Mercedes-Benz S-Class
メルセデス・ベンツ Sクラス
新型メルセデス・ベンツ Sクラス、世界初公開! 最新ハイエンドサルーンの全容を渡辺慎太郎がレポート
資料の圧倒的ボリュームが語る気概
新型車が発表されると、自動車メーカーはメディアに“プレスキット”を配布する。これには車両解説のテキストやスペック、画像や動画が入っている。昔は紙に印刷されたテキストとポジフィルムだったが、それがCDやDVDになり、いまでは専用のクラウドからダウンロードできるようになった。
もちろん、メルセデス・ベンツは新型Sクラスのプレスキットも用意してくれたのだけれど、英文のテキストはA4サイズでなんと83ページにも及ぶものだった。分かりやすく丁寧に翻訳したら、それだけで1冊の本になりそうなボリュームである。
いつの時代においてもSクラスはメルセデスにとっても特別なモデルであり、持てる先進技術のすべてを惜しみなく投入し、市場を唸らせると言うよりも黙らせるくらいの気概があったが、今回の彼らの姿勢はこれまでとはちょっと異なるものだった。
文面から消えたあのワード
新技術や新機能や新機構の圧倒的な数にははなはだ驚かされたものの、83ページもあるのに例えばハンドリングに関する説明はほとんどなく、最近彼らが好んで使っていた「アジリティ」や「スポーティ」というワードも出てこない。彼らが見ているのは目の前にある生まれたばかりの新型Sクラスではなく、その向こうの影に潜む別の何かのような気がした。
そうはいってもまずは新型Sクラスである。GENROQ Webではこれまで3回に分けてこのクルマに採用される技術を先行解説(文末に関連リンク先あり)してきたので、今回はそれ以外の部分に主にフォーカスすることにした。そうでもしなと、とてもじゃないがすべてを書き記せないからだ。
気流を徹底して整えた空力ボディ
エクステリアデザインはどちらかと言えばコンサバティブであり、ドラスティックな変貌は窺えない。フロントをショートオーバーハング、リヤをロングオーバーハングにする手法は伝統的なセダンのフォルムだし、キャラクターラインを極力廃して表面の“うねり”で抑揚やアクセントを表現する方法も昨今のメルセデスデザインに準じている。
しかしボディのCd値は0.22で、これは現時点でセダンとしては世界最高レベルの数値である。彼らが特に着目したのは前輪周辺の空気の流れだ。前輪付近では空気の流れが乱れて空力的に損失を生む原因となりやすく、メーカー各社は知恵を絞っている。新型Sクラスでは、前輪の手前のバンパー左右のスリットから積極的に空気を取り込み、それをエンジンルームとホイールアーチの隙間に設けた空間を通して後方へ排出している。
こうすることで前輪付近の乱気流を防ぐだけでなく、同時にエンジンルームの冷却機能も果たしているという。この他にも停車中や走行中はドア内に引き込まれ、鍵を持った人が近づくと自動的に現れるグリップ式ドアハンドル、サイドミラーやリヤのディフューザーなど、空力を考慮したデザインが随所に盛り込まれている。この空力ボディは開発の初期段階からコンピュータを使ったシミュレーション解析を徹底的に行ない、結果として風洞実験用に作った1分の1サイズのクレイモデルはわずかふたつで済んだそうである。
ボディ拡大は最小限、車内拡張は最大限
ボディはショートホイールベースとロングホイールベースの2種類が用意されている。サイズはショートが全長5179mm、全幅は通常のドアハンドルが1954mm、引き込み式ドアハンドルが1921mm、全高は1503mm、ホイールベースは3106mmで、ロングはホイールベースが3216mmとなる。
ショートを従来型と比較すると、54mm長く55mm幅広く10mm高く、ホールベースは71mm延長されている。ただ、想像していたよりもボディの拡大化は最小限にとどめたように見受けられる。一方で室内はほとんどの寸法が広くなっていて、数値上変わっていないのはフロントのレッグスペースと肩周りだけだった。トランク容量も20リットル増えて550リットルとなっている。
「外を大きくすれば中も大きくなるのは当たり前。そこに知恵やアイデアはない」と言ったのは、先代のチーフデザイナーだったペーター・ファイファー氏だったが、彼の言葉を思い出した。
自宅と仕事場を繋ぐ「第三の場所」
インテリアはメルセデス曰く「モダンラグジュアリーの次世代レベル」だという。デザイナーは、優雅さ、上質さ、そしてリラックスできるラウンジのような雰囲気を目指した。
これは、車内を自宅と仕事場を繋ぐ「第三の場所」と位置づけたコンセプトによるもの。仕事も出来るし身体を休めることもできる(主に後席で)快適な空間作りに主眼が置かれている。
さらにもうひとつのコンセプトは「デジタルとアナログの調和」だったそうだ。人間工学に基づいて設計されたセンターの有機ELディスプレイと、ヨットやクルーザーを想起させるウッドパネルや、もはやシートというよりは高級ソファと呼ぶべき品質の本革シートを、同じ空間に違和感なく配置している。
“ノイズ”は源流から伝達路まで徹底的に対策
