ブランド初のバッテリーEV(以下、BEV)専用モデルとなる新型「RZ」のプロトタイプに、今尾直樹が先行試乗。驚くほど完成度の高かった和製プレミアムBEVを徹底チェック!
低重心のミドシップ感覚
旅に行きたくなる3列シートSUV──新型マツダCX-8グランドジャーニー試乗記
レクサス初のBEV専用車、RZ(アールズィー)プロトタイプに、ごく限られた場所と時間ながら試乗した。「Lexus Electrified試乗会」なる催しが2月中旬、袖ヶ浦フォレストレースウェイで開かれたからだ。
いやぁ、たまげました。
これは初代レクサス「LS400」(日本名:セルシオ)以来の衝撃を世界に与えるかも……と、思った。クロスオーバーSUV、ということは背の高い5人乗りの実用車なのに、ランボルギーニ「アヴェンタドール」みたいな、低重心のミドシップ感覚でテクニカルなレーシング・コースをスイスイ曲がっていくのだから。それも、爽快なスムーズさでもって。
どうしてそんなことができるのか? 車速は80~100km/hで、と、主催者側に求められ、筆者が素直にそのルールに従ったことはあるだろうけれど、要するにBEVだからである。電気ですかぁ。電気があればなんでもできる。
もうちょっと細かく申し上げると、技術的にふたつの理由が考えられる。その1は、EV専用プラットフォームの「e-TNGA」である。トヨタ「bZ4X」&スバル「ソルテラ」でも使われているe-TNGAは、2850mmのホイールベース内の床下に重たいリチウム・イオン電池を並べている。つまり、重心が低いうえにマスがホイールベース内に収められている。
さらに衝突時に電池を守るべく、ラダーフレームを頑丈にした、みたいな骨格がつくられている。運動性能面から見ると、低重心、高剛性ボディをあらかじめ用意していることになる。
しかもRZではボディの前後にヤマハ特許のパフォーマンス・ダンパーを採用したり、C、Dピラーに発泡剤を注入したりして、さらなる剛性アップが図られている。
その2は、DIRECT4(ダイレクト・フォー)なる新しいAWDシステムである。あ、そうそう。少なくとも試乗したレクサスRZ450eはフロントとリアのアクスルに、それぞれモーターを搭載するAWDなのである。前輪を駆動するモーターは最高出力150kW(203.9ps)、後輪用のそれは80kW(109ps)と、合わせて230kW(312.9ps)を発揮する。
モーターそのものは、bZ4XのFWD専用のそれをフロントに、前後ともに80kWのAWD用をリアに用いている。最大トルクは前が266Nm、後ろが169Nmと、ガソリン・エンジンでいえば4.0リッターV8並み、ということになり、2110kgの軽からぬボディを、0~100km/h:5.3秒で加速させる。
数字だけ並べると、これはポルシェの小さいほうのSUV、「マカン」のベーシック・モデル(2.0リッター4気筒ターボ、265ps)の6.4秒より1.1秒も速く、「マカンS」(2.9リッターV6ターボ、380ps)の4.8秒よりコンマ5秒遅いだけで、ミッドシップ2座スポーツカーの「ケイマン718」(2.0リッター水平対向4気筒ターボ、300ps)の5.1秒までコンマ2秒に迫る。ボディのリアに誇らしげに貼られた450eのバッジは伊達ではない。
バッテリーは基本的にbZ4Xと同じで、航続距離は494km(J-WLTC)とされている。RZは標準タイヤが20インチで、車重は先述のごとく2110kg。18インチで1920kg(FWD)のbZ4Xは最長で559kmである。レクサスRZは航続距離とのバーターで、プレミアムな性能を獲得しているわけだ。
レクサスの新境地で、問題のダイレクト4である。トヨタ・クラウンやレクサスRXといったハイブリッド+電気モーターのAWDでもすでに使われている固有名詞だけれど、RZのダイレクト4はBEVだけに一味違う。前150kW、後ろ80kWという前後モーターの高トルク・高レスポンスという特徴を生かし、ようはクルマの姿勢をフラットに保ってくれる。
この効果は驚くべきもので、少なくとも筆者は、電子制御のアクティブ・サスペンションもかくや、に感じた。あくまでフォレストレースウェイを80~100km/h程度で走る限りにおいてではあるものの、ホント、ミッドシップのスーパーカーみたいな低重心感覚と凝縮感でもって気持ちよく曲がる。
「レクサスの新境地」と、申し上げても過言ではない。だから、はっきりこう申し上げましょう。レクサスの新境地である。
最低地上高はフツウの乗用車よりたっぷり取られていて、全高が1.6mを超えているのに、ロールもノーズダイブもスクワットも、ごく穏やかで、姿勢変化する場合も、ゆっくり、ごく自然な印象を与える。時間の流れが遅い、みたいな安心感もある。サスペンションそれ自体はフロントがマクファーソン・ストラット、リヤはダブル・ウィッシュボーンの、ともにコイルスプリングという、純然たるメカサスであることが信じられないのである、私は。
ダイレクト4の考え方は、「どうやってレクサスらしい走りを実現するのか?」と、頭を悩ませた開発陣が地上最速の動物、チーターからヒントを得たそうである。獲物を狙うチーターのようにぶれない視線・体幹のよさを意識している、と配布された資料にある。
