夢の技術「ロータリーエンジン」の成功と逆風、倒産危機とそれを救った名車から「SKYACTIV」まで。創立100周年を迎えたマツダの歴史は個性派ゆえに山あり谷あり!?
1920年にマツダは誕生した。東洋コルク工業から東洋工業に社名を変え、マツダになり、2020年1月30日に創立から100年の節目を迎え、次の100年に向かって新しい扉を開いた。
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が、これまでの100年が順風満帆だったわけではない。失敗と成功を繰り返し、何度も倒産と吸収合併の危機を乗り越え、今まで生き延びてきたのである。
トヨタのような大メーカーではないからこそ、ある意味で必然的に「個性派」の道を歩んだマツダ。その歩みには異端児ゆえの挑戦と挫折があり、結果として画期的な(時に奇抜過ぎた)クルマや技術が生み出されてきた。
文:片岡英明
写真:MAZDA、編集部
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オート三輪から軽進出へ!「MAZDA」の由来と奇跡の復興
東洋工業のオート三輪から始まったマツダにとって四輪進出の礎である初代キャロル。現在もスズキ アルトのOEMとして車名は残る
マツダが自動車の開発に乗り出し、オート三輪(三輪トラック)の生産を行うのは、社名を東洋工業に変えてから4年後の1931年だ。
最初のオート三輪は、社長である松田重次郎の姓を用い、マツダ号DA型と命名した。この「MAZDA」は、暗黒の世界を明るい世界へと導いた光の神、AhuraMazda(アフラマヅダ)の神話もイメージしている。
自動車界の光明たらしめよう、との願いを込め、東洋工業は「MAZDA」のブランドネームを使うようになったのだ。
東洋工業は、オート三輪の分野で日本を代表する自動車メーカーにのし上がったが、1945年8月6日、広島の中心部に原子爆弾が投下され、市内は一瞬にして焦土と化した。
海沿いに工場を構える東洋工業も大きな被害を受けている。焼け残った工場もあったが、東洋工業は広島市を復興させるために本社を市役所として提供。業務の一部も請け負った。そのためオート三輪の生産は休止状態になる。
これに続く戦後の動乱期、東洋工業の社員は一丸となって会社の建て直しに取り組み、奇跡の復興を成し遂げた。三輪トラックの販売は堅調だったが、先細りもささやかれるようになる。
そこで1950年代になると、四輪トラックの開発に取り組むとともに乗用車の生産と販売も模索するようになった。
最初に手がけたのは、日本の風土に根付きつつあった360ccの軽乗用車だ。松田重次郎から社長の座を継いだ長男の松田恒次は、上級の登録車に負けない高性能で快適な軽自動車を生み出せ、とエンジニアを鼓舞した。
1960年に東洋工業は、V型2気筒エンジンの「R360クーペ」を、62年には水冷4サイクル4気筒エンジンを積む「キャロル」を発売する。この2車は好調に販売を伸ばした。
“夢の技術”具現化したコスモスポーツ
量産初のロータリーエンジン搭載車として1967年に送り出されたコスモスポーツ
だが、当時の通商産業省は、体力のない日本のメーカーが共倒れになることを心配し、新規に四輪乗用車市場に参入するメーカーの進出を阻んだ。また、業界の再編成も画策している。
だから東洋工業の首脳陣は、軽自動車だけでは業界で生き残れないと危惧した。また、その上のクラスの乗用車を出してもマツダ独自の魅力がないと買ってはくれないだろう、と考えたのである。
そこで社運をかけて開発を決断したのが、革新的なメカニズムの「ヴァンケル・ロータリーエンジン」だ。一般的な同じ排気量のレシプロエンジンと比べて驚くほどパワフルだったし、部品点数が少ないから生産コストを下げることもできる。
後世のために何か新しいものを残したい、と考えていた松田恒次社長は、ロータリーエンジンによって乗用車メーカーとしての堅固な基盤を築こうと、夢を託すことにした。
が、夢のロータリーは実用化には程遠く、量産するまでには超えなくてはならない壁がいくつも存在したのである。苦難の道を選んだ東洋工業は、経営危機に瀕した。だが、社員一丸となって難局を乗り切り、1967年に世界初の2ローターのロータリーエンジンを積む「コスモスポーツ」の発売にこぎつけている。
ロータリーの逆風と倒産危機救った“赤いファミリア”
5代目ファミリア。マツダの危機を救った“赤いファミリア”として名高い。その後、約30年の時を経て再び「赤=ソウルレッド」がマツダのイメージカラーとなる
