2021年7月に2代目へフルモデルチェンジしたアクア。「どんな人にも、どんな時でもいい」をキャッチフレーズに、大きな進化を遂げたのだが、初代ほどの元気がない。
フルモデルチェンジから現在まで、乗用車ブランド通称名順位の月別順位でも首位を取れず、中段に沈むことも多い。かつての人気車アクアはどこへ行ったのか。アクアが苦戦する理由を考えていく。
フルモデルチェンジもアクアが低迷!! 半導体不足だけじゃない!? かつての王者苦戦のワケ
文/佐々木 亘
写真/TOYOTA、ベストカー編集部
■初代アクアに比べると目立つPR不足
2011年登場の初代アクア。販売開始から1カ月で月間販売目標の10倍におよぶ12万台の受注を記録した
初代アクアの登場は、非常に衝撃的なものだった。販売開始から1カ月で月間販売目標の10倍におよぶ12万台の受注を記録する。アクアのCMを見ない日はないほど、毎日さまざまな時間帯でPRが行われていた。認知度は急激に高まり、その後も販売台数は高い水準で維持されている。
モデル中期から末期になると、CMの内容をがらりと変わった。「千本桜」や人気RPG「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」の曲を使い、印象に残るCMづくりで認知度をキープ。
若年層から30~40代のファミコン世代にスポットを当て、アピールの仕方や売り方にも工夫があったように見える。最終型では鬼滅の刃のオープニング曲「紅蓮華」をリミックスして使用し、若い世代への訴求をさらに強めた印象だ。
対する現行型のCMは、発表当初には目にすることがあったが、他車種のCMに比べると、放送回数は少ない。今は、カローラクロス、ノア、ハリアーなどが目に留まり、あとはトヨタイムズの印象が強く残る。余程のアクアファンでない限り、あの「いい」CMを覚えている人は少ないのではないだろうか。
店頭でのPRも少ない。販売店に立つ横断幕や旗は、ノア/ヴォクシー、SUVを主にしたもので、展示車両でもアクアの姿はほとんど見なくなった。人目から、どんどんと遠ざけられていくアクア、売れ行きが芳しくないのも頷ける。
■ハイブリッド専用車であることが足かせに
トヨタラインナップでは、すでにハイブリッド設定のないクルマを探すほうが難しい。かつてはプリウス、アクアが代表格であったハイブリッド車は、ほぼ全車種に設定され、さらにガソリンモデルが併売されている。
現在トヨタを引っ張る人気車種は、ヤリス(ヤリスクロス)、ルーミー、ライズ、アルファード、ノア/ヴォクシー、ハリアーと言ったところだろう。こうした販売台数トップ10の常連車種に混ざって、時々アクアが顔を出す程度だ。
この中で、ハイブリットの設定がないのはルーミーのみ、逆にハイブリッドだけなのはアクアだけとなる。そのほかのクルマはすべて、ハイブリッド(ライズのe-SMARTハイブリッドを含む)とガソリンの併売車種だ。
ルーミーに関しては、価格の安さと機能的で広い室内空間が、若年層と高齢ユーザーにズバッと刺さっている。特徴がわかりやすく、ユーザーへ訴求しやすいクルマだ。
対してハイブリッドだけのアクアは、ヤリス以上カローラスポーツ未満という車格を生かせず、両者の間に埋もれてしまっている。選択肢が少なく、売り手側もターゲットがわかりにくいと敬遠気味だ。
ハイブリッドにこだわり、ハイブリッドであることがアクアの価値であったが、今ではそれが大きな足かせとなってしまったのだろう。
■プリウスの廉価版は必要ない! 高級アクアの開発が急務?
2021年7月登場の現行型アクア。センセーショナルに登場した初代と比べてひっそりとした登場だった
ヤリスは約140万円~250万円の価格レンジ、カローラスポーツは約215万円~280万円の価格レンジである。ヤリス、カローラスポーツだけで、150万円~250万円のコンパクトカーで主力となる価格帯はしっかりと押さえている状況だ。ここにアクアの約200万円~260万円は、上手くハマらないだろう。
アクアは発表当初、最上級グレードのZにオプションてんこ盛りの仕様が、よく売れたと聞く。
少し年季の入った、クラウンやマークXなどの高級セダンから乗り換える人が多かったようだ。車両本体+オプションで300万円近くになる豪華アクアが、意外なほど売れた。
せっかくのハイブリッド専用車、ここに箔をつけたいのなら、アクアをプレミアムコンパクトとして売り出したほうが面白かったと思う。輸入車のAセグ、Bセグあたりと勝負するクルマでもよかったのではないだろうか。
初代アクアの代わりは、すでにヤリスが担っている。そこへアクアが正常進化で登場しても、印象は薄い。ハイブリッド専用車だからこそ、型にはまらないクルマ作りをして欲しかった。
今後、特別仕様車や先代のようなクロスオーバー、そしてGR SPORTの登場などが予想される。標準車よりも、大きく高級路線へ振り切ることで、かつての王者は輝きを取り戻せるはずだ。
よくも悪くも、「代わりがきく存在」だったアクア。役割が奪われたからこそ、自分が輝けるフィールドを新たに探す必要がある。トレンドはSUV、そして「高級」だ。プレミアムコンパクト・アクアの登場が、販売の潮目を変えるきっかけとなるのではないだろうか。
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