スーパーカーブーム全盛時に一世を風靡したコンセプトカーLP500
キング・オブ・スーパーカーとして名高いランボルギーニ・カウンタックの歴史は、いまからちょうど50年前の1971年にスタートした。同年3月に開催されたジュネーブ・モーターショーにおいて、カウンタック LP500が初公開されたのだ。
日本に存在する伝説の「カウンタック」! 「 LP500S ウルフ・スペシャル ♯1」とは
カロッツェリア・ベルトーネのブースに展示されたイエローのプロトタイプは、その後、市販に向けたテストカーとして使われ、最終的にはクラッシュテストに使用されて神去ることとなった。唯一無二のショーカーがコンクリートの壁にクラッシュして消失したエピソードは、いまなおスーパーカー好きの間で語り草となっている。
ファンが多いクルマだけに、LP500ならではの近未来的なウェッジシェイプを細部に至るまで再現した走行可能なレプリカ(とあるクルマ好きの並々ならぬ熱意によって誕生)が存在している。今回、そのディテールを確認してきた。見れば見るほどスーパーカー熱が再燃するだろう。
文房具屋にあったストラトス・ゼロのシールがきっかけでウェッジシェイプ好きに
ランボルギーニ・カウンタックLP500のレプリカを愛用しているシンジさんは、1966年(昭和41年)生まれで、現在54歳。スーパーカーブームのときはイエローのランボルギーニ・カウンタックLP400が好きだった。それはちょうどカウンタック LP400Sが出た頃の話で、シンジさんが小学校5年生ぐらいの出来事だった。
ちなみに、ウェッジシェイプが好きになったきっかけはストラトス ゼロのシールが文房具屋にあり、それを買ったときからとのこと。ボディカラーはグリーンで、このときに買ったシールを今も大切に持っている。
これを原体験とし、ウェッジシェイプが好きになったのだという。ほかにもストラトス ゼロのほか、マセラティ・ブーメラン、アルファロメオ・カラーボなども好きだった。
しかし、映画「スター・ウォーズ」が6年生のときに公開され、SF好きになったシンジさんは、一時的にクルマから気持ちが少し離れたという。
スーパーカー繋がりでベルトーネが手がけたシトロエンも所有
時は流れ、1987年の第27回東京モーターショーでトヨタAXV-II(のちのセラ)、2年後の第28回東京モーターショーでマツダAZ550スポーツ(のちのAZ-1)が発表され、シンジさんはAZ-1の発売を待って1992年に新車で購入。このときに買ったブルーのAZ-1を現在も所有しており、セラのほうは軍資金がなくて買えなかったので、いまでも欲しいと思っていると話す。
そして、当時はマツダ系の販売チャンネルであるユーノス店でシトロエンを売っていた時期だった。シンジさんはカウンタックをデザインしたイタリアのカロッツェリア・ベルトーネが外装の意匠を手がけたXMのことも気になっていた。
シトロエンXMの新車は高価だったこともあり購入せず、1997年にユーズドカーを40万円で購入。心底惚れてしまったXMはユーズドカーを3台乗り継いできている。
1台目は1990年式(40万円/ヤフオク!で売却)、2台目は1995年式(90万円/ヤフオク!で購入)、3台目は2000年式(75万円)という流れで、前期、中期、後期と一連のシリーズに乗ってきたのだ。ヘッドライトに6灯キットを装着した2000年式は現在も愛用している1台。
イエローが好きなので、現在愛用しているヤマハVMAX1200とホンダ・マグナ50に関しては、 LP500のレプリカと同じように車体色がイエローなのだという。
カウンタックLP500のベース車両はトヨタMR-Sだった!
