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フィットRS誕生の陰にレースあり!?【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

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フィットRS誕生の陰にレースあり!?【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

車種別・最新情報 [2022.10.10 UP]


フィットRS誕生の陰にレースあり!?【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】
文●石井昌道 写真●ホンダ

ホンダ マイナーチェンジした「フィット」用純正アクセサリー発表

 このコラムでも何度かホンダ・フィットe:HEVによるEnjoy耐久7時間レース参戦記を載せさせていただいたが、じつはこのプロジェクト、フィットのマイナーチェンジへ向けてのスタディという側面ももっていた。
 もともとは、自分を含めたモータージャーナリストの有志でつくったTOKYO NEXT SPEEDというチームは、ハイブリッドカーなど次世代パワートレーンでレースに出てみようというのがコンセプト。過去にはCR-ZなどでEnjoy耐久レースに出ていたが、その後はベース車両が確保できずにエンジン車で参戦するなどお茶を濁してきた!? そこでフィットがモデルチェンジする際、ハイブリッドシステムがe:HEVに変更されることもあって興味を持っていたのだが、ベース車両が手に入って参戦を決意。ハイブリッドでレースに出ると熱の問題等がでることが多いので、フィットの開発チームにトラブル等への対応ができないかと打診したところ、話が盛り上がり、本格的にマイナーチェンジへ向けてのスタディとなったのだった。
 というのも、現行フィットはそれまでとちょっと趣向をかえて心地いいがコンセプトに取り入れられ、それはそれで多くのユーザーにとって嬉しいものだったが、その一方でスポーティグレードのRSがなくなってしまったのが残念だった。開発チームにもその想いはあり、マイナーチェンジではそれを復活させたいと願っていたのだ。それも、これから本格的なBEV時代が訪れるまでのホンダのパワートレーンの中心になるe:HEVで(エンジン車でもRSは用意される)。だからフィットe:HEVでレースに出てみたいという我々の思惑は、RSへ向けてのスタディになると判断された。Enjoy耐久7時間レースはアマチュア向けではあるとはいえ、エンジン車が中心でハイブリッドカーは有利とはいえないが、そこでのチャレンジは大いにやりがいがあったのだ。


市販のフィットを改造し、Enjoy耐久7時間レースに参戦。その知見は新型フィットRSにも生かされた

 フィットe:HEVのレースカーは、サスペンションやタイヤといったシャシー系を一般的な市販車ベースのN1規定相当でチューンし(実際にはタイヤサイズの関係でN2規定)たところ、つまりパワートレーンは市販車と同じものから始めた。一般道で燃費重視であるため、それではあまり速くはなく、エンジンやモーターの強化をしていった。駆動用モーターは市販車の80kW(109PS)に対して96kW(131PS)へ、発電用のエンジンも72kW(98PS)から78kW(106PS)へ。また、モーターの特性として低・中速域ではエンジン車を凌ぐトルクで加速が速いが、サーキットで多用する高速域では伸びが今ひとつなのでハイギアード化して最高速を伸ばすということも行った。エンジンは、市販車ではあまり回さず、燃費効率とトルキーな走りのバランスをとっているが、レースカーは速さ重視でけっこうぶん回す制御になっている。また、市販車にはないLSDを投入したこともサーキットでのラップタイム向上には大きく貢献した。サスペンションは、当初の仕様は硬くして限界性能を上げるだけで少々トリッキーなところもあったが、周辺の剛性アップなど本質的にいいクルマに仕上げる方向で開発され、最終的には限界性能と高さと質の高い動きを実現するにいたった。
 その他、徹底した冷却対策なども施して、最終的には走り出しから約20秒も速くなった。市販車ベースのレースカーとしては、ほぼやり切ったところまで突き詰めたのだ。

 そこで得られた知見は、マイナーチェンジで復活したRSに注ぎ込まれることになった。
 レースカーは、ある意味で速ければフィーリングなどは二の次で開発を進めたが、新たに登場するフィットe:HEV RSはいつまでも運転したくなる爽快は走りを目指した。レースカーからエッセンスを抽出。走りの楽しさ重視となっている。


左からレースカー、新型フィットRS、新型フィット
 今回は、一足早くテストコースで試乗。マイナーチェンジ前の従来モデルとレースカーも比較用に試乗した。
 フィットe:HEV RS駆動用モーターは90kW(122PS)、エンジンは78kW(106PS)へと従来の市販車よりも強化(RS以外のグレードも同様)。これまではなかったSPORTモードが加わり、これを選択するとレースカーと同様の制御ロジックによって加速レスポンスが向上している。アクセルを踏み込んだ瞬間からグッとトルクが立ち上がり、しかも強い加速がスムーズに繋がっていくのだ。レースカーのほうが強烈なものの、従来モデルに対しては明らかにレスポンスが向上し、コーナー立ち上がりでトラクションをかけていける。
 従来モデルは、心地よさを重視して比較的にサスペンションがソフトタッチだったため、加速レスポンスをあえて落としている面もあった。グイッとトルクが立ち上がるとピッチングが大きくでて不快に感じることもあるからだ。そこでフィットe:HEV RSはサスペンションを専用に開発した。加速時にピッチングが起きづらくするため、リアのスプリングは+26%のレートアップ。これによってアクセルを強く踏み込んでも姿勢変化が少なく、不快さがない。フロントのスプリングは逆に-4%のレートダウンとされたが、これは心地良く曲がっていく性能を出すためだ。ダンパーは前後ともに減衰力を高め、フロントスタビライザーは4%のレートアップなどでバランスをとっている。


新型フィットRS
 ハンドリングを確かめるコースには、あえて凸凹が大きい路面などがあり、そこを走ると限界性能だけではなく、ボディコントロールの上手さとそれによる走りの一体感が実現していた。過度に硬いわけではなく、しっかりとしたダンピングでタイヤを常に路面に押しつけられている。また、フロントのスプリングレートをあえて落としていることで、ノーズをスッとインに向けていくのがやりやすく、かつスタビリティが高いので安心してコーナーを攻めていける。速さを追求するタイプRとは違って、日常域+αのなかで爽快な走りを狙うRSのコンセプトにぴったりの乗り味だ。自分が乗ってきたレースカーでの知見が、市販車のスポーティグレードに反映されたことは感慨深く、さらにいろいろな場面で走ってみたくなった。もうすぐ公道で走りを試すチャンスがあるから、今度はもっと長く走り続けていようと思う。

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