WRCを戦うために生まれたGRヤリス。それだけに、GRヤリスの本命モデルといえば、通常は1.6Lターボ+アクティブトルクスプリット4WDを採用する「RZ」や「RC」グレードだといえるだろう。
しかし、GRヤリスにはエントリーモデルとして、通常のヤリスと同じ1.5LのNAエンジンにFFレイアウト、トランスミッションはCVTという「RS」グレードが用意されている。
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ボディはGRヤリスと同じワイドボディながら、中身のパワートレーン系はフツーのヤリス。まさにターボルックのGRヤリスなわけだが、あえてこの「RS」を選ぶという選択肢は “あり”なのか?
最上級グレードのRZなどの存在に隠れて、今ひとつ目立っていないRSグレードをモータージャーナリストの松田秀士氏がチェックした。
文/松田秀士 写真/ベストカー編集部
【画像ギャラリー】意外とやるじゃん!! GRヤリスのエントリーモデル「RS」を試乗する
■「RS」はノンターボのなんちゃってGRヤリスだ!
写真は上級グレードであるRZハイパフォーマンス。エントリーモデルであるRSはRZとは別物なのか?
GRヤリスというネーミングだけを耳にすると四駆ターボの凄いヤツと直感しがちだが、「RS」グレードの駆動方式はFFです。しかもトランスミッションはCVT。ついでにエンジンはノンタ(ノンターボ)の3気筒1.5L。
要するにブリスターフェンダーがグラマラスなGRヤリスRZのデチューン版! という雰囲気を出しつつ、実は「なーんちゃってGRヤリス」。「GRヤリスのターボルック」ともいえるFFのノンタくんです。
とまぁ、しっかり試乗する前はそうイメージしていたのですよ。ハッキリ言っておきますが「なーんちゃって」は否定系ではありません。なーんちゃってカーボンとかいうシールを貼っただけのフェイク一般を指すことですが、クルマのインテリアにも近いものがたくさんあります。
コストを抑えるためのテクニックであり、多くの人に満足感を与えようとするある意味工芸的なチャレンジだと考えれば、妙に納得できるものです。
■「なんちゃってモデル」はあのポルシェにもあった
操作系などはRZ譲り。遅れをとる部分はどこにもない
その昔にはポルシェ911にも(タイプ930)ターボルックがラインナップされ、多くの節約型金持ちが恩恵を受けました。当時の911ターボはフェラーリやランボルギーニと並ぶ超スーパーカーで簡単に手に入るものではありません。
筆者自身試乗しましたが、911ターボはターボが稼働しない市街地走行ではスカのようなパワーで、911ターボルックと何ら変わりません。逆に911ターボルックは低速トルクたっぷりで走りやすい。
その911ターボルックもクラッチがワイヤーから油圧式に変更されていたり、ドリルドディスクローターがセットされていたり、トランスミッションのサプライヤーも同じだったりと多くの装備がホンモノターボからのキャリーオーバーでした。
言ってみればエンジンさえ交換しちゃえば!? とは言い過ぎかもしれませんが、それくらいに手抜き感ゼロのなーんちゃってターボだったのです。
■安上がりだが手は抜かない
エンジンはヤリスと同じ1.5L 3気筒のNAエンジン。FFのCVTもヤリスと同じだ
で、GRヤリスRSです。エンジンはただのヤリスと同じ。120ps/145Nmの1.5L 3気筒の自然吸気。駆動系もただのヤリスと同じFF。しかもCVTオンリー。つまりヤリスの量産パワートレーンをそのまま移植したもの。これは安上がりです。
しかし、それ以外はエンジンフード、ドア、リアハッチにアルミ材を採用。ルーフはカーボンだ。
筆者は86GRMNの製作現場の元町工場を見学したことがあるが、カーボンの設備が素晴らしく、また手作業によるルーフの取り付け工程、職人の技術力はもう量産する自動車メーカーの工場という印象ではなく、クラフトマンシップで営む英国の古きよきファクトリーを連想させるほどでした。