静粛性の飛躍的な向上も重要なタスクのひとつだったという。そのために、まずは圧倒的に剛性が高く振動を伝えにくいボディシェルの設計に始まり、例えばバルクヘッドに設けられたいくつもの開口部にはダブルシールを採用することで遮音性を高めるなど、細部にわたって遮音/吸音が徹底されている。
また、ボディシェルの中空部分(Cピラーなど)には可能な限り発泡ウレタンを充填し、ノイズの透過率を低減させている。フロントウインドウには遮音シートを挟み込んだ合わせガラスを採用(オプションですべてのウインドウを合わせガラスにすることも可能)、ウェザーストリップも新開発して室内の密閉性を高めている。
まずは直6のガソリンとディーゼルから
発表時点での仕様はS 450 4MATIC、S 500 4MATIC、S 350 d、S 350 d 4MATIC、S 400 d 4MATICの計5タイプ。S 450とS 500に搭載されるM256型エンジンは2999ccの直列6気筒エンジンでISG仕様となる。
ISG仕様車は48Vのシステムを搭載していて、エンジンの補機類をすべて電動化することによりベルトとプーリーを廃してエンジン全長の短い直列6気筒を実現している。スタータージェネレーターは駆動力サポートも行い、435ps/520NmのS 500の場合はEQブーストを使うとさらに22ps/250Nmが瞬間的に上乗せされる。
2021年にはPHV仕様も追加投入
OM656型のディーゼルユニットも直列6気筒で排気量は2925cc。すでにさまざまなモデルに展開され定評のあるエンジンでS 350 dは286ps/600Nm、S 400 dは330ps/700Nmをそれぞれ発生する。トランスミッションはすべて9速ATの9G-TRONICが組み合わされる。
残念ながら、パワートレインに関しては現段階で目新しさは見られない。しかし、近いうちにV8のISG仕様と来年にはEVモードで約100kmの航続距離を有するプラグインハイブリッド仕様がそれぞれ追加されるそうだ。
最大10度の後輪操舵を実現
新型Sクラスのフロントには、定評のある4リンク式サスペンションを採用。ホイールベアリングを除いて、すべてのコンポーネントは鍛造アルミニウム製となっている。リヤはマルチリンク式リヤサスペンションだが、以前お伝えしたように新型Sクラスは後輪操舵機構(パーキングスピードでは最大10度の操舵角)を備えているため、あらためて新設計されたという。リヤアクスル・キャリアはアルミ製とし、コンピュータによる構造解析と強度向上により、従来よりも重量が軽減されている。
前後のサスペンション形式自体は基本的に従来型を踏襲しているが、例によって徹底的な走行試験を重ね、特にNVHの大幅な低減、そしてより正確な操縦性を実現したとされている。エアサスペンションが標準で、オプションに“E-ACTIVE BODY CONTROL”と呼ばれるフルアクティブサスペンションが用意されている。
「レベル3」相当の自動運転機能を搭載
2013年8月、メルセデス・ベンツは自律走行や自動運転が夢物語ではないことを証明していた。当時のSクラスをベースに自動運転技術を搭載した“S 500 INTELLIGENT DRIVE”は、マンハイムからプフォルツハイムまでの約100kmのルートの完全自律走行に成功している。このように、早くから将来の完全自動運転を見据えた技術開発を進めてきたメルセデスは、新型Sクラスにレベル3相当の運転支援システムとレベル4相当の駐車支援システムを実装した。
高度運転支援機能にはドライバー以外の“目”が必要となる。新型Sクラスはフロントマルチモードレーダー(開口角130度のふたつのレーダーセンサー)/フロントロングレンジレーダー/フロントステレオカメラ(開放角70度)/後方マルチモードレーダー(開口角130度のふたつのレーダーセンサー)/360度カメラ(至近距離用に4台)/超音波(近距離用、開口角120度の12個のセンサー)を搭載する。コンサバティブなボディによくぞこれだけのセンサーをきれいに埋め込んだものである。
一定の条件下で“パイロット”役を交替
高度運転支援システムは「ドライブ・パイロット」と呼ばれ、LiDAR(Light Detection and Ranging:距離や速度を光学的に測定する機能)や高精度なGPS、HDマップ(高精細デジタル地図)を活用。これにより、限られた条件下で法律的にも認められているエリア内であれば、自動運転に近い走行が可能となる。
レベル3相当の技術なので、ドライバーは「ドライブ・パイロット」を使用している間、セカンドタスクを出来るようになる。要するに道路状況を注視することから開放され、同乗者と顔を向かい合わせたコミュニケーションや携帯電話による通話、インターネットの閲覧など、本来なら運転中は禁止されている行為やブロックされている機能が有効になるのである。
あくまで責任者はドライバー
ただし、ドライバーはシステムからの指示があった場合や、ドライブ・パイロットを正しく使用するための条件が適用されなくなったことが明らかな場合には、必要に応じてすぐに運転を再開できるように常に準備しておかなくてはならない。睡眠や座席からの離脱などはNGとなる。