1990年代初頭は第二次スーパーカーブームと呼べる時期で、フェラーリ・テスタロッサ、ランボルギーニ・ディアブロ、デ トマソ・パンテーラなどが注目されていた。そのような状況の中で、シンジさんの愛車は、マツダ・オートザムAZ-1とシトロエンXMの2台態勢を維持していた。
とはいえ2000~2003年頃にカウンタックを買おうかなと、ふと思ったことがあるという。しかし、カウンタックLP400の売り値は、その当時ですでに2000万円と高額。さすがにその金額を用意することはできなかった。
「ミウラのレストアが盛んになり、1000万円だったものが8000万円になり、カウンタックのほうも手が出なくなりました。いまでも本物は凄く高価ですよね。ランボルギーニは、1963年からずっと同じ12気筒エンジンを使っていましたが、個人的にはあの重い感じがするエンジンフィーリングが好きではないんです。重いクラッチもイヤ。エアコンが効かないのもツライ。ということで、レプリカもいいかな? と思ったんです」
「昔からレプリカを造っているショップによく行っていました。以前のレプリカって、切った貼った感がありましたね。それで、ニュージーランドにあったカウンテス(キットメーカー)がカウンタック・レプリカを造らなくなったので、懇意にしていたショップからトヨタMR-Sベースで造るようになると言われたんです」
「あるとき、友人にMR-Sベースのカウンタック・レプリカをオーダーしようと思っていると相談したら、金をドブに捨てるようなものだ、と言われたことがありました。ほかにも、そう思っている方がいるかもしれませんね……」
「多くの人は1.8Lエンジンを積んでいるカウンタック・レプリカは、あり得ないということなんでしょうね。特にアメリカではあり得ないわけです。海外の人は、エンジンのパワーが重要。ナンセンスだと思っているでしょうね」
「でも、自分は運転するのがそんなに好きではないんです。長距離を走るのが苦手なので、このぐらいの排気量でちょうどいいとも言えます。ということで、家のガレージで愛車を眺めるのが好きなんですよ。1/1スケールのミニカーとして楽しんでいます。今後、モックアップのマーケットがあるような気がするんですよね。ガレージのオブジェとして。いまはプリンターで出せる時代ですからね」
友人の賛同を得ることはできなかったが、実際にMR-Sベースのカウンタック・レプリカがショップから3~4台販売されていたのを見かけたときのこと。「少し腰高だけど、それをちょっと下げればなかなかイイな」と、シンジさんは思ったようだ。
1/24スケールのプラモデル制作と同じ工程で作業
そして、どうせオーダーするならLP500がいいと思い、ショップにLP500はできますか? と訊いてみたらできると言われたので、2017年6月にMR-SベースのLP500をオーダー。AZ-1は発売まで3年待ち、XMは5年待って買い、カウンタックは46年経ってオーダーしたのだ。
「大人になってからLP500のことを知って、これはキレイなクルマだなと思ったんです。カウンタックは、進化する過程で、どんどんデコラティブになっていきました。でも、やっぱりシンプルなLP400までのデザインが好きなんです」
「LP500は、ショーモデル兼走行テスト車だった本物がクラッシュテストにも使われてしまい、もはやこの世に残っていないので、1/1スケールで存在している場合、そもそもレプリカなんですよね。本物は、5Lエンジンを積んでトラブルが出て、既存の4Lエンジンを載せたりもしていました。走行テストでは、ミラーとワイパーを付けたりし、ダクトも付けていたみたいですね。どうやらクラッシュテスト時まで、全部付いていたようです」
資料集めなどに時間がかかったので、2019年のお正月から造り始め、同年の9月に完成したのだという。ランボルギーニが公開している数枚の写真とプラモデルやミニカーを作っている人たちの資料しか存在していないので、1/24スケールのプラモデル制作と同じ作業を実践していった。では、具体的にどうのようにしてLP500にしていったのだろうか?
「ショップの人と話した結果、LP400レプリカ用の型をベースに、それを修正しながらLP500に化けさせていきました。問題はLP400からLP500にどう変えるか、ということですね。外装のディテールは、写真とミニカーを参考にして合わせてもらいました」
「プロモデラーによるLP500の制作過程を拝見したら、同じことをやっていましたね。こだわったのは、ボディから出っ張っているところです。具体的に説明すると、潜望鏡とインテークです。LP400との大きな違いは、そのぐらいですからね。LP400の潜望鏡が好きなんですよ。潜望鏡、エンジンフード、トランクフードという3つの台形によって構成されているリヤのスタイルが好きです」
「ボディカラーが薄い色の場合、台形の中でブラックになっている部分が凄く目立って活きるわけです。そのシマシマ加減がスーパーカーカードで見るとカッコよかったですね。ランボルギーニ・カウンタックとフェラーリ・デイトナは、お尻がポイントだと思っています。テールランプはLEDで、自分でイラストを描いて造ってもらいました。ヘッドライトの中は、往時の写真がないのでシルバーにしてみました」
内装は市販モデルに近づけて再現
内装は、LP500のディテールを追求するとキリがないので、カウンタックの市販バージョンを参考にしているとシンジさんは言う。基本的にLP400レプリカの構造をベースとして、ステアリングホイールはメーターの視認性をよくするためにヌッチオ・ベルトーネという名のアイテムをチョイス。
スイングアップドアの構造などもLP400レプリカをベースにしている。ガラスはハメ殺しとし、パワーウインドウ機構をなくし軽量化。できるだけ低重心にしたほうがいいからだ。窓はモールを貼って再現してあるだけで、当初スチールの太いフレームだったが、一年ぐらいしてから、現在の細いタイプに変更している。 本物のカウンタックは、モールを境界線として、窓の角度が途中で微妙に変わっているそうだ。ドアノブは寸法を伝え、指が入るぐらいのサイズのモノを作ってもらったのだという。
視界は普通のクルマの1/3程度しかなく、下も信号も見えない……。停車状態から公道に斜めに出るときや側道から本線に合流するときも、他のミッドシップ車と同じように後方をまったく確認できない。そういったこともあり、後方確認用のカメラとバックランプをナンバープレート付近に付けている。
MR-SとLP500のホイールベースはまったく同じだった!
