グループA時代のスター、フォード「シエラRS500コスワース」
1980年代のグループA時代には、数多くの魅力的なツーリングカーが出現し、それらは今なお「ヤングタイマー・クラシック」の人気車として君臨しているのはご存知のとおり。さらに、一部モデルに公式設定された「エボリューションモデル」は、現在のスーパーカーにも匹敵する価格で取り引きされています。今回は、英国の自動車オークションビジネス界では比較的新興勢力である「アイコニック・オークショネアーズ」社が、2024年5月第3週末に開催した定例オークションに現れた、フォード「シエラRSコスワース」を俎上に乗せ、モデル解説とオークション結果についてお伝えします。
なぜワンオーナーのフォード「シエラRSコスワース」が日本にある? ラリーメカニックだったオーナーが手塩にかけた極上車でした
レースで勝つためのエボリューション化が施されたフォード「シエラ」とは?
1985年のジュネーブ・モーターショーで初公開されたフォード「シエラRSコスワース」は、当時グループA規約で戦われていたヨーロッパのツーリングカーレースで、総合優勝を狙う「ディヴィジョン1」を想定して開発されたホモロゲーションモデルだった。
コスワースが開発と製作を担当したエンジンは、当時の量産型シエラ用ユニットのコンポーネンツをいくつか流用したが、実質的には別もの。軽合金ヘッドを持つ2L直列4気筒DOHC 16バルブで、「ギャレット」社製T3型ターボチャージャーと空冷式のインタークーラー、イタリアの「ウェーバー・マレッリ」社と共同開発したECUを搭載し、最高出力204psを発生した。
このエンジンとともに誕生したシエラRSコスワースは、1986年シーズンに向けて5000台の規定生産台数をこなし、FIAグループAホモロゲーションを獲得。グループA時代のサーキットレースで輝かしい戦果を収めてゆく。
しかし、レースの世界では常にアップデートが求められ、また、当時はシーズンごとにレギュレーションが改定されるのが当たり前のこととされており、グループAでもサーキットレース用の「スポーツ・エボリューション(ES)」規約が施行。500台(1992年以降は250台)以上の追加生産が必要とされ、それに対応したベース車両、いわゆる「エボリューションモデル」が求められてゆくことになる。
そこで新たに開発されたのが、ホモロゲーションモデルであるシエラRSコスワースのエボリューションスペシャル、「シエラRS500コスワース」だった。
RS500は、レースでのポテンシャルを向上させることを主眼とする変更を可能としたES規約に基づき、コーチビルダーの「ティックフォード」社の協力のもと、グループAの規定生産台数の10%にあたる500台が手作業で組み立てられたという。
コスワース製エンジンにターボチャージャーの大型化などのチューンを加え、市販モデルでも最高出力227psを発生。駆動系も強化されたうえに、リアスポイラーの増設によりダウンフォースも大幅に増加することになる。
その車名のとおり、きっかり500台が生産されたといわれるRS500コスワースは、その大半(392台)が「ブラック」、56台が「ダイヤモンド・ホワイト」、52台が「ムーンストーン・ブルー」で仕上げられた。
RS500は生来の目的を果たすように実戦投入され、1988年シーズンの「ETC(欧州ツーリングカー選手権)」ではディヴィジョン2でクラス優勝を集めたBMW「M3」勢を破って製造者部門の年間タイトルを獲得。
また「全日本ツーリングカー選手権」でも1987年シーズンからプライベーターによって参戦。日産「スカイラインGT-R」(R32系)によってシリーズが席巻される直前までシリーズタイトル争いの常連となっていたことを、ご記憶されている方も多いに違いない。
特別なRS500のなかでも、さらに特別な1台
このほどアイコニック・オークショネアーズ社の定例オークションに出品されたのは、1987年8月6日にティックフォード社からグロスター州チェルトナムの「ブリストル・ストリート・モーターズ」社にデリバリーされた、1987年式のフォード シエラRS500コスワース。500台が限定生産されたうちの433台目で、ボディカラーはダイヤモンド・ホワイトである。
この個体は、初代オーナーに引き渡された直後に「E100 GFH」として登録され、そののち今回のオークション出品者である現オーナーのもとで、「E433 COS」にナンバー変更された。
