かつて6気筒エンジンといえば、トヨタでは2000GT、クラウンやマークII、ソアラやスープラ、アリスト、日産ではセドリックやグロリア、スカイラインなどの最上級車種に設定されていて、なかなか手が出せない憧れの存在だった。
シリンダーが直線上に6つ並び、振動が少なくパワーが出せ、かつバランスのよさからくる滑らかなフィーリングが特徴だ。
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しかし、頑なにこだわり続けるBMW以外の自動車メーカーは、直6エンジンから手を引き、V6エンジンに切り換えたり、直4にターボを付けて出力を補ったりするのが主流になっていた。
しかし、ここに来て新しい動きが出てきた。メルセデスベンツが約20年ぶりに直6を復活させたのだ。
また2017年の東京モーターショーに出品されたVISION COUPEは明らかに直6エンジン搭載を前提としたロングノーズショートデッキスタイルであった。
そして2019年5月、マツダが発表した新中期経営計画のなかで、ついに直6ガソリンとディーゼルを開発中と明らかにしたのだ。
そのいっぽうで、スバルはアルシオーネ(1987年、ER27型)以来、搭載してきた水平対向6気筒エンジンを新型レガシィ&アウトバックには搭載しないことを決めた。
一度は時代遅れというレッテルを貼られた6気筒エンジンが、いったいなぜ復活したのか、モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/ベストカーWEB編集部
■シルキーシックスと言われクルマ好きから直6が崇められてきた理由
直6エンジンにこだわり続ける自動車メーカーといえばBMW。写真は 1977~1989年まで生産された、世界一美しいクーペと呼ばれたBMW635CSi。搭載されている直6エンジンは、まるで絹のようになめらかに吹け上がることから「シルキーシックス」と呼ばれ、ファンを魅了 した
4サイクルエンジンは、各シリンダーの燃焼室がクランクシャフト2回転に1回ずつ燃焼している。そのため2気筒では1回転に1回の燃焼による振動が起こる。
エンジン回転と同じ周波数の振動を1次振動という、毎回1回ずつの燃焼である直列2気筒ではかなり大きな振動となってしまう。
フィアット500ツインエアはバランサーを組み込んでもかなり振動があるのは(なかなか味わい深いものであるが)、そのためだ。
直列4気筒エンジンになると、燃焼回数が2倍となり、半回転に1回燃焼による振動が起こるので、打ち消しあう効果が生まれて1次振動はざっくり半減するが、今度はエンジン回転数の2倍の周波数となる2次振動が大きくなる。
こうした振動面で最も有利なのが直列6気筒エンジンだ。1番と6番、2番と5番、3番と4番のピストンを同じクランク角度にセットして1回転に3回燃焼させることで、理論上は1次振動をゼロにできる。
V型エンジンは燃焼による振動の方向がVバンクの角度によって影響を受けるため、直6エンジンのようにバランスを取るのは難しい。
それでもV型エンジンが大排気量車で主流なのは、エンジン全長や全高を抑えてコンパクトに作れるから。衝突安全性や空力特性、ハンドリング性能などを高めるには都合がいいレイアウトなのだ。
見方を変えれば、V6エンジンはエンジンルームのスペースに合わせて開発した、妥協の産物ということもできる。
V8くらいの排気量になると、シリンダーブロックやクランクシャフトの剛性を高めながら軽量化するにも効率のいいレイアウトだった。
直6エンジンにこだわり続けているのはBMWだが、そのほか、現時点でラインアップされているのはメルセデスベンツの直6エンジンだけだ(詳細は後述)。
●メルセデスベンツ/M256型3L、直列6気筒DOHCターボ(ガソリン)、OM656型3L、直列6気筒DOHCディーゼルターボ(ディーゼル)
●BMW/B58型3L、直列6気筒DOHCターボ(ガソリン)、B57型3L、直列6気筒DOHCターボ (ディーゼル)
GRスープラに搭載されるB58B30Cと呼ばれる3L、直6ターボ
■スバルがBOXER6をなくした訳
先代レガシィまで搭載されていたEZ36型水平対向6気筒、3629ccエンジン。260ps/335Nmを発生する。 新たなエンジンラインアップはFA24型 2.4L、水平対向4気筒DOHC直噴ターボとFB25型 2.5 L、水平対向4気筒DOHC直噴
2019年2月のシカゴショーで公開された新型レガシィ。同年4月のニューヨークショーで公開されたアウトバックともに、先代まで用意されていた6気筒エンジンは搭載されない
スバルが開発した水平対向6気筒エンジンは、向かい合うピストンがお互いの振動を打ち消し合うので、振動特性としては直6に匹敵するほど優れている。
しかし、広過ぎるバンク角によってV6のようにコンパクトにはできないし、後述するデメリットなどで、熱効率面では有利とは言えない。
そのため先頃発表された新型レガシィには6気筒エンジンは搭載されないことになり、同社のラインアップから6気筒エンジンは消滅することになってしまった。
スバルはトヨタのハイブリッドシステムを利用した独自の縦置きハイブリッドを開発したのだから、アレを6気筒と組み合せることで環境性能を高めて存続して欲しかった気もするが、販売が振るわなければ開発コストを回収できる見込みが少ないということで廃止したのだろう。
車幅への影響からロングストローク化が難しい水平対向エンジンは、環境性能を追求するには不利な部分もある。
スバルらしさを残しつつ、時代の要求に対応するのは難しかったのだろうが、残念なことではある。
■V6に代わって直6が復権した背景とは?