また、ドライブ・パイロット作動中にドライバーが重度の健康上の問題などにより、指示を出しても運転を引き継げない場合は、適切な減速度でブレーキをかけて車両を自動停止させる。同時にハザード警告システムが働き、車両が停止するとメルセデス・ベンツの緊急通報システムが作動、ドアと窓のロックを解除して、救急隊員が車内に容易にドライバーを救出できるよう準備を整える。
“無人のバレーパーキング”も可能に
一方、ドライバーはスマートフォンを介してリモートパーキングアシストを使った駐車も可能となる。“INTELLIGENT PARK PILOT(インテリジェント・パーク・パイロット)”をスマートフォンにインストールすると、AVP(=Automated Valet Parking、レベル4相当)に対応できるようになり、必要なオプション装備とそれに対応するコネクトサービス(国によって異なる)を組み合わせることで、AVPインフラを備えた駐車場で、国の法律で許可されている場合に限り、運転手なしで入出庫することができるようになるそうだ。
加えて、新型Sクラスに搭載されている50以上の電子部品は、オンラインでソフトウェアのアップデートが可能。顧客はそのためにわざわざディーラーまで出向く必要はなく、車両のライフサイクルを通して常に最新のソフトウェアの状態を維持できる。
室内の空気環境や湿度まで管理
エアコンのシステムも刷新され、例えばトンネルに近づくと、空気質センサーが外気の汚れを検知して、内気循環に自動的に切り替えると同時にすべての窓とサンルーフが閉じ、トンネルを出るとまた元の状態に戻すという。さらに、室内の湿度管理もするほか、活性炭入りの高機能フィルターを採用することで微細なホコリや花粉、悪臭を低減する。
まだまだ書き漏らしている装備や機能や機構がたくさんあるけれど、全般的にはやはり快適性の向上を狙ったものが多いように感じられた。
ダイムラー会長が語るSクラスの存在意義
発表会とは別に、ダイムラーAGのオラ・ケレニウス会長と電話によるインタビューの機会が設けられた。
「新型Sクラスは技術のマスターピースであり、ラグジュアリーの未来形でもある。すべては人間を中心に据えたヒューマン・センター・イノベーションに基づいて開発してきた」と語った。
「だからといって財源には限りがあるので無尽蔵に開発費をつぎ込むわけにもいかない。たとえSクラスであってもきちんと収益を上げることが重要」といい、「新しい技術やパーツは出来るだけモジュラー化して、今後は他のモデルにも展開することで開発費を回収するというのもひとつのやり方。お客様にはコスト削減の痕跡を感じさせないものの、見えない部分で性能や品質に影響を与えない範囲でスマートなコスト削減は図っている」と付け加えている。
“EV版フラッグシップ”は2021年にお披露目
Sクラスの今後のバリエーションに関しては「コロナ禍など、予想外の状況に世界が見舞われて、我々もポートフォリオを少し変更した。クーペやカブリオレの追加に関して現時点では言及しないものの、みなさんの期待は裏切らないようにしたい」と話した。
また「来年にはEQSをお披露目する」と言い、「EQSは単なるSクラスのBEVではなく、新しいクルマの提案」とも語った。
メルセデス・ベンツにとってのSクラスは、これまでモデルラインナップのピラミッドの頂点に君臨する存在だった。現在はBEVのラインナップを構築しつつあるサブブランドの「EQ」も立ち上がり、その頂点に座るのがEQSなのだろう。
メルセデスが見ている「Sクラスの先」
だが、新型Sクラスのコンセプトや技術や機能を見ていると、Sクラスが頂点ではないような気がだんだんしてきた。メルセデスのピラミッドとEQのピラミッド、それぞれの頂点を足したさらにその先に、近未来のピラミッドがすでに形成されつつあって、それがBEVと完全自動運転を備えた次世代のモデルなのではないだろうか。
新たなる頂がどのようになっているのか、彼らにはどうやらクリアに見えていて、そこに辿り着くための計画的なロードマップが敷かれているように思う。そういう観点で見れば、今回の新型Sクラスはゴールではなく、通過点に過ぎないのかもしれない。
REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)
【SPECIFICATIONS】
メルセデス・ベンツ S500 4マティック
ボディサイズ:全長5179(ロングホイールベース=5289mm) 全幅1954 全高1503mm
ホイールベース:3106mm(ロングホイールベース=3216mm)
車両重量:未発表
エンジン:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2999cc
ボア×ストローク:83.0×92.3mm
最高出力:320kW(435hp)/5900-6100rpm
最大トルク:520Nm/1800-5500rpm
EQブースト最高出力:16kW(22hp)
EQブースト最大トルク:250Nm
トランスミッション:9速AT
サスペンション:前4リンク 後マルチリンク
駆動方式:AWD
0-100km/h加速:4.9秒
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