廊の一画に黄色いマスタングが展示されていた。正直言えばよくもこの場所にクルマを持ち上げて、しかもここで組み立てたものだと呆れてしまったが、とにかくアメリカ人のやることはド派手である。余談ながら、自動車がエンパイアステートビルの展望デッキに展示されるのは初めてだし、ここに展示されたものとしては最大かつ最も重いものだったそうだ。

人々に愛されるクルマがある。多くの場合、それらは国民車などと呼ばれ、日常の足として活躍したモデルたちだ。イギリスなら「ミニ」。ドイツならVW「ビートル」。イタリアだとフィアット「500(チンクェチェント)」などがそれにあたり、これらのモデルはいずれもオリジナルが消滅したのちに再び現代に蘇り、人々に愛され続けている。

だが今から60年前に誕生し、これまで途絶えることなく生産されたモデルはない(日本には不滅の「クラウン」というクルマがあるが)。フォード マスタングがこの世に誕生したのは、今からおよそ60年前の1964年4月17日だ。数度のモデルチェンジを受けてはいるが、一度としてモデルが途絶えることなく、10年前にゴールデンアニバーサリーを迎えた。

その時点で生産台数は900万台を数えていた。今も生産が続くマスタングは1000万台の大台に乗ってもおかしくない。まさに国民車並みに愛されたモデルと言って過言ではない。

「マッハE」と呼ばれるBEVモデルも登場したが、マスタング自体は今もICEを搭載したガソリン仕様のモデルのみが作られている。ライバルのシボレー「カマロ」やダッジ「チャレンジャー」はすでに生産中止のアナウンスがされ(しかも両モデルとも途中で生産は途切れている)、マスタングだけが再び残った。果たして、この素晴らしい歴史を紡いできたモデルがいつまで生産されるか、興味は尽きない。

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