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ジャパン・プライドの美しい物語──新型トヨタ・クラウン登場の意味を考えた!

掲載 更新 20
ジャパン・プライドの美しい物語──新型トヨタ・クラウン登場の意味を考えた!

16代目で“激変”した新型トヨタ「クラウン」の登場背景などを、今尾直樹が考える!

とても美しい物語だった

見た目もイイが、走りもイイ!──新型スズキ・アルト・ラパンLC試乗記

こんな手があったのか!! と脱帽いたしました。さる7月15日に公開された新型トヨタ・クラウンは、予想されていた「クロスオーバー」と「エステート」だけではなくて、ハッチバックのSUVの「スポーツ」とリフトアップしていない「セダン」まであり、4車種ものマルチ展開だったのだ。“DISCOVER YOUR CROWN.”とは、このことだったのか。びっくりしたなぁ、もう。

筆者はYouTubeのトヨタチャンネルで生配信された「新型クラウン ワールドプレミア ライブ中継」を自宅で眺めながら、豊田章男社長が語る歴代クラウンと日本社会の栄枯盛衰に涙腺をゆるめ、新型クラウンの開発はかくおこなわれたのか……と感動することしきり。それはとても美しい物語だった。

クラウンを担当する「ミッドサイズビークルカンパニー」のプレジデント、中嶋裕樹氏は、エンジン縦置きの後輪駆動から横置きの前輪駆動プラットフォームに転換し、セダンを除くすべてが最低地上高を上げた、これまでとは似ても似つかぬデザインの新型クラウンの開発の経緯を次のように語った。

2年と数カ月前、中嶋氏は現行15代目クラウンのマイナーチェンジを豊田社長に提案した。クラウンの将来に以前から危機感を抱いていた社長は、「本当にこれでクラウンは進化できるのか。マイナーチェンジはとばしもよいので、本気で考えてみないか」と再考を求めた。16代目クラウンの開発はここからスタート。担当者たちは、そもそもクラウンとはなにか? について徹底的に見つめ直すことから始めた。

「クルマのカタチや駆動方式という決まりはなにもありませんでした。あったのは、歴代主査の“革新と挑戦”というスピリット」だった。「私たち自身が内向きにきまりをつくり、自らを動けなくしてしまっていた」ことに気づき、「それから考えを改めました。固定観念にとらわれず、これからのお客さまを笑顔にするクラウンを目指そう、と開発を始めたのが、このクロスオーバーです」と中嶋氏は述べた。

ちなみに、中日新聞が「トヨタ自動車は、高級車『クラウン』についてセダンの生産を現行型で終了し、スポーツタイプ多目的車(SUV)に似た車形の新型として2022年に投入する最終調整に入った」と報じたのは、2020年11月。クラウン・クロスオーバーが提案されたちょっとあとだった、と考えてよいだろう。

クロスオーバーを見た豊田社長は、「これでいこう」とゴー・サインを出すと同時に、「セダンも考えてみないか」と新しい宿題を出した。「正直、耳を疑いました。(中略)それならば、この多様性の時代、ハッチバックとワゴンも必要だと4つの異なるモデルを提案した。というのが正直な経緯です」と中嶋氏は新型クラウンが4車種に増えた理由をさらりと説明した。

新型車の開発には通常4年はかかる。それをわずか2年と数カ月。最初に市場に投入するクロスオーバーは今秋で、残りの3車種は1年半以内に、2023年1月以降、順次発売する。ということだけれど、それでも3年と少々で4つのモデルを製品化することになる。

こんな奇跡が可能になったのは、TNGA、プラットフォームの共通化と、チーム一体で開発できるカンパニー制度のおかげだ。という趣旨のことを中嶋氏は述べた。それでも、発表会の会場に展示してあった4車種のうち、完成車はクロスオーバーだけで、あとはモックアップだったという目撃者の証言もあるから担当者たちはタイヘンだ。おそらく“革新と挑戦”のスピリットでもって乗り越えていくことになるのだろう。

