穏やかな見た目のアウトバーン・ロケット
執筆:John Evans(ジョン・エバンス)
【画像】控えめなアウトバーン・ロケット アウディS6(C6) 現行のC8型S6も 全51枚
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
2006年から2011年に作られたC6世代のS6。RS4やRS6の登場で、日の当たる存在とはいえなかった。運転する楽しさや注目度の高さでも、及ばないことは確かだ。
当時は、V型10気筒エンジンを搭載しながらも、アウディ製サルーンとしてA6に溶け込むような存在といえた。しかし、穏やかな見た目のアウトバーン・ロケットを、嫌いだというクルマ好きは少ないはず。メカニズムのトラブルは嫌いだとしても。
新車当時、15年前のS6の英国価格は5万5000ポンドほど。近年では7000ポンド(106万円)前後から出てくる。
見た目はA6と間違えそうだが、前後を確認すれば控えめにS6のエンブレムが付いている。フロントフェンダーには、V10という誇り高い記載もある。
LEDデイタイムライトがフロント両サイドのエアインテークで睨みを利かせ、リアでは4本出しのマフラーが凄みを利かせる。見る人が見ればわかる違いだ。
5.2Lの自然吸気V型10気筒エンジンは、最高出力435psを発生。最大トルクは54.9kg-mを3000rpmから4000rpmで発生し、近年のターボエンジンと比べれば回転域は高めといえる。
クワトロによる四輪駆動で、RS4と同様にトルクの60%はリアタイヤへ伝達。2007年からはトルセンLSDが追加された。
トランスミッションは、パドル付きのティプトロニック6速AT。ブレーキは前後ともにベンチレーテッド・ディスクが組まれ、フロントの直径は385mmもある。
2009年にフェイスリフトを受けるが、2008年にRS6が登場。S6の影は薄くなってしまった。
クワトロによる安全性の高さを称賛
現在の英国の中古車市場では、サルーンよりアバントの方が流通量は多い様子。価格に大きな違いはないようだが、1660Lの荷室を持つアバントの方が実用性では勝る。
AUTOCARでももちろん、C6型のS6へ試乗。V10エンジンが備える能力の可能性を発揮できていない、と感じたようだ。0-100km/h加速5.2秒では、不満だったのかもしれない。乗り心地が硬く、路面の不規則性をすべて知覚させるとも触れられている。
中古車を試乗して同様の乗り心地だと思ったのなら、スプリングやサスペンション・ブッシュの状態は良好ということだ。ボディは軽くないが、ブレーキは力強く真っ直ぐに効くのが正解となる。
プラスの面では、クワトロがもたらす安全性の高さを称賛している。19インチのアルミホイールにコーナーで向きを変えるキセノン・ヘッドライト、レザーシート、プライバシー・ガラスなどが標準装備。今でも不足はないだろう。
オプションも多彩で、カーボンファイバー製の内装トリムに20インチ・ホイール、リアブラインド、高音質なサウンドシステムなどが装備できた。とはいえ、中古車を購入する場合は整備記録を優先したい。
インテークマニホールドの不具合や、排気漏が確認ポイント。ダイレクト・インジェクションのFSIで起きがちな、バルブの汚れも気にしたいところ。
多くのS6は、オプションが載っていて状態は良さそうに見える。だが最近の整備内容を確認するまでは、一歩引いて交渉に当たりたいところだ。
専門家の意見を聞いてみる
マーティン・アダムズ:ユニット20社代表
「C6型のS6はRS6の影の存在でしたが、良いクルマです。5.2L V10エンジンは、ランボルギーニ・ガヤルドとの結びつきが強いと考えられていますが、向こうはドライサンプ。あまり共通性は高くありません」
「信頼性に優れるものの、部品は高価。安値のS6は、結果的に安く済まないかもしれません。コイルパックもインジェクターも10本あります。プラクだけでも10本で240ポンド(3万6000円)の出費です。ブレーキディスク1枚の値段も、それくらいしますね」
「ボディのサビが問題になることは少ないといえます。深刻な凹みなどは、高く付くでしょう。内装も丈夫で傷みにくいですが、15年前のクルマなので技術的な古さは感じるでしょう」
購入時に気をつけたいポイント
エンジン
エンジンオイルの交換は、英国では1万6000kmか1年毎が指定。バルブはカーボンが溜まりやすく、完全に除去するには分解洗浄するしかない。
タイミングチェーンは4本あり、エンジンの後ろ側に付いている。交換作業は高く付く。チェーン自体は頑丈なものの、チェーンガイドは樹脂製で、テンショナーも壊れる可能性がある。
インジェクターは年式が古いクルマでは交換が必要なことも。10本の費用は安くない。試乗時は、許されるすべての速度域で違和感がないか確かめたい。可変式の吸気マニフォールドが壊れることもある。
排気系
非常に複雑なシステムを採用しており、不具合が生じると費用がかさむ。ジョイント部分が錆び、排気漏れすることもある。
トランスミッション
密閉式だが、ATの専門家は6万4000km毎のフルード交換を推奨している。
ブレーキとサスペンション
アルミ製のサスペンション部品は耐久性に優れるが、ブッシュ類はヘタっているだろう。交換することで、見違えてハンドリングが良くなる。
ブレーキ系の部品は高価なので、ディスクの減りやパッドの厚みを確かめたい。タイヤが廉価ブランドの場合、メンテナンス費用が充分に投じられていない可能性がある。
ボディ
ボディは錆びにくく、注意するなら修復を受けた部分くらい。ガラスの縁のゴム部分に塗装の跡がないか、ボンネットとフェンダーのラインがズレていないかなど、修復の痕跡はしっかり確かめたい。
ドアとフェンダーとの隙間は、ミリ単位で揃っているべき。荷室内側の状態も確認する。
インテリア
S6は走行距離を感じさせない。ペダルやステアリングホイールの劣化具合が、走行距離なりかどうか観察する。
知っておくべきこと
適切に維持されてきたS6なら問題は殆ど起きないはずだが、英国ではディラーの延長保証にも入れる。中古車店によっては対応可能な場合もあり、検討した方が良いだろう。
英国アウディの1年保証は、すべてのコンポーネントが対象で年間2186ポンド(33万2000円)。安くないが、年間1万6000kmの走行まで許容され、内容は包括的だ。
英国ではいくら払うべき?
7000ポンド(106万円)~8499ポンド(128万円)
個人売買のC6型S6サルーンが英国では探せる。複数オーナーで走行距離も長め。よく見比べれば、お買い得の1台も出てくるだろう。
8500ポンド(129万円)~1万999ポンド(166万円)
状態の良いS6が増えてくる。2006年式で15万4000km走ったクルマが、車検付きで8995ポンド(136万円)という例があった。
1万1000ポンド(167万円)~1万2999ポンド(196万円)
フェイスリフト以降の2009年式が中心。装備記録も整っているはず。英国では伸びがちだが、走行距離は16万km前後になるようだ。
1万3000ポンド(197万円)以上
走行距離12万km前後の、状態の良いS6が見つかる。アウディのディーラーで整備を受け続けてきた13万kmのS6を執筆時に見つけた。
英国で掘り出し物を発見
アウディS6 5.2 V10クワトロ 登録:2008年 走行:20万900km 価格:7999ポンド(121万円)
しっかり整備され続け、見た目の状態の良いS6。ディーラーで定期点検を受けてきたというが、内容は請求書などを見て確かめたい。近年、バルブのカーボン除去のためにテラクリーンと呼ばれるクリーニング処置を受けたという。
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