欠席外国勢が復帰。ただし日本は……
まず、フランスのブランド別自動車販売順位を紹介しよう。2023年の1位はルノー(27万7914台)、2位はプジョー(24万1512台)、3位はルノー・グループでルーマニアを本拠とするダチア(15万6390台)、4位はシトロエン(12万5932台)だ。つまり4位までをフランス系が占めている(データ参照:FichesAuto.fr)。
5位には、外国系ではトップのフォルクスワーゲン(VW:12万0225台)が入っている。それをフランス国内工場でヤリスを生産しているトヨタ(10万7950台)が追う。そして7位はテスラ(6万3041台)である
今回のパリ・モーターショーに出展していた欧米および韓国系主要乗用車ブランドは、以下のとおりだ。
・ステランティス(アルファ・ロメオ)、
・VWグループ(VW、アウディ、シュコダ)
・BMWグループ(BMW、MINI)
・キャディラック
・フォード
・テスラ
・キア
いずれも前回2022年には欠席だったブランドである。いっぽうで今回、日系メーカーは、すべて不参加だった。そうしたなか東京の自動車部品サプライヤーTHKは、2023年東京モビリティショーで公開した「LSR-05」を欧州プレミアした。この実走可能なコンセプトカーのデザインは、前・日産自動車チーフ・クリエイティブ・オフィサーの中村史郎氏率いるSNデザインプラットフォームによる。
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VWの“転換”とフォード式レトロ
今回グループ内の3ブランドを出展したVWグループから見ていこう。経営不振が伝えられる同社であるが、フランスでは堅調だ。とくにVWブランドは2023年の販売台数が2022年比で23.6%増加。過去7年間で最高の登録台数を記録した。今回プレゼンテーションに立ったドロテー・ボナシーVWグループ・フランス代表によれば、現在6.8%あるフランス国内シェアは、年内には7%を達成することが確実と胸を張った。
そのVWブランドは7人乗りSUVの新型「タイロン」を初公開。同車は従来の「ティグアン」と「トゥアレグ」の間を埋めるモデルである。実は正確にいうと、Tayronの名称は2018年から中国の合弁工場で作られていた車種に使われていたもので、今回の2代目から欧州その他の地域でも使用されることになった。
アウディはEVの「Q6スポーツバックe-tron」を初公開した。姉妹車であるQ6 e-tronと比較して全高を37mm下げ、ファストバック形状としたことで空気抵抗係数(Cd)を0.28から0.26へと低下させている。
VWブランドはプレゼンテーションで、「内燃機関」「マイルドハイブリッド」「EV」の3種で様々な顧客ニーズに応え、ブランドのDNAである「手の届きやすい価格」を守っていくと説明。アウディも同様の3種のパワーユニットで、ブランドのモットーである「技術による前進」を実現すると語った。彼らが従来の強力なEV推進から、より現実の市場に沿った柔軟性ある戦略へと転換したことがわかる。
ところで前回のフランス車編で記したように、ルノーは今回、「4 E-Tech100%エレクトリック」を公開した。内外装のデザインは、「シトロエン2CV」とともに戦後フランスを代表する大衆車ルノー「4」に範をとったものだ。そのルノーは、1971-79年のクーペ「17」をEVで解釈したコンセプトカーも公開。それらを、2026年に発売を予定しているEV版「トゥインゴ」、既発売の「5」とともに展示した。
そうしたレトロはフォードにも及んでいた。彼らは、1969年から86年まで造られた懐かしいクーペモデル「カプリ」の名前を、新しい5ドアクーペEVに冠した。ヘッドライトより1段下がったセンターグリルの意匠も、歴代カプリを継承したものだ。いっぽうでプラットフォームはVWが開発したMEBを使用している。先に往年のモデル名をリバイバルさせた「マスタング・マッハE」および「マスタング」は、欧州プレミアム市場でそこそこの成功を収めている。カプリがそれに続けるかが注目される。
新興ブランドにもチャンスが?
ただし、今回のパリで最も活気がみなぎっていた外国勢といえば中国で、BYDをはじめ計8ブランドが欧州市場向けEVを披露した。とくに3館用意されたうちの1館には中国ブランドの大半が集中。いわばチャイナ・パビリオンの雰囲気が漂っていた。
そうしたなか、欧州のジャーナリストたちに特に注目されたのは2015年設立の「リープモーター」である。なぜならば2023年、ステランティスが同社に約21%の資本参加を行ったからである。さらに両社は、アムステルダムに合弁会社を設立。同社はステランティス主導のもと、大中華圏以外の全世界販売権および製造権をもつ。
実際彼らによる販売は、すでに2024年9月からヨーロッパ9カ国で始まっている。歴史あるブランドを数々擁するステランティスが、創業10年足らずのスタートアップと手を組んだのである。VWグループとともに業績不振が伝えられるステランティスにとって、大きな賭けであることは疑いの余地がない。
欧州連合(EU)は2024年10月29日、中国製EVに最大45.3%の追加関税を課すことを正式決定した。その影響は目下未知数だが、ブランドという観点でいえば、新興メーカーは欧州でけっして不利ではない。なぜなら人々の自動車ブランドに対する意識は、近年劇的に変化しているからだ。
たとえば冒頭のフランスの2023年ブランド別登録台数で、2022年には7位だった「メルセデス・ベンツ」は、9位にまで後退している。いっぽうで、7位のテスラは、2022年の15位からの急上昇であった。往年の英国車の商標を引き継いだ上海汽車の「MG」は、2022年の23位から18位へ、吉利-ボルボ系の「リンク&コー」は圏外から30位に浮上した。ついでにいえば今やルノー、プジョーに次ぐ3位のダチアは、2005年には23位でしかなかった。
そうしたトレンドのなか、今回パリで欧州上陸を宣言した中国系EVの中には、従来のブランド感覚にとらわれない世代から支持を得るものが出現する可能性がある。
ヨーロッパ市場は、成熟しているようにみえて、実はまだまだエキサイティングなのである。
小さなブースからも窺える潮流
今回も最後に、面白い出展車を1台紹介しよう。「ソフトカー」はスイスの研究開発企業によるものだ。フラットなEVシャシー上に、いずれも新開発の樹脂製ボディおよび4人乗り内装を載せたものだ。
ひょうきんなフロントマスクに誘われて手で触れた車体は、勝手に想像したようなプヨプヨした“ソフト”では残念ながら無かった。しかし、駐車時等の軽度な衝突に耐えるというから、相応の復元力があるのだろう。さらに一般的な乗用車で4万5千点ある部品を僅か1800点にまで削減した恩恵で、交換に要する部品点数は、きわめて少なく抑えられるという。今回の出展目的は、生産のノウハウも含む技術ライセンスを購入してくれる企業を探すためだ。
自身のスタジオを主宰するフランソワ・ビュロン氏によるデザインは、極端な例とはいえ“素”を重んじる気性に溢れている。クローム製モールの量や革張りシートを誇った時代とは明らかに異なるのだ。何を隠そう、ダチアもそうしたデザイン路線で、欧州の若い世代の心を掴んだ。ブースを訪ねれば訪ねるほど、潮流がパズルのようにつながり見えてくる。それがヴァーチャルにはない、リアルなモーターショーの魅力なのである。
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