発表会の最後を、豊田社長はこう締めくくった。

「いつの時代もクラウンが目指してきたのは幸せの量産だったと思います。クラウンは日本の豊かさ、ジャパン・プライドの象徴でした。そして、世界に誇る日本の技術と人材を結集したクルマでした。新型クラウンにも、そんな日本の底力が詰まっております。だからこそこのクルマで私はもう一度世界に挑戦いたします。新型クラウンは約40の国と地域で販売していまいります。シリーズの販売台数は年間20万台規模を見込んでおります。クラウンが世界中の人々に愛されることで、日本がもう一度元気を取り戻すことにつながれば、こんなに嬉しいことはありません。日本のクラウン、ここにあり。それを世界に示したいと思っております」

日本の歴史になぞらえると、徳川幕府も15代将軍で終わった。16代目となる新型クラウンは明治維新なのだ。いみじくも豊田社長がこんなふうに表現してもいる。新型クラウンは鎖国をやめて、国際社会に躍り出る。まさに歴史的大事件である。

ありし日のクラウンを偲びたくなるのもまた人情

でも、これは日本史的見方をした場合の話だ。世界史的にはどうなのだろう? たとえば、新型クラウンを海外市場におけるトヨタのこれまでのフラッグシップ、FWDの大型セダン、「アヴァロン」の後継車としてとらえなおしてみたら……。

名前こそアヴァロンからクラウンに変わるけれど、エクステリア・デザインも現行アヴァロンとも海外版の「カローラ」、「カムリ」とも類似性が認められるのではあるまいか。4車種というマルチ展開も、セダン、ツアラー、スポーツ、SUVがあるカローラの上位モデル、ま、両者のあいだにはカムリがあるけれど、収入が増えたカローラのオーナーがいずれ買うモデルだと位置づけると、新型クラウンにスポーツ、エステートが必要な理由もわかりやすい。

ここからは筆者の想像ですけれど、中嶋氏がクロスオーバーを提案したとき、「セダンも考えてみないか」と豊田社長が宿題を出した。このとき、豊田社長は次期クラウンと次期アヴァロンを一緒にする、あるいはトヨタの次期フラッグシップとして開発していた“X”をクラウンに改名する決断を下したのではなかったか。

「クラウンのセダンの生産は現行型で終了する」という中日新聞のスクープに、豊田社長が反発したからセダンが追加されたという説があるようだけれど、そうではなくて、中国市場で販売好調なアヴァロンの後継モデルとしてセダンが必要だったのだ。と筆者は想像する。

アヴァロンとクラウンを一緒にする。「正直、耳を疑いました。(中略)それならば、この多様性の時代、ハッチバックとワゴンも必要だと4つの異なるモデルを提案した。というのが正直な経緯です」と中嶋氏が語っていたことを思い出してほしい。

「新型クラウン ワールドプレミア」は、つまるところ、ある部分、すなわち海外市場におけるトヨタ・ブランドのフラッグシップを今後どうするかについての社内の議論を、あえて語らないことによってつくられた、日本国内のクラウン・オーナーとトヨタのディーラーも、う~む。16代目クラウンは“革新と挑戦”の賜物だ! と得心できる、ジャパン・プライドの美しい物語だった、とはいえまいか。

そして、筆者のように今度のクラウンはスゲーッ! と感心して忘れちゃったことは、寺社建築のようなニッポン独自のデザイン要素を残していた後輪駆動の国内専用高級セダン、伝統的なあのクラウンがグローバリゼーションによってついに消滅してしまった……という事実なのだ。

もちろん明治維新、おおいにけっこうである。

でも、新型クラウンが明治維新だとすれば、徳川の御世はよかったなぁ。って感じで、ちょいとばかし、ありし日のクラウンを偲びたくなるのもまた人情というものである。

文・今尾直樹

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