2007年、現オーナーは自らのコレクションに加えるために、最高のRS500を探し出して購入することを決心。数カ月にもおよぶリサーチと適切な人脈を経て、彼はこのNo.433を見つけだし、当時RS500の史上最高額で購入したとのことである。
生産から37年を経ていながら、現在に至るまでペイントは無傷で、何年も手を加えられた形跡がなく、すべてオリジナルと思われる。インテリアもほかのRS500とは一線を画しており、温度管理されたガレージで特注ボディカバーをかけて過ごしてきた恩恵を十分に享受している。
またダッシュボードやシフトノブ、ステアリングホイールを保護している特注のカバーは、この個体がいかに大切にされてきたかを示す。いっぽうメカニカルな面では、このモデルではありがちな改造が施された経歴は一度もなく、新旧のオリジナル仕様のエキゾーストを除き、すべてのオリジナルパーツを保持している。
くわえて、古いクルマの判定材料として重要なヒストリーファイルはよく整理されており、走行距離9167マイル(約1万4700km)までのスタンプが押されたサービスブック、パーツおよびメンテナンスのための大量の請求書、新車からのほぼすべてのMOT車検証が年代順に記載されており、この個体の表示走行距離の少なさを裏付けている。
オークション公式カタログ作成時点での走行距離は、わずか1万2805マイル(約2万500km)と、ごくわずかしか使用されていないにもかかわらず、このRS500は定期的な点検・整備、細部のチェックを受け続けており、そのうちの2回はカムベルトの交換を含め、主に現オーナーの手によるものである。
フラットスポットができないようパッド入りマットの上で保管する徹底ぶり
彼のオリジナリティに対する完璧主義者的なこだわりは、愛車を常にパッド入りのマットの上に保管し、不動のタイヤにフラットスポットができることがないようにしていることからもうかがい知ることができる。
No.433は完全なノンレストアながら、完璧なコンディションを保っている。愛情を込めてカーショーやイベントに持ち込まれ、数多くの賞も獲得している。アイコニック側では完璧に走り、純粋で手つかずの、新車として作られた時代そのままのフィーリングを備えているという自信を露わにしていた。
またスペアホイールは新品で、英国フォード純正のファーストエイドキットやワークショップマニュアル、ブリストル・ストリート・モーターズのケースに収められたオーナーズマニュアル、箱入りの純正フォグランプ、ディスク型の納税証明ホルダー、オリジナルの純正カーマット。さらには特注ボディカバーとダッシュカバー、オリジナルのエキゾーストとタイヤなどもすべて、オークションの落札者に引き渡されることになっていた。
特別中の特別モデルゆえの高額相場
アイコニック・オークショネアーズでは、旧屋号の「シルヴァーストーン・オークション」を名乗っていた時代から、総計30台以上のRS500を市場に送り出してきたそうだが、このNo.433はそのなかでも最高の1台とのこと。その自信とともに、16万ポンド~19万ポンドという、もとより価格高騰中のRS500の中にあってもハイエンドに属する高額のエスティメート(推定落札価格)を設定した。
そして迎えた競売では、エスティメート上限まであと一歩の18万9000英ポンド、日本円に換算すれば約3780万円で落札されることになったのだ。
ちなみに、英国のカーマニアが愛してやまないフォードのパフォーマンスモデルのなかにあって、「エボ」ではない通常のシエラRSコスワースは5~6万ポンド、4ドアサルーン版の「RSコスワース サファイア」であれば3万ポンド前後というのが大方の相場価格であるのに対し、RS500は比較的安価なものでも10万ポンド前後で売買される超人気モデル。なかでも、今回の個体は特別中の特別ということだったのであろう。
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みんなのコメント
見ました。この車、レースは速いけど 売ってないんです。街中でも見ない。親父に頼んで オートラマに立ち寄る。フォードの看板があるから、シエラの情報が知りたいと 頼んだ。店長が出てきて、
シエラは、日本に輸入されてないんだ。だから、
何も無いんだと言われ、ガッカリして帰宅した
小学生時代。