最近、フルモデルチェンジサイクルの周期が伸びてクルマによっては4年から7年超に伸びているクルマもある。
そこで、なぜフルモデルチェンジのサイクルが伸びたのか? またモデルチェンジサイクルが長く、いまだにフルモデルチェンジしていないモデル末期車の○と×や、今、販売されているモデル末期車は買いか? 待ちか?自動車ジャーナリスト・渡辺陽一郎氏が解説する。
ミラージュがテスラに勝った!? クルマ界の不思議 6選[環境・エコカー編]
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部
初出/2018年9月10日号
■モデルチェンジは50年で4年から7年超に
最近はフルモデルチェンジを行う周期が伸びた。1960~1980年代までは4年ごとに行われたが、1990年代には6年前後に伸びて、今では発売から8年以上を経過する車種も多い。例えばヴィッツ/マーチ/エルグランドは約8年、キューブは約10年、デリカD:5は約11年、エスティマは約12年という具合だ。
フルモデルチェンジの周期が伸びた主な理由は、商品開発が海外向けになったこと。今はダイハツ以外のメーカーは、世界販売台数の80%以上を海外で売る。日本が従属的な市場になり、国内向けの商品開発が滞った。
環境/安全/自動運転などの開発に費やすコストが増えて、相対的に新車の開発費用が削られたこともある。デザインの進化が一種の飽和点に達して、変化させる必要性が薄れたことも影響している。
■基本は新しいほうがいい!
クルマを含めたすべての商品は、基本的には設計が新しいほど優れている。商品は時間の経過に伴って進化するから当然だ。従ってフルモデルチェンジが迫った時は、次期型を待つほうがいい。
例えばN-BOXは、現行型で安全装備のホンダセンシングを採用したが、車両全体の造りを見直すフルモデルチェンジを行ったことで装着が可能になった。マイナーチェンジでは対応できない。安全や環境性能の大幅な進化には、フルモデルチェンジが不可欠だ。
■先代のエンジンのほうが魅力的!
しかしその一方で「先代型のほうがよかった。モデル末期車を買って正解だった」と思うこともある。
例えばフルモデルチェンジを受けて、魅力的なエンジンが廃止されたような場合だ。先代フォレスターには、2Lの直噴ターボエンジンが用意されたが、現行型では廃止された。
販売店では「先代フォレスターのターボに魅力を感じていたお客様は、現行型でターボが廃止されることを知り、モデル末期の先代型を注文された」という話を聞いた。
センチュリーの先代型は、国産乗用車で唯一のV型12気筒エンジンを搭載したが、現行型はプラットフォームを含めて先代レクサスLS600hLと共通化され、V型8気筒5Lのハイブリッドになった。
しかも価格は700万円以上も値上げされて1960万円に達する。V型12気筒が好きなユーザーは、フルモデルチェンジを受けて選ぶ価値が下がったと感じただろう。
VWポロは、先代型までは、輸入車では貴重な5ナンバー車だった。しかし、現行型は3ナンバー車になった。その一方で標準グレードのエンジンは、直列4気筒1・2Lターボから、直列3気筒1Lターボに替わってノイズが耳障りになった。先代ポロの5ナンバーサイズに価値があると考えていたユーザーは、フルモデルチェンジで魅力を下げただろう。実際、現行ポロが3ナンバー車になるとわかった時点で、先代ポロの在庫車が一気に売れた。それだけ5ナンバーサイズにこだわるユーザーが多かった。
■先代より質感悪化
経済状況が悪い時期に開発された車種は、フルモデルチェンジで質感や乗り心地を悪化させることがある。
例えば2010年に発売された現行ヴィッツや先代パッソは、2008~2009年のリーマンショックの頃に開発が佳境を迎えていた。この影響でインパネの質感、乗り心地、静粛性が先代型に比べて悪化した。
ネッツトヨタ店のセールスマンは現行ヴィッツの発売当初、「造りが粗く、先代型のお客様に乗り替えを提案できない」と悩んでいた。このような新型が先代型よりも悪くなる事例は発生してはならないが、実際に見受けられる。
■魅力を維持し続ける車種も
