サスティナブルとボルボ最先端のテクノロジー&先進性が凝縮されたボルボでもっともコンパクトかつ、BEV(100%バッテリーEV=電気自動車)専用プラットフォームを使うSUVがEX30だ。前回、EX30の概要、パッケージ、前後席やラゲッジルームの広さなどについて報告したが、今回はその試乗記をお届けしたい。試乗車はシングルモーター、FR駆動の最上級グレード&ロングレンジモデルとなる、559万円(補助金あり)のEX30 Ultra Single Motor Extended Rangeである。
カッコいい!レクサスが造ったアウトドアのライフスタイルを提案するコンセプトモデル
EX30はクルマに乗り込む際の作法も、これまでの一般的なクルマと異なる。ボタンレスキー(Key Tag)を携帯していれば、クルマに近づけばドアがアンロックされ開くことができ、スタートボタンなどはなく、車両の電源がON。運転席に乗り込んだあとはスタイリング右側にあるシフターレバー(R/N/D-P)をDレンジにセットすればすぐに”電気で”走り出せる。
スカンジナビアデザインでまとめられた車内に入り、運転席に着座すれば、先進感だらけである。まずはステアリング奥にメーターパネルがないこと。スピードメーターや時計、外気温時計、エアコンやオーディオ操作、各車機能決定ボタン、もちろんナビ画面はすべてインパネ中央の12.3インチタブレット型センターディスプレーに集約されているのだ(テスラもそう)。よって、運転席周りのスイッチ類は最小限。ステアリング右側のシフター、ステアリング左側のウインカー&ワイパーレバー、ステアリング左右の面スイッチ(パイロットアシスト=ACC機能含む)、センターコンソール手前にある前後パワーウインドースイッチぐらいのものである。
そして車内でいい音で音楽を聴きたいユーザーにとって嬉しいのが、インパネ奥左右いっぱいに備わる、ハイエンドオーディオメーカーのハーマンカードン製サウンドバータイプのプレミアムオーディオシステムだ。そのスタイリッシュさ、5スピーカー内蔵のサウンドバーとリヤドア用を含む全9個で構成される高音質スピーカー&1040Wアンプによるハーマンカードンならではの音質の良さもさることながら、実はそれ、サスティナブルな配慮でもある。つまり、フロントドアスピーカーを廃したことで、スピーカーユニット、ケーブルなどが不要になり、フロントドア部分のリサイクル性が高まるというわけだ(パワーウインドースイッチのケーブルも集約)。
北欧の自然をイメージしたという「ブリーズ」と「ミスト」の2種類のインテリアが用意される車内の各素材はリサイクル素材がふんだんに使われ(ソフトパッドは少ない)、リサイクル=プレミアムという価値観が今のボルボ流である。当然、本革シートは早期に廃止されている。
次に感動させられたのが、なんといってもシートのかけ心地だった。試乗車のシート素材はピクセルニット・ノルディコ・コンビネーションというものだが、これまでのボルボ車にあったファブリックシートやレザーシートとも違う、ふんわりとしたかけ心地と上半身の自然なサポート性を兼ね備えた高級ソファ感覚のソフトなかけ心地が素晴らしすぎる。実は、試乗の一週間前にぎっくり腰になったのだが、その痛みが気にならず、このままずっと座っていたくなるほど心地よいかけ心地だったのだ(個人の感想です)。
おっと、走り出す前に、左右のドアミラーの調整を・・・と言っても、ドアミラー調整用の物理スイッチは見当たらない。そう、センターディスプレーの車両のアイコンをタッチして、左右個別のドアミラーを、ステアリング右側のスイッチで調整する、けっこう面倒な仕組みだ。初見では絶対にできないし、一家で複数の体形の違うドライバーが運転する際は、これまた面倒なことになりそうだ・・・。
走り出せば、BEVとしては軽量な1790kgのボディ(XC40のシングルモーターより240kg軽い)をウルトラスムーズに、トルキーに加速させる。低速域で鳴る車両接近音も、車内では遠くに聞こえる程度。例えばVW ID.4の盛大に耳に届く車両接近音とは違い、BEVならではの静かで力強い走行が始まる。何しろ0-100km/h加速はスポツーカー並みの5.3秒なのだから(XC40のシングルモーターと日産リーフはともに7.3秒)。
EX30
XC40 Recharge
乗り心地はオプションのグッドイヤーSUV用20インチタイヤ&ホイールが奢られていることもあり、良路ではもちろんスムーズでフラットだが、荒れた路面や段差などではやや硬めのタッチを伝えてくる。速度を上げていくと、BEVならではのパワーユニットからのノイズのなさに対して、20インチタイヤによるロードノイズとフレームレスで鏡面面積が大きいドアミラーからの風切り音が目立ち始める。
