スポーツカーを象徴する装備のひとつで、クルマ好きの憧れだったリトラクタブルヘッドライト搭載車にはいくつかの系譜がある。ヘッドライトが半開きのように、半格納式の“セミリトラクタブルヘッドライト”もそのひとつ。そして1980年代は、セミリトラクタブルヘッドライト搭載車の宝庫だった。
文/藤井順一、写真/いすゞ、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ
半目がセクシー!? ニッポンは個性派「セミリトラクタブルヘッドライト」大国だった!?
■リトラクタブルヘッドライト全盛期の1980年代はファミリーカーも採用!
ヘッドライトを格納式としたリトラクタブルヘッドライト。フェラーリ512BBやランボルギーニカウンタック、ランチアストラトスといった憧れのスーパーカーの多くが、このリトラクタブルヘッドライトを採用したことで、いつしかリトラクタブルヘッドライトはスポーツカーを象徴する意匠となっていった。
その主な目的は以下のとおり。
1.ボンネットを低くできることによる低重心化
2.フラッシュサーフェス化(ボディの外板の段差を極力なくしてツライチに近い状態にしたもの)による空気抵抗の削減
3.フロントからリアに向かってせり上がっていくラインを基調とするウェッジシェイプ(くさび型)のスタイリングの実現
日本では1967年発売の「トヨタ2000GT」がリトラクタブルを初採用、1978年発売のマツダ「RX-7」(SA型)がそれに続き、1980年代に入ると、スポーツカーのみならず4ドアセダンからハッチバックのファミリーカーにまで、数多くの車種に採用された。
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■“半目状態”の利点とは?
「フェラーリ365GTB/4」の車名は、エンジンの1気筒あたりの容量(365)、グランツーリスモ(GT)、ベルリネッタ(B)、カムシャフト(4)を意味。後期型がリトラクタブルヘッドライトを採用した
そんなリトラクタブルヘッドライト全盛期に、ライバルとの差別化を狙って採用されたのがセミリトラクタブルヘッドライトと呼ばれる“半格納式ヘッドライト”だ。
一般的なリトラクタブルヘッドライトがヘッドライト点灯時以外は格納される(ポジションライト点灯や消灯時でも任意に開閉できるモデルもあり)のに対し、セミリトラクタブルヘッドライトは格納式ではあるものの、ライトの半分は格納し、半分はむき出しの“半目状態”でこれがクルマに独特な表情を与えたのだ。
セミリトラクタブルヘッドライトは半分ライトが露出していることで、リトラクタブルのようなライトの開閉動作が必要ないぶん、日中のパッシングなどがすばやくできるといった利点を謳うモデルもあった。
また、ライトユニット全体を稼働させるのではなく、ライト自体は固定式で可動式のフタだけ動作させることで、簡易的にリトラクタブルヘッドライトのデザインや機能が採り入れられるといった利点もあったようだ。
■セミリトラクタブルもスーパーカー譲りだった
セミリトラクタブルヘッドライトもそのルーツを辿ると、やはりスーパーカーにある。
1968年デビューの「フェラーリ365GTB/4」、通称“デイトナ”がその代表だ。
フロントにV12エンジンを搭載したFRレイアウトによる傑作クーペのデザインは「ピニンファリーナ」在籍中のレオナルド・フィオラヴァンティによるもの。初期型のヘッドライトこそボディに固定された4灯ヘッドランプにガラス製カバーをしたものだったが、後期型となる1970年に北米の安全基準を満たすため、リトラクタブルヘッドライトへと変更を受ける。
これは格納式のリトラクタブルヘッドライトであったものの、格納時もヘッドランプがバンパーとの隙間から確認できる半目のような構造で、このフロントセクションが同車に独特の表情を与えていた。
また、ほぼ同時期にあたる1970年にデビューした「アルファロメオモントリオール」も広い意味ではセミリトラクタブルヘッドライトといえる機構を備えたスーパーカーかもしれない。
イタリアのカロッツェリア「ベルトーネ」のマルチェロ・ガンディーニによって設計された、2+2クーペは当時のアルファロメオらしい丸目四灯のヘッドライトだが、左右のヘッドランプ上に、ルーバー状の瞼のようなフタが半分ほど覆い被さり、ヘッドライト点灯時にはこの瞼が閉じて(フタが下りて)ライト全体が露出するという仕組みだった。
■国産のセミリトラクタブルヘッドライト搭載車たち
ロングノーズショートデッキのスポーツカーの伝統を踏まえつつ、従来の丸形ヘッドライトから角型ヘッドライトにとなった3代目。エンジンは全車がV6ターボだったが、後に直列6気筒2LターボのRB20DET搭載グレードも追加
■ホンダ バラードスポーツCR-X
それまで、スポーツカーの象徴だったリトラクタブルヘッドライトを大衆車に開放したのは間違いなくホンダだった。
「プレリュード」(2代目)、「インテグラ」(初代)といったクーペから、「アコード」(3代目)/「ビガー」(2代目)といったセダンまで、発表するクルマはすべからくリトラクタブルヘッドライト。1983年に、FFライトウェイトスポーツとしてデビューした3ドアハッチバック「ホンダCR-X(バラード)」も同様だった。
軽量コンパクトなボディに高出力なエンジンを搭載。低いボンネットに滑らかなフラッシュ・サーフェスボディなど、CD(空気抗力係数)値0.33に加えて、CD×A(前方投影面積)値0.56を実現し、空力特性に徹底的に取り組んだ結果、ヘッドライトはフラップ式のセミリトラクタブルヘッドライトを採用。
ライト自体は固定式で、点灯時にボンネット先端のフラップ部が持ち上がる構造は空気抵抗の低減と共に特別感を与えるのにも貢献した。リアをスパッと切り落としたようなクラウチング・ヒップのデザインを含め、斬新なデザインが目を惹く一台だった。
■日産・フェアレディZ(Z31型)
まるで半目だけ開いたような、眠たいようで、鋭くも見える眼差しは、1983年にデビューしたフェアレディZ(Z31型)のキャラクターにぴったりと思うのは筆者だけだろうか。
歴代モデルに通じる、ロングノーズ・ショートデッキスタイルを継承した3代目フェアレディZは、発売当初から全グレードがV6ターボエンジンを搭載。これは、ライバルである3代目「トヨタ セリカXX」を強く意識したものだったといわれる。
デザインも然りで、セリカXXがリトラクタブルヘッドライトを採用したのに対し、フェアレディZは伝統の丸型ヘッドライトから角型のヘッドライトに切り替えたうえで独自のセミリトラクタブル式を採用、目いっぱいライバルを意識していた。
これは、一般的なリトラクタブルヘッドライトに見られるライトとリットが回転する方式でなく、ヘッドランプとリッドが上下に平行移動するように開閉する「パラレルライジング式リトラクタブルヘッドライト」と呼ぶもので、空気抵抗の低減に加えて、開閉時間の短縮や停止位置誤差による光軸の安定化にも寄与。
ワイドアンドローのフォルムの実現とともに、格納式のライトながら、半分ライトが露出した構造によりパッシングが素早くできることも売りとしていたといわれる。
■いすゞ ピアッツァ
「いすゞ117クーペ」と聞いて、胸アツになるのは団塊世代以上かもしれないが、その117クーペと並んでクルマ好きに人気だったのが、1981年にデビューした「ピアッツァ」だった。
デザインは117クーペ同様、ジョルジェット・ジウジアーロが担当。大人4名が乗れるパッケージングも備えた2ドアクーペだ。
前身はいすゞが117クーペの後継モデルとして、1979年にスイス・ジュネーブで