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生産終了後も活躍したVIPカー ローバー3.5リッター P5B 後継不在の上級サルーン 後編

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生産終了後も活躍したVIPカー ローバー3.5リッター P5B 後継不在の上級サルーン 後編

現代の交通に混ざっても強い存在感

マーガレット・サッチャー氏が首相最後の日に使用していたメモ帳は、その後のオークションで8万ポンドの値がついている。華々しい就任式典で用いられたローバーP5Bにも、相応の価値が生まれても不思議ではない。

【画像】英国首相を運んだローバーP5B サルーンとクーペ 後継のSD1シリーズ 同年代のエランも 全94枚

しかし今のところ、オーナーのデイビッド・ウッズ氏は日常的に運転して楽しんでいる。ボディには目立った錆もなく、状態はかなり良かったという。艶のあるエボニー・ブラックの塗装とクロームメッキは、仕上げ直しているそうだ。

P5Bのプロポーションは、2022年に見ても美しい。ブラックのボディが風格を漂わせ、現代の交通に混ざっても存在感はかなり強い。

公用車としてGYE 392Nのナンバーで登録されたP5Bのボンネット内は、一見するとノーマルと変わりがない。それでも1970年代後半の基準としては、かなり高速なサルーンとして数えることができた。

サッチャーは、プライベートでもP5Bに乗っていた。運転手のニューウェルは、せっかちな彼女を可能な限り早く目的地へ運んだという。

首相就任後、彼女は防弾化されたローバーP5Bへ乗ることになった。車重が重く、走りには不満を抱いていたかもしれない。

生産終了後も英国の代表が乗ったP5B

このP5Bは、1974年12月から1979年10月までの公務で12万2300kmを走っている。現在の走行距離は14万8000kmまで伸びているが、インテリアはオリジナルのまま。表面が少し擦れている程度で、丁寧に乗られてきたことがうかがえる。

素材や質感は感心するほど高く、その頃の褒めにくかった英国車の製造品質が、ここには反映されていない。読書灯が追加されたリアシートはゆったりしていて快適で、足も疲れにくい。

フーパー・モーター・サービス社によるリア側のヘッドレストは、パーセルシェルフへ固定されていないのが面白い。リアガラスとシートとの間に、挟まっているだけだ。

ローバーP5Bは1973年に生産を終えるが、1981年まで公用車として英国の代表が乗ることになった。サッチャーも、小さくない問題意識を抱えていたはず。苦肉の策で生まれたようなブリティッシュ・レイランドの対策へ、向き合う姿勢を持っていた。

少なくとも英国市民は、税金が正しく使われていると感じていたようだ。P5Bは不足ない能力を備え、充分な役目を果たせると考えていた。税金から公用車に充てがわれる金額について、納得していた。

生産が終了しても、ローバーP5Bは国内的にも国際的にも、妥当なポジョションに収まっていた。とはいえ、次のバトンを受け取れる新モデルが登場しなかった、というのが実際のところではある。

番外編:担当秘書が首相へ宛てた手紙

1979年5月4日、マーガレット・サッチャー氏が第71代の英国首相へ就任。約2週間後の5月17日、担当秘書として首相が乗るクルマを検討していたコリン・ピーターソン氏は、サッチャーへ次のような手紙を記している。一部を要約しながらご紹介しよう。

「クルマの買い替えで困っています。現在公用車としてあるのは、古いローバー3.5リッター(P5B)が3台と、新しいローバー3.5が1台、日常的な移動用の小型車が1台です」

「同じクルマを4台揃える必要はないものの、来訪者も使用できるメイン車両が2台必要です。予備のバックアップ車もあれば、理想的です」

「古いローバーP5Bは走行距離が長すぎ、交換時期を過ぎています。1台は3月の公務中に故障しており、状態は良くありません。買い替えの必要性に迫られています」

「首相が乗るクルマは英国製であるべきです。快適で会話のプライバシーが守られ、必要に応じて長距離移動時にも公務を行える空間を備えている必要があります。候補になるのは、次のとおりです」

そして、下記の5台が挙げられている。
ロールス・ロイス・シルバーシャドー
デイムラー・リムジン
デイムラー・ソブリン
フォード・ドーチェスターまたはミンスター
ローバー3.5リッターの新しい仕様

さらに次のように続く。「ローバー3.5である必要はありません。メインの車両にはなりませんが、バックアップ用にはなるでしょう」

1981年まで続投されたローバーP5B

「政府では、5台のフォード・ドーチェスターと2台のミンスターを所有しています。ボディを拡張したモデルで動力性能が不足気味なため、ドライバーは好みません。快適で充分な空間はあり、乗る側の人気は高いようです。英国製でもあります」

「デイムラー・ソブリンは、新しい仕様が登場しました。動的能力に優れていますが、リアシートが少々狭く、乗り降りは若干しにくいようです」

「デイムラー・リムジンは、要人への訪問時に政府関係者が乗っています。静かで快適で、わたしのイメージとしてはメイン車両に理想的だと感じています」

「ロールス・ロイス・シルバーシャドーは素晴らしいクルマです。望ましい選択ですが、過去には高級車の購入が表現的な問題を生みました。維持費は高くない可能性がありますが、導入費は公費の支出という点で批判を受けるでしょう」

「クルマは、安全上の理由と通信機器へ対応させるため、後日に変更できません。選択は個人的なもので、好みが左右すると思います。早い段階で下記の試乗をご提案します」

試乗候補に提案されたのは、次の4台だった。
デイムラー・リムジン
デイムラー・ソブリン
フォード・ドーチェスター
フォード・ミンスター

「年間コストはミンスターが1万2000ポンド、デイムラー・リムジンが1万3000ポンドで、さほど違いません。購入時のコストはデイムラー・リムジンで1万5300ポンド、デイムラー・ソブリンで1万900ポンドです」

最終的には、デイムラーXJ シリーズIIIへ交代する1981年まで、ローバーP5Bが続投となったのだ。

ローバー3.5リッター P5B(1967~1973年/英国仕様)のスペック

英国価格:2000ポンド(新車時)/5万ポンド(約825万円)以下(現在)
販売台数:1万1501台(サルーンのみ)
全長:4724mm
全幅:1778mm
全高:1549mm
最高速度:177km/h
0-97km/h加速:10.7秒
燃費:6.0-7.8km/L
CO2排出量:−
車両重量:1587kg
パワートレイン:V型8気筒3528cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:162ps/5200rpm
最大トルク:31.1kg-m/3000rpm
ギアボックス:3速オートマティック

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みんなのコメント

1件
  • ドーチェスターやミンスターはコーチビルダーのコールマン=ミルンが手掛けるフォード・グラナダベースのリムジン。後にベースをスコルピオに変えて生産が続いた。P5ローバーの特別バージョンを手掛けたフーパーは、リライアントが開発したロンドンタクシーの対抗馬、メトロキャブの製造も手掛けていた。


    しかし、SD1ローバーは後継車にはなれなかったんだな。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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