テスラ製ツインモーターで507ps
text:Mike Duff(マイク・ダフ)
【画像】エヴァラティ・ポルシェ964 純EVされるクラシックとレストモッド版を写真で 全116枚
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
ポルシェは当面、911を純EVにすることはない。でも1989年に発売された964型の911を、純EVにコンバージョン(エレクトロモッド)してくれる企業は存在する。フラット6とガソリンタンクを、駆動用モーターとバッテリーに置き換えたければ。
英国のエヴァラティ社は、様々なクラシックカーへエレクトロモッドの見通しを立てている。ワイドボディ化された964は、同社が可能とする内容と品質、得られるドライビング体験を提示することを目的に誕生した。
その仕上がりは素晴らしい。だが、努力相応の価値があると感じるかどうかは、空冷のポルシェ911や、電動化技術に対する考え方で変わってくるだろう。
今回試乗したエヴァラティ・ポルシェ964 シグネチャーには、テスラ由来のACインダクション・モーターが2基搭載されている。システム総合での最高出力は、507psに達する。
モーターが2基といっても四輪駆動ではなく、共有のシャフトを介して後輪のみを駆動する。途中、リミテッドスリップ・デフも挟まれる。モーターはリアアスクルの後ろにマウントされ、RRという駆動レイアウトは変わらない。
駆動用バッテリーの容量は53kWhで、搭載場所を964から探し出す作業は、難しいものだったという。ほとんどがエンジンルームに押し込まれているが、フロント側にも高圧ケーブルで結ばれて、分割されている。
バッテリーの性能を保つ上で温度管理は重要で、エヴァラティの964は水冷式になった。フロントバンパーの奥に、ラジエーターが載っている。
ボディはカーボン製 慣れない静かな車内
ドライブトレインの変更だけでなく、ボディはドアとボンネット、ルーフ、リアデッキをカーボンファイバー製に置換。インテリアも全面的に貼り直され、DIN規格のステレオ・ヘッドユニットが収まっている。
エレクトロモッドとしては珍しく、エヴァラティの964は急速充電器にも対応する。従来給油口だったリッドを開くと、CCSと呼ばれる充電ポートが付いている。高速なものにつなげば、最短40分で残量20%から80%へ充電できるという。
実際にドアを開いてエヴァラティの964を運転してみる。普段なら後ろから聞こえてくる、心地いいフラット6のサウンドがまったくない。1時間ほど運転したが、筆者は最後まで内燃エンジンの音がないことに慣れなかった。
かといって無音ではない。ブレーキサーボとパワーステアリング用のポンプが動くと、車内へノイズが届く。低速域では、しっかり聞こえる。力強い加速を求めると、駆動用モーターの唸りも響いてくる。
エヴァラティ社は、人工のエグゾーストノートも与えた。悪くはなかったが、筆者はそれが正解なのか判断できなかった。リアを見るとカタチだけ、2本のマフラーカッターが残っている。
動的性能は素晴らしい。最も強力だった仕様の964を超える能力が与えられている。
アクセルペダルを踏むと、少しの間をおいて強力な加速が始まる。ペダルを半分も踏めば、かなり鋭い。そのまま高速道路の巡航速度を超えるまで、加速度は衰えない。アクセルペダルの反応には、少しの遅れがあるようだった。
走りの印象はミドシップのケイマンに近い
フル加速を求めても、トラクションは良好。技術者によれば、テスラ社のトラクション・コントロールを流用したシステムで、タイヤのスリップを防いでいるという。とはいえ、ドライ路面では制御が入っていることがわからないほど。
コーナリング時の挙動にも、興味深い変化があった。フロントタイヤのグリップ力が増しているのに加えて、古い911らしい、リアエンジンとしての特性が抑えられている。
急加速時にフロントノーズが軽くなるような感覚や、わずかなアクセル操作でコーナリングラインを内側へ絞ったり、外側へ広げたり、というRRらしさは残っている。だが、全体的な印象はミドシップのケイマンに近い。
エンジンは電動化されたが、パワーステアリングは油圧式のまま。ステアリングの重さや感触の濃さなどを味わうと、正しい選択だったと実感する。
サスペンションは、トラックティブ社製のアダプティブダンパーが備わる。ソフトなモードを選ぶと、落ち着きのある姿勢制御と柔軟性が融合し、舗装の乱れた路面でも印象的なほど乗り心地がいい。
ブレーキは、アップグレードされたブレンボ社製のキャリパーに、大径ディスクが付く。しかしリアタイヤに強力な回生ブレーキの制御が入り、日常的な速度域ならブレーキングはほぼ不要。キャリパーが動くのは、完全に停止したい時くらいだ。
964の魅力はフラット6が生んでいた
エレクトロモッドされたエヴァラティ・ポルシェ964 シグネチャー。ベースとなる964型のポルシェ911とは別に、コンバージョン作業に25万ポンド(3850万円)が必要になる。恐らく、需要はかなり小さいだろう。
クラシカルなポルシェ911が好きで、ガソリンの自動車利用が禁止される前に電動化したいと考え、羨ましいほどの預貯金を持つ人。恐らくそんな人なら、多様な自動車コレクションを保有している。まったく異なるクルマが欲しいと考えても不思議ではない。
オリジナルの964より良いかどうか。実際に体験した筆者の意見としては、ノー。ポルシェ964の魅力の大部分は、リアタイヤの後ろに載ったフラット6が生んでいた、という事実を思い起こさせるものだった。
一方でエンジンオイルがガスケットから滲んだり、都心部でCO2の排出量が多いクルマにかけられる通行料が取られる心配はない。今後の使い勝手を考えると、エレクトロモッドさらたクラシック911の魅力も、充分に理解はできる。
エヴァラティ・ポルシェ964 シグネチャー(英国仕様)のスペック
英国価格:25万ポンド(3850万円)+ベース車両
全長:4245mm(標準964)
全幅:1660mm(標準964)
全高:1310mm(標準964)
最高速度:209km/h
0-100km/h加速:4.0秒
航続距離:−
CO2排出量:−
車両重量:1400kg
パワートレイン:ツインACモーター
バッテリー:50.0kWhリチウムイオン
最高出力:507ps
最大トルク:50.9kg-m
ギアボックス:−
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