2021年12月に富士スピードウェイで鮮烈な日本デビューを飾った新型アウディRS3。それから約1年の時を経て、ようやく公道でその走りを試す機会を得た。ここではニュルブルクリンクで育てられた速さとそれを支える秘密を紐解いていく。(Motor Magazine 2023年1月号より)
最新モデルにも脈々と受け継がれるRSの血統
直列5気筒、2.5Lターボエンジンとクワトロで武装したRS3は、アウディ最強のCセグメントモデルだ。同じ成り立ちのモデルとしてTT RSとRS Q3がラインナップされていたが、前者は国内販売がすでに終了しているほか、後者はそもそもSUVなので純粋なダイナミックパフォーマンスという意味でいえばRS3に太刀打ちできない。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
しかも、今回RS3がフルモデルチェンジを受けたことでRS Q3は実質的に一世代前のモデルとなってしまった。いずれにせよ、RS3がアウディCセグメントの最強モデルであることは間違いない。しかし、RS3は単にCセグメント最強であるだけでなく、アウディにとって極めて重要な意味を持つスポーツモデルでもある。
アウディが現在のようにスポーティなプレミアムブランドとして広く受け入れられるようになったのは、1980年にデビューしたクワトロ(通称ビッグクワトロ)がきっかけだったとされる。フルタイム4WDをロードカーの高性能化に役立てるという、かつてなかったコンセプトを備えたクワトロがあったからこそ、それまではメカニズム的にもキャラクター的にも平凡な印象が強かったアウディが、先進的で技術志向の強いブランドとしての地位を確立できたというのである。
このビッグクワトロに搭載されていたエンジンこそが、その後、アウディのトレードマークとなっていく5気筒ターボだった。これが、ポルシェ家の血を引くフェルディナント・ピエヒ氏のリーダーシップにより開発されたパワーユニットであることは、知る人ぞ知る事実。そもそもクワトロの開発を主導したのがピエヒ氏である。
こうして、クワトロと5気筒ターボエンジンは切っても切れない関係となり、1994年にデビューした史上初のRSモデルであるRS2にも採用。名実ともに、アウディの歴史にその名を刻んでいくことになった。
そんな5気筒エンジンが新世代ユニットへと生まれ変わったのは2017年のこと。この年、デビューした先代RS3に搭載されていたのは、クランクケースなどをそれまでの鋳鉄製からアルミ製に一新した最新のパワーユニットだった。
この時期、5気筒エンジンを搭載していたのはTT RS、RS Q3、そしてRS3の3モデルだけだったので、5気筒エンジンそのものが消滅したとしても不思議ではなかった。それが奇跡ともいえる復活を果たしたのは、5気筒がピエヒ氏のもとで誕生し、彼がその後も長く愛し続けたことと無縁ではなかったはずだ。
先ごろデビューした新型RS3は、このアルミ製5気筒エンジンを積んだモデルとしては2世代目にあたるわけだが、今回はエンジン自体がさらにブラッシュアップされただけでなく、クワトロにも
革新的な改良の手が加わった。
注目はRS3の走りの幅を広げる専用の4WD機構
クワトロとひとことに言っても、実はメカニズム的にはいくつもの種類がある。このうち、もっとも代表的なのが縦置きエンジン系モデルに採用されているトルセンデフを用いたセンターデフ方式。これは40:60を基本の前後トルク配分としつつ、路面コンディションに応じてトルク配分の微調整が可能なことで知られる(同じ縦置き式でもミドシップのR8は多板クラッチを用いたトルクスプリット式を搭載)。
一方、RS3をはじめとする横置きエンジン系モデルにはハルデックスカップリングを用いたトルクスプリット式が採用されてきた。これはリアアクスル上に設けられた多板クラッチにより後輪へのトルク配分を決めるもので、前後トルク配分は100:0から50:50の間で電子制御される。
これに対して、新型RS3には左右の後輪に配分するトルクを独立して制御できるRSトルクスプリッターと呼ばれる新機軸が採用された。