今回別ルートでショップの制作スタッフにこだわりポイントを聞くことができた。その内容はLP500の制作は面白かったのかスタッフも気分が乗ったらしく、随所に職人魂を発揮してくれたというのだ。特にボディの面出しに時間をかけてくれたとのこと。
その一方で、制作スタッフにできるだけ負荷がかからないように内装は妥協したのだという。そのディテールやスペックを列記すると、MR-SとLP500のホイールベースは偶然にもまったく同じで2450mm。LP500レプリカの全高は1050mm。
4本出しマフラーはワンオフ。サスペンションはMR-Sのままなのでマクファーソンストラット。70扁平タイヤとマクファーソンストラットなので、車高を下げきれていない。本当は、あと5cmぐらいフロントを下げたいとか。ほかにもビタローニのセブリングミラー・レプリカを装着。
また本物のLP500と同じようにフロントバンパーには長方形の穴を開け、カウンタックという車名を表示している。ちなみにフロントフード内にはパワーステアリングオイルとウォッシャー液の補充口がおさまる。
ホイールはカンパニョーロのリプロダクションで、じつはこれも高価だという。猛牛のマークを留めているリングは1個1万2000円もしたとか。14本スポークホイールになっているが、本物は20本スポークで、前後の形状が異なる。排気量1.8Lの1ZZエンジンを積んでいる。FRP製ボディで、車重は1050kgという感じだ。
動力性能を考えるとボクスターのほうが良かった
「MR-Sをベースとして、やれることをやりました。でも、もうちょっとできるのになぁ~と思う部分もあります。動力性能のことを考えると、MR-Sベースではなくもう1台選択することができたボクスターでもよかったかな? と思っています」
いま、友人がミウラのレプリカを造っているのですが、フロントセクションの長さ、エンジンの搭載位置、キャビンの場所、シートの位置など、クルマによってさまざまなので、さまざまな制作パターンがあります」
「例えば、NCロードスターとトヨタ2000GTはホイールベースが同じで2330mmで、パッケージングが似ているのですが、ベース車をモディファイしていくのではなく、フレームを組んで制作していくほうが全体の佇まいがよくなったりしますからね」
「日本人はカウンタックが大好き」それに尽きる
取材中も多くの人がスマホを向け写真を撮ったり、しげしげとクルマを眺める光景をみた。では、完成直後の周りの意見はどんな反応だったのだろうか?
「LP500を見た一般の人の感想は、ん、車高が高いな? と思って検索して、LP500のことを知るといった感じだと思います。実はこのLP500が完成してから、あんまり皆さんに見せていないんですよ。2019年の年末に納車してもらい、昨年はイベントが少なかったこともあり、さほど外に出していないですからね」
「自動車趣味人ではない普通の方々は、面白いことにディアブロもアヴェンタドールも全部カウンタックだと思っているんですよね。日本人はカウンタックが大好き。それに尽きると思います。ぼくの周りの人たちも、みんなカウンタックが大好き。このクルマは本当に特別な存在です」
「ほかの何にも似ていませんからね。LP500を見ると、クルマ好きであればあるほど存在するはずがないものがココにある、と驚いてくれるのがいつものリアクションです。スーパーカーブーム全盛時に一世を風靡したコンセプトカーが街中に現れることはないので、そこへの驚きもありますね」
助手席に乗って分かった再現度
排気量1.8Lの直列4気筒エンジンを積んでおり、オーナーのシンジさんがベース車はボクスターでもよかったかな……と言っていることもあって“乗るとMR-Sのままなのか?”と思っていた。
編集のYさんが「助手席に乗ってインプレッションしてきてください」というので、太いサイドシルをまたぎお尻をシートに滑らすようにして乗り込む。先に結論から言うと……まったくそんなことはなかったのだ。 端的に説明すると、ワンオフで製作された4本出しマフラーが奏でる排気音が非常に豪快。なおかつ、内装の仕上げもいいので、動き出した瞬間からカウンタックに乗っている気になった。
本物のカウンタックでも助手席インプレッションをしたことがある筆者が“これはカウンタックだ!”と思った。おそらくカウンタックに乗ったことがない人がLP500レプリカの助手席に座る機会に恵まれ、これは本物です、と伝えられたら、おそらく、まったく疑うことなく信じるであろう。
見ても乗っても楽しめる点がLP500レプリカの魅力である。
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