具体的には、たとえば、コーナーへの入り口では減速しているから慣性の法則で前のめりになる。それをフロントのブレーキを弱めてリアを強くすることで、アンチ・ダイブの姿勢をつくる。コーナーに入ったら、前後駆動力を75:25ぐらいの前寄りにする。姿勢が安定したらリヤへの配分を増やし、より曲がりやすいように、内輪側にブレーキをかけたりもする。コーナー出口で加速の際には後ろの沈み込みを抑えるべく、リヤへの駆動力を後輪駆動寄りにまで増やす。ドライバーの私は、電子制御デバイスがせっせと働いていることをまったく感知しない。
しつこいようですけれど、ごくごく自然に物理の法則に逆らっている。駆動力と制動力の配分だけでクルマの姿勢がこれほどフラットになるのであれば、可変サスペンションはいらないのでは……とすら筆者は思った。
巧妙な人工音もうひとつRZで印象的なのは静粛性である。フォレストレースウェイを走る限り、ロード・ノイズも風切り音もインバーターの音もほとんど入ってこない。静粛性については「頑張りました」と、レクサスの開発の方からうかがった。
資料には、フロア、ホイール・ハウス、ダッシュボードの内側などボディ各所に遮音・制振・吸音材が貼られ、サイド・ガラスを支えるゴム部分に工夫を凝らすなど、念入りな処理が施されている。RZとbZ4Xの100kgほどの重量差は遮音材にあり、と推察される。
といって無音なわけではない。EVユニットから発する音が人工的につくられているからだ。
ASC(Active Sound Control)と名づけられたこれは、EVらしい人工的な音ではあるものの、ヴオオオオンッという比較的野太い低周波音で、EVにありがちない高周波音ではないところに特徴がある。高周波の音をずっと聴いていると、耳障りだと1回なっちゃうと不快に思ってしまうからだ。
ASCの人工音は、速度感、抑揚感、クルマとのつながり、ということを音の専門家とともに研究しながらつくり込んでいるという。内燃機関だったらマフラーの音を車内に轟かせたりするわけだけれど、EVの場合、人工的につくった音をメモリーに入れて、アクセル開度等を見ながらスピーカーから出している。われわれはつまり、アクセルを踏むことでレコードのボリュームを変えているわけだ。
減速時にはヒュゥウウウンッという、ギヤ・ノイズみたいな、インバーターの音に近い、EVにありがちなサウンドも聴こえてくる。加速時の音だけだと、クルマとの対話が途中で切れてしまう感があるからで、加速・減速・再加速と、音がつながって出てくることによって、クルマとの一体感と心地よさを生み出そうとしているのである。
ドライバー、つまり私自身はアクセル一定のつもりでも、状況によってサウンドが異なることもある。たとえば、路面が若干上り坂だったりすると、モーターの負荷が異なる。それをクルマが音で知らせ、ドライバーにより多くの情報を与えようとしているのである。
レクサス新時代の幕開けにふさわしい1台発売を前提にしつつも、時期は未定だという、ステア・バイ・ワイヤ搭載車にも試乗した。
操舵装置がステアリングホイールではなくて、飛行機の操縦桿のようなカタチになっていることが最大の特徴で、操舵側と前輪側のそれぞれにモーターが付いていて、ドライバーの操作を電気信号で前輪を動かすモーターに伝える。操舵側のモーターはドライバーが自然に感じるように人工的な反力をつくっている。
試乗車に着座すると、飛行機の操縦桿みたいな、文字通りのハンドルは、2時から10時ぐらいまでのリムの部分がないため、なんだかフェンスのないところでプロレスを見ているような、あるいはネットのないネット裏でベースボールを見ているような頼りなさを最初は感じる。これこそ慣れというもの、かもしれない。
量産車で世界初のシステムのこれは、ロック・トゥ・ロック150度、ハンドルの持ち替えなしで前輪を最大限動かすことができる。低速だと極めてクイックで、ちょっと動かしただけでボディが左右に揺れまくる。それは初めて乗った筆者がハンドルをちょっと左に切っただけでクルマが大きく反応したことにたまげ、慌てて右にハンドルを切ったところ、当然、またもやクルマが大きく反応し、これはいかんと、またもや左に切った。連続的に左右に切ることを繰り返したわけである。すると、急激な前輪の動きにボディのロールが付いてこない、という状況になる、ということらしい。
これも慣れの問題で、低速ではほんのちょっと動かしてやればいい。人間というのは、慣れるのである。安心してください。
機械的なつながりがないため、路面からの振動がステアリングに伝わってこない。という乗り心地面でのメリットもある。それを披露するため、路面にプラスチックの板が並べてあって、その上を通過するというメニューも用意されていた。ただ、ボディはなるほど揺れるから、私的にはさほど驚かなかった。
驚いたのは、ステア・バイ・ワイアのRZでフォレストレースウェイを走ったときである。そのスムーズさと、採れたての野菜のような新鮮さ、これはいったいどこから来るのか、公道でもうちょっと試してからご紹介したい。
ともかくレクサスRZプロトタイプは、静かで精緻で凝縮感があって、知的な雰囲気もある、レクサス新時代の幕開けにふさわしいてんこ盛りの内容をもったBEVであった。レクサスは2035年に100%電動化を目指して動き始めているわけだけれど、電動化は大吉になりそうだと筆者は思った。
文・今尾直樹 写真・小塚大樹 編集・稲垣邦康(GQ)
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