従来のハルデックスカップリングは、リアデフの「上流側」に設けられていた。したがってハルデックスカップリングが制御できるトルク配分は前後車軸間のみで、リアの左右輪でトルク配分を制御することはできなかった(ブレーキトルクベクタリングによって制御できなくもないが、これは駆動系の作用とは言いがたい)。
一方のRSトルクスプリッターは、リアデフを2組の多板クラッチに置き換えたものと説明できる。したがって、それぞれのクラッチの締結力を制御することで、左右の後輪間の駆動力を調整可能。この点が、従来のシンプルなハルデックスカップリングとの決定的な違いなのだ。
たとえば、コーナリング時は外輪へのトルク配分を増やせば自然とヨーモーメントが発生し、ノーズはおのずとイン側を向くようになる。しかも、内外輪へのトルク配分はドライビングモードによっても切り替わり、コンフォート、オート、ダイナミックの順でトルク配分差が強くなっていく模様。
これ以外にも「RSトルク リア」、そして「RSパフォーマンス」というモードが用意されている。どちらもクローズドコースでの使用が前提で、「RSトルク リア」はドリフトを楽しむためのモード。そして「RSパフォーマンス」はサーキット走行で最高のパフォーマンスを発揮するためのモードで、セミスリックタイヤであるピレリPゼロ トロフェオRの装着を前提にチューニングされているという。
RS3にはスポーツバックとセダンの2タイプがラインナップされているが、今回はRS3セダンを伴って箱根を目指した。
あらゆるシーンにおいて走りを楽しめる万能選手
まず、都内の一般道ではRSモデルとは思えないほどしなやかな乗り心地を示してくれた。とにかく、段差などに対するタイヤの当たりが柔らかく、ゴツゴツとした印象を与えないのだ。しかも、ドライビングモードをコンフォートにしておけば、ダンパーが強引に姿勢変化を抑え込むこともなく、フンワリとした乗り心地を味わえる。
ただし、市街地では快適と思われたコンフォートモードも、高速道路に入ってペースが上がるとやや落ち着き不足のように思えてくる。そんなときにはオートモードを選べば、過剰でない範囲でフラット感が高まり、心地いい高速クルージングが楽しめる。
いずれにせよ、こうした乗り心地の水準は従来型のS3に匹敵するもの。そういえば、新型S3は状況次第でA3よりも快適になりうる。いや、使われているダンパーが良質なせいか、S3のほうがむしろ快適とさえ思えるほど。こうした「A」「S」「RS」の「序列を越えた下剋上」がひんぱんに起きているのが、アウディのスポーツモデルの現状である。
注目の5気筒エンジンは、アルミ合金製に切り替わった先代から独特のビート感が薄れ、4気筒と言われても信じてしまいかねないほどスムーズな回転フィールだ。これでエキゾーストノートが抜けのいい快音であれば、もはや言うことがないのだが、それは望みすぎというものだろう。
ワインディングロードに足を踏み入れたところで、さっそくドライビングモードを切り替えてみる。この段階では、まだタイヤの限界にはほど遠いペースだったが、それでもステアリング特性がはっき
り変わることが実感できた。なにしろコンフォート、オート、ダイナミックと切り替えていくたびにクルマが積極的に向きを変えようとする傾向が強まっていくのだ。
これに気を良くして徐々にペースを上げていく。アウディらしい、コーナリング時の安定した姿勢はこのRS3にもしっかりと受け継がれていて、おかげで路面がうねっていても最小限の修正舵を加えるだけで済む。こうしたスタビリティの高さには「クワトロ」も間違いなく貢献しているはずだ。
走りの質感では、従来のCセグメントのスポーツモデルの水準を大きく超えているように思えたRS3。果たしてライバルたちと比べるとどうなのか。これについては、このあとに続く比較テストでじっくり紹介することにしよう。(文:大谷達也/写真:永元秀和、井上雅行)
※2022年12月15日、記事内容を一部修正いたしました。
[ アルバム : アウディRS3セダン はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
300psあたりで1900mmに迫るって・・。