「ジャパンモビリティショー」でも出展されていたシート
2023年11月20日(月)、千葉県にある袖ケ浦フォレストレースウェイを舞台に、HDRS(ハンド・ドライブ・レーシング・スクール)というスクールが開催された。このスクールを主宰するのは一般社団法人国際スポーツアビリティ協会。この理事長を務めるのが車いすドライバーとして活躍する青木拓磨選手である。
AXCRチャンピオン車両がマツダ「RX-7」と加速対決! ハンド・ドライブ・レーシング・スクールが開催されました
一般健常者も参加が可能
青木選手は国内ロードレース選手権での大活躍の後、世界最高峰となる2輪ロードレース世界選手権(WGP)に1997年から参戦を開始した伝説のライダーである。フルエントリー参戦2年目となる1998年シーズンが開幕する直前に行われたGPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷し、車いす生活を余儀なくされてしまっている。
事故後に4輪ドライバーに転向し、活躍している青木選手が、展開しているこのHDRSは、ハンドドライブでクルマを運転する人のドライビングテクニックの講習という点に注力したスクール。
機能障がいを有している人ならではのクルマのドライビングの最適なポジションや操作方法を確認し、それぞれの障がいに合わせたドライビングをレクチャーしている。それはハンドルの位置やシート位置、シートベルト、といった各項目をきっちり正しい位置で乗車することからスタートしている。
HDRSでは、まずスラロームおよびブレーキングからスタートする。きちんと乗車姿勢を取れているかを確認した後、休憩を挟み30分×3回のサーキット走行が設定される。障がい者はもちろん、一般健常者も参加が可能。ただ、参加費用は障がい者は健常者に比べ大いに割引されているのも特徴のひとつである。
車両は基本的に参加者自身のクルマを持ち込んで走行することになるが、アクティブクラッチやグイドシンプレックスといった手動装置を組み込んだレース用車両の日産「マーチ」やホンダ「N-ONE」も持ち込まれており、これらの車両をレンタルすることもできる。またHDRSのハンドドライブ車両で走行する青木選手の助手席同乗走行も可能である。
2024年のH.C.R.でお披露目可能?
そして今回は、この会場に、トヨタ自動車が現在開発している「キネティックシート」の開発車両である「GRヤリス」が持ち込まれた。「キネティックシート」とは、人の骨格の動きに合わせて座面と背もたれが、骨盤と背骨の運動軸周りにそれぞれ動くことで、身体への負担を軽減できるというもの。
この二つの軸を支えることで、路面の凸凹による振動や、旋回時の横Gに対して、腰から背中にかけての動きで頭が安定するように持っていくという。頭部の揺れはもちろん、筋肉への負担軽減効果もある。国際福祉機器展や先日開催された「ジャパンモビリティショー」でも出展されているシートだ。
通常、クルマのシートといえば、身体をしっかりとホールドするものであり、サーキット走行などになれば、深い座面やサイドサポートなどを備えたより拘束力の強いバケットシートをインストールすることにもなっていく。しかし、この「キネティックシート」は全く逆の発想で、「人間本来が持っている姿勢を保とうとする仕組み」を活かしたもの。
実際に車両に乗っているシートは、少し厚みのあるシートカバーが載せられているだけのように見える。座面と背もたれが、骨盤と背骨の運動軸周りにそれぞれ動くことで、身体への負担を軽減できる。路面の凸凹による振動や、旋回時の横Gに対して、腰から背中にかけての動きで頭が安定するように持っていくことで、頭部の揺れはもちろん、筋肉への負担軽減効果もある。
脊椎損傷という障がいを負ってしまうと、体幹がなく、足で自分の身体を支えることができない状態になることもある。そうなると、乗車姿勢をしっかり保持しながら、そのうえで加減速と旋回操作を上腕2本で行うことになる。そのためこのHDRSではシートベルトをしっかり固定し、その上でシート位置を合わせて身体をホールドさせるように指導をしている。
キネティックシートは一般道で下肢障がいを持つ方がハンドルにしがみつかなくていいシートというコンセプトであり、強烈な横Gが掛かるサーキットでの走行は得意分野ではないわけだが、「意外と面白い」と参加者。
シートベルトもゆったり目に固定して走行しても身体が持っていかれることがない。「どんな感じなのか?」と実際に聞いてみると「腰を柔らかく持ってもらっているような感じ」だという。横Gで足は振られてしまっているが、ハンドルの切れ角を的確に探っていくことができるようになった、と好評だった。
開発については、基本骨格はできており、現在はその耐久性についての検証を進めているという。とくに車いすから車両への移乗の際の入力や擦れに対する耐久性を上げていく必要がある。と言いながらも、2023年からは次のフェーズで実証をしていく計画だという。デザインも含め、2024年のH.C.R.(国際福祉機器展)にはお披露目できるのではないか、とのことだ。
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