そしてモデル末期車の価値は、発売後の改良で大きく左右される。例えばSKYACTIV技術で成り立つ今のマツダ車は、エンジンやプラットフォームを互いに共通化しているから、ほぼ毎年改良を行う。
アテンザは’12年に発売されたが、CX-5とは異なりまだフルモデルチェンジを受けていない。2018年に実施したのはマイナーチェンジだったが、エンジン、足回り、インパネの形状まで大幅に改良した。こうなると選ぶ価値も下がりにくい。
■モデル末期車の○と×
モデル末期車はデメリットが多い。最近の新型車は、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備、環境&燃費性能が進化しているから、特にこの分野でモデル末期車は見劣りする。プラットフォームが刷新されれば走行安定性が高まって乗り心地も快適になり、複数の機能が向上するから、モデル末期車はいっそう不利だ。数年後の売却価格なども含めて、新型車のほうがメリットは多い。
ただし少数ではあるが、モデル末期車を選ぶメリットもある。例えば先の項目で触れたボディサイズ。日本車でもフォレスター、エクストレイル、インプレッサ、レクサスLSなどは現行型に一新されてボディが拡大した。
特に現行レクサスLSは大きく、レクサス店では「先代LSのお客様のなかには、現行型では車庫に入らないと悩んでいる方がおられる」という話を聞いた。これらはモデル末期でも選ぶ価値があった。
ユーザーによって好みが分かれるデザイン(例えばプリウスなど)で、先代型のほうがいいと感じる人には、モデル末期でも魅力的だろう。
■今のモデル末期車は買いか、待ちか?
モデル末期で「買い」の車種は、すべて比較的規模の大きな改良を受けている。その筆頭がアテンザだ。発売から約6年を経過した2018年にマイナーチェンジを行い、ディーゼルはCX-8から搭載を開始した新しいタイプになった。ガソリンも2.5Lに気筒休止機構を採用する。
ボディ剛性を高めて足回りも見直し、マイナーチェンジなのにタイヤを新開発して安定性と乗り心地を向上させた。安全装備も進化して、フルモデルチェンジ並みの改良を施した。
ジュークも選ぶ価値がある。2010年に発売され、2015年には緊急自動ブレーキを作動できる安全装備を加えた。2018年にはハイ/ロービームの自動切り換え機能を採用している。外観は個性的で、発売から約8年を経た今でも古く感じない。
悪路の走破力を重視したオフロードSUVは、全般的にフルモデルチェンジの周期が長い。ランドクルーザー70は、1984年に登場しながら、34年を経過した今でも海外で売られる。悪路で立ち往生すると乗員の生命に危険が生じる地域では、「わずかでも走破力が下がる心配があるなら、モデルチェンジしないでくれ」というニーズがあるためだ。
現行のランドクルーザー(200)は、そこまで極端ではないが、発売から約11年が経過した。それでも歩行者を検知できる緊急自動ブレーキを追加しており、V型8気筒4.6Lエンジンの性能と相まって今でも選ぶ価値があるクルマだ。AXの価格は514万800円だが、基本部分を共通化したレクサスLX570の1150万円に比べると、半額以下に収まる。
次は選ぶ価値が低いモデル末期車を取り上げる。ヴィッツはトヨタの主力車種だから、2010年に発売されながら2015年には緊急自動ブレーキを加え、’17年にハイブリッドを設定した。2018年には緊急自動ブレーキに歩行者の検知機能を加えたが、ライバルのフィットと比べた時に、ヴィッツが明らかに勝る機能がない。進化したが選ぶ価値は乏しい。
エルグランドは2010年に発売されたが、緊急自動ブレーキが古く歩行者を検知できない。しかも3.5Lエンジン搭載車だけに設定され、売れ筋の2.5Lでは装着できない。さらに、Lサイズミニバンなのに、3列目は床と座面の間隔が不足しており、座ると膝が持ち上がり窮屈だ。3列目を畳むと、広げた荷室の床が高まってしまい、自転車のような大きな荷物は積みにくい。売れゆきが伸び悩み、日産の商品開発が海外志向を強めたこともあって、実質的に見捨てられた。
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