その後、ロータリーエンジン搭載車を積極的に送り出していくが、1970年代になると厳しい排ガス規制に加え、2度のオイルショックに見舞われた。
燃費の悪いロータリーエンジンは海外で「ガスイーター」の汚名をきせられ、販売は低迷。再び倒産の危機に見舞われた。
だが、マツダの首脳陣とエンジニアはロータリーを捨てることはできない。「技術で叩かれたものは技術で返す」と発奮し、クリーン化とともに希薄燃焼方式の6PIによって大幅な燃費改善を成し遂げたのである。
この時期にプレミアムスポーツクーペの「コスモAP」と「サバンナRX-7」を投入したが、この2車は新たなファン層の開拓に大きく貢献した。
ロータリーエンジン車として新たな境地を切り開いたサバンナRX-7は代替わりを経て、2002年まで販売された(写真は最終型となったFD型)
そして、1980年にはFF方式に転換した「ファミリアXG」が大ヒット。日本の景色を変えるほどの売れ行きを見せ、東洋工業を黒字へと導いている。
また、経営基盤を確固たるものにするために、1979年秋にアメリカのフォードと資本提携を結び、1981年にはフォードブランドを扱う「オートラマ」を立ち上げた。1984年5月、社名を東洋工業から「マツダ」に変更し、新たなスタートを切っている。
マツダを危機に陥れた多チャンネル化の失敗
1990年、5チャネル化に伴って誕生したオートザム・レビュー。オートザム店の専売車として気を吐いたが、後に車名をマツダ・レビューと改め、1997年に生産終了
この時期には韓国の起亜に資本参加し、北米や台湾で現地生産を開始。積極的に海外事業を拡張し、新しいブランドやバリエーションも大幅に増やしている。余勢を駆って1989年には国内販売チャネルの大改革を断行し、5チャネル体制を敷いた。
「アンフィニ」や「ユーノス」、「オートザム」などが相次いで誕生したから、新ブランドだけでなく兄弟車も矢継ぎ早に送り込んだ。
が、車種を広げすぎたため研究開発費や販売店の経費がかさむようになり、経営を圧迫した。これにバブルの崩壊が追い打ちをかけ、マツダは再び経営危機に陥ったのである。
初代ユーノス・ロードスター。クルマとしては大ヒットしたが、ユーノスブランドは後に消滅し、現在はマツダ・ロードスターとして4代目に移行
堪えきれず、1996年にはフォード傘下に収まり、またもやマツダは冬の時代を迎えた。この危機を救ったのが、実用性に優れたハイトワゴンの「デミオ」やミニバンの「ボンゴフレンディ」だ。ドライバーズミニバンのプレマシーも人気を博し、マツダは活気を取り戻している。
そして2002年4月、マツダは「Zoom-Zoom」のブランドメッセージを発信し、環境性能と安全性能を高いレベルまで引き上げながら、持続可能(サスティナブル)な未来の実現に向けて動き出した。
すべての人に「走る歓び」と「優れた環境・安全性能」を提供するために発表したのが「SKYACTIV」テクノロジーだ。マツダはクルマの基本となる技術のすべてをゼロから見直し、常識を覆す技術革新によって世界一を目指した。
ロータリーからSKYACTIVへ! 異端児の新たな「挑戦」
SKYACTIVテクノロジーを全面採用した初のモデルとして2012年に発売されたCX-5。以後、同技術は主力車種の全モデルへ展開された
この時期、内燃機関は遠からず絶滅するだろうと思われていたが、マツダは異を唱え、内燃機関の可能性と未来を次世代の「SKYACTIV」テクノロジーに託している。
目指したのは、運転する楽しさやワクワク感を失うことなく、地球環境に配慮したクルマ作りだ。ロータリーターボを積むRX-7は2002年で終わり、自然吸気のロータリーエンジンを積むRX-8も2012年をもって生産を終えた。
ロータリーエンジンと入れ替わるようにして登場したのが、SKYACTIV技術を採用した「CX-5」や「アテンザ」などだ。
新世代の直噴ガソリンエンジンやターボ、直噴ディーゼルターボを積むマツダのニューモデルは、日本だけでなく海外でも高く評価され、販売を伸ばしている。
その最新作は、火花点火制御圧縮着火方式の画期的なエンジン、「SKYACTIV-X」だ。
これは過給機の力強さとマイルドハイブリッドの優れた燃費を併せ持つ新感覚ガソリンエンジンで、「マツダ3」に積んでデビューした。
何度も苦難を乗り越え、不死鳥のように甦ってきたのがマツダだ。いつの時代も打たれ強い不屈の闘志と進取の気象が、未来に向かう原動力となっている。この姿勢は今後も変わらないだろう。
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