こちらがメルセデスベンツ製M256型の直6エンジン。写真のとおり、ジェネレーターなどの補器類が組み込まれたユニットで、既存のV6から置換されるエンジンとなる
メルセデスベンツは2017年、M104エンジンの廃止から約20年ぶりに直6エンジンを復活させたことによって、V6に代わって直6エンジンが登場してきたように感じるが、実はそうではなくライトサイジング(ダウンサイジングに変わる排気量適正化)でV8の代わりに直6が使われるようになったというのが真相だ。
前述の通り、直6は回転フィールの滑らかさでいえばV8をも上回るのである。
ライトサイジングでも、なぜV6ではなく直6なのかといえば、それは以前に比べ直6エンジンをコンパクトに作れるようになったからだ。
電動パワステや電動ウォーターポンプにより、補機類をベルトでエンジンが駆動する役目から解かれたことから、全長は短くなり、レイアウトの自由度が高まった。
衝突安全性に関しても、コンピュータによるシミュレーションなど解析技術により、エンジンの影響を正確に把握できるようになったことも大きい。
こうなると、軽量化や熱損失を考えればV型よりもシリンダーが1つにまとまっている直列エンジンの方が有利だ。
さらに可変バルブタイミング機構が必須の今では、DOHCで大きなカムスプロケットを備えるため、V型は重量面で有利とはいえなくなってきた。
ターボを組み合せるのも常套手段となった今では、V型エンジンではツインターボにしないとレイアウト上難しいから重量面もコストも嵩んでしまう。
最近はロングストローク化のため相対的にコンロッドが短くなっており、圧縮比も上昇していることから、昔ほど滑らかに回転させるのは厳しくなっている。
しかし、1気筒500ccの直列3気筒をモノにしたように、設計や制御の技術は、大幅に進化しているから、昔よりスムーズな直6を作ることは可能だ。
部品のクオリティも進化著しい。寸法や重量の精度も昔の直6エンジンの時代と比べて格段に高まっていて、さらに燃費向上のためにエンジン内部のフリクションロスも大幅に低減されているから、燃費だけでなく軽やかな回転フィール、鋭いレスポンスも可能になるだろう。
■マツダが作り上げる2種類の直6の魅力とは?
2017年の東京モーターショーで公開されたマツダVISION COUPE。 ロングノーズ、ショートデッキの美しいプロポーションを持つ
さて、マツダの話に移ろう。すでに2017年の東京モーターショーで発表されたコンセプトカー、 VISION COUPE によって直列6気筒エンジンの開発構想があることは明らかになっていたが、いよいよそれが具現化する時期が近付いてきた。
マツダが作り上げる直6は、かなりユニークで魅力的なモノとなることが予測できる。ちなみに来年で創業100周年を迎えるマツダであるが、直6エンジンを搭載する量産車を開発するのは、今回が初めてのことだ。
現在、想定されている直6はディーゼルのSKYACTIV-Dと、世界初の圧縮点火を実現したガソリンエンジン、SKYACTIV-Xとされている。ディーゼルの直6と聞くと振動が多く、ガソリンの直6と比べるとエンジンフィールの滑らかさに欠けるのではないか、と思う読者諸兄もおられるのではないだろうか。
しかし安心してほしい。SKYACTIV-Dは、ガソリンエンジンと同じ圧縮比を実現していることを思い出していただきたい。
直6ディーゼル自体、ディーゼルとは思えないほどスムーズに回るエンジンが珍しくなかった(昔はその分、シリンダーブロックやクランクに強度を持たせ、重かった)。
ガソリンの直6と遜色ないほどの滑らかな回転フィールと、ディーゼルならではの高トルク、省燃費を実現させてくるハズだ。
そして、SKYACTIV-Xである。直列4気筒ですらまだ量産車に搭載されていない、革命的な燃焼方式のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)を採用した直列6気筒はどんなフィールで回るのだろうか。
試作段階の直列4気筒のSKYACTIV-X車に試乗したジャーナリストの一人でもある筆者としては、シームレスにストイキSI(理論空燃比の混合気をプラグ点火)からストイキSPCCI(混合気は濃いまま圧縮着火)、そしてスーパーリーンSPCCI(理論空燃比の1/3の薄い混合気を圧縮着火)を切り替えて、滑らかに回る直6エンジンがイメージできる。それはまさに画期的かつ魅力的なパワーユニットとなることだろう。
48Vマイルドハイブリッドが組み合わされることが公表されているがBSG(ベルト駆動のスターター兼発電機)を組み合せるP0タイプは直列6気筒では効率が悪くなるから、エンジンと変速機の間にモーターを組み込むP2タイプか、変速機の後のP3タイプのハイブリッドになるだろう。
マツダは2019年5月9日、2025年3月期(2024年度)を最終年度とする6カ年の中期経営方針が発表されたが、そのなかにはっきりと2種類の直6エンジンの計画が載っていた
ベストカー本誌が製作した次期アテンザの予想CG。 2020年に直6ディーゼルのFRのプレミアムモデルに生まれ変わることが期待される
■直6が復権してきたのはエンジン本来の魅力を追求するようになってきたから
EVの急追によってハイブリッド化が必須となってくる今後、エンジンは発電に徹するのか、エンジンを走行用に使うのか、二極化していく。
エンジンで走行するクルマは、燃費だけでなくエンジン本来の魅力を訴求しなければ、成功することは難しい。
滑らかに回りながら、エンジンならではの鼓動と、トルクの盛り上がりを感じさせる「シルキーシックス」。そんなエンジンが、クルマを運転することを楽しむユーザーに選ばれるに違いないのだ。直6こそが、プレミアムエンジンとして、淘汰されずに生き残っていくのではないだろうか。
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