RSの詳細を見れば見るほどにボディの作りのよさに感心します。つまり、パワートレーン以外のボディはほとんどRZそのものといったところ。バケットタイプのスポーツシート、ステアリング、シフトノブなど、すべての操作系もRZ譲り。(「RZハイパフォーマンス」グレードとは差異がある)
そのシートに納まってみる。ホールド感はかなり高く、表皮がわずかに身体に馴染みピタッと張り付く感じ。ドラポジはシートにしっかりと支えられ、余計な力を使わずにステアリングやペダル操作ができるベストなもの。
座面から膝裏までのサイサポートも適度。ただしRSは2ペダルなので、クラッチ操作のフィーリングはわからない。このシートはRZと同じでRZハイパフォーマンスとは異なること、あらかじめお伝えしておきます。
■意外と気持ちいいCVTとホンキのシャシーが好印象
トランスミッションはCVTの設定。これが意外と気持ちよくシフトアップしていく
スターターを押してエンジン始動。RZと同じ3気筒だがこちらはノンタです。排気量も若干少ない1.5L。最初から期待はしていなったが、CVTの発進ギヤのおかげかスタートはスムーズでそこそこ力強い。ただしヤリスハイブリッドのほうがもっと力強い。まぁこれは仕方がないこと。
このCVT、10速MTにも対応。CVTなので疑似ギヤを想定してプーリーの径を瞬時に変更して行う。いわゆるMTモードでオートシフトアップも行うわけです。
これが意外にも気持ちよく、10速なのでそこそこクロスしていて約7000rpmまで回ると2000rpm弱の回転落ちで次々とシフトアップ。パワー的には大したことはないが、ちょっとレーシング気分が味わえます。
エンジンパワー的には60点ぐらいですが、エクゾーストノートもそれなりにスポーティなものになっていて、このCVTの疑似MTシフトと相まって悪くないスポーツエンジンの印象です。
しかし、スゴイのはやはりボディ! 車体! シャシー! でした。
実は、このレポートのために3日間広報車を借り出して試乗したのですが、借り出して走り出した瞬間から乗り味の質感が高かったのです。
まずはロードノイズですね。余計なノイズがカットされ、必要な路面のサーフェスの情報は入ってくる。サーキット路面のような粗い表面だと「ゴー!」とか「ザー!」などと音質がハッキリする。
それが、静かではないのだが耳障りでない。ちょっと薄めのヘッドフォンをかけているかのような聞こえ方。そしてその「ゴー!」とか「ザー!」はステアリングからもシートからも感じられる。音は振動なのだから当たり前のことだが、ボディがしっかりしているから写実的に感じ取れるのだ。
■パワートレーン以外のパフォーマンスはRZに匹敵!?
サスはほどよく締まっているという印象。ロードノイズは耳障りではなく、音や振動として必要な分量で伝わってくる
サスは硬いというよりも締まっているというフィール。市街地の微小で連続した凸凹路面の表面は細かく足がいなしてくれる。突き上げ感は少ない。大きなギャップはそれなりにボディを揺さぶる。それはスポーツモデルだから当たり前、といえば当たり前。
コーナリングはその横Gに応じたロール角を示すが、限界域に到達するにしたがってじわじわとプログレッシブにスプリングが圧縮されるフィーリング。これがものすごくわかりやすい。
4WDのRZと同じフィールをきちんと出している。ブレーキングもしかりで、少しのノーズダイブをしっかりと止めて踏力に応じた力強いブレーキングができた。
ハッキリ言って、パワートレーン以外のパフォーマンスはRZに匹敵する。それでいてRZとの価格差131万円。この差をどう見るかはあなた次第ですが……。
ちなみに約100kmを走った総合燃費は12.7km/Lでした。通勤など月間走行距離を走る人には“アリ”な存在ではないだろうか。
筆者の印象は、GRヤリスRSは“ホンモノ”のなーんちゃってGRヤリスなのであった。
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デザイン優先の方がいてもいいし、好きなのを買えばいいと思います。