BEVの中には、ロードノイズがほとんど気にならない高級車(1000万円超えだが)もあるが、とくに高速走行中の車内の静かさに関しては、ハイレベルと言えないのが残念だ。ボルボでもっともコンパクトかつリーズナブルな価格を実現したボルボBEVの入門車という位置づけから、ロードノイズに対する遮断、遮音にはコスト的にこだわり切れなかったのかも知れない・・・。せっかく、ハーマンカードンサウンドシステムを搭載しているのだから、もったいないとも思えた。ただし、試乗が叶わなかった標準の19インチタイヤ&ホイール装着車なら、乗り心地、ロードノイズの小ささの両面で上回るはずである。
そうそう、EX30にはステアリング左側のスイッチ(カスタマイズボタンのショートカット)で操作できる回生ブレーキによるワンペダルドライブも用意されている。ONにするとやや強めの減速が得られ、完全停止まで行えるのだが、これまでのボルボのワンペダルドライブより穏やかな減速感・・・という印象を受けた。好みは人それぞれだが、個人的には「このほうが使いやすい」と思える。
操縦性はFRという後輪駆動レイアウト、比較的軽量な車重、フロントに重量物がないBEVパッケージ、クイックなステアリングギヤ比によって、じつに軽快(といっても上質感あり)に走り、スイスイ、ひらりひらりと向きを変えてくれる。モーターのレスポンスがいいのは当然だから、車体のコンパクトさ、最小回転半径5.4mの小回り性もあって実に扱いやすく走りやすい。
そしてカーブでの安定感もまた感動に値するものだった。BEVならではの低重心、Fストラット、Rマルチリンク式のサスペンションの煮詰めによる前後左右の姿勢変化の少なさもさることながら、ポイントはすでに報告したシートの良さが効いていると思えた。具体的には、体重によって腰と背中部分が絶妙にたわみ、見事に支えられるサポート性が、カーブや山道でのドライバーと助手席乗員の安心感・安定感に直結しているのである。EX30の最大の魅力は何か、と問われれば、個人的にはそのサスティナブルな素材を使ったシートの、いつまでも座っていたくなるほどの素晴らしすぎるかけ心地、快適感、サポート性であると言いたいぐらいである。
なお、オートブレーキホールド機能を搭載するが、物理スイッチ、センターディスプレー内の設定はない。メルセデスベンツのように、ブレーキペダルを奥までグイッと踏み込むことで作動する仕組みとなっているのだ。作動中はセンターディスプレー上部に「A」のアイコンが出現する。
かつてのボルボは安全性第一で、動力性能が穏やかかつ運転の楽しさが二の次だった車種がほとんどだったのだが、ここ最近は違う(XC60、XC40からだろうか)。先進運転支援機能の充実度=安全性能の高さは今さら説明することもないが、EX30のモータ―パワーによる動力性能、加速力は強力そのもので、日本の路上で使いきれないほどの圧倒的なパフォーマンスを見せつける。さらに運転自体も快適で楽しく、カーブ、山道でもゴキゲンなハイレベルな安定感の持ち主でもある。言い換えれば、BEVならではのファン・トゥ・ドライブが味わえるのがEX30だ。
今回の試乗時は86%充電で借り出し、エアコンONでの航続距離は480kmスタート(カタログ値560km)だったから、満充電で片道200kmぐらいのドライブへ出発すれば、途中充電、目的地充電の手間なく走り切ることができるかも知れない(走行状況による)。これぐらいのいち充電航続距離の余裕があれば、EVライフもより快適になるに違いない。また、EX30では200V用と急速充電用の充電口が1か所にまとめられているのも新しい。充電残量が20%になると、自動的に充電リマインダーが作動。現在地周辺の公共充電ステーションを検索し、Google マップ上に表示してくれるから安心だ。
ところで、EX30はオンライン購入のみとなっている。流れは、専用サイトで車両、支払方法を選択し、申込金の支払いで申し込み完了(申込金は原則返金不可)。カスタマーリレーションセンターから今後の案内があり、支払方法に沿った金額を現金またはローンで支払う。そして希望のボルボのショールームに出向き、ナンバー登録、任意保険、下取りがあれば現所有車の買い取り手続きなどを行い、その後、納車となる。購入はオンラインながら、ボルボのショールームでセールススタッフによる購入サポートも受けられる。
最後に価格だが、現時点でモノグレードのEX30はGoogle搭載のナビゲーションやパノラマルーフなどすべて込み(20インチタイヤ&ホイールは9万円のOP)で559万円。BEVのXC40 Rechargeの679~719万円に対して120万円以上リーズナブル (補助金あり)。ハイパフォーマンスで先進的なBEVを望み、主にカップルまたは大人2人+子供の使い方で(後席はXC40のほうが広い)、自宅に充電設備があるのであれば、今、手に入れる価値ありの1台と思える。
ボルボEX30
文・写真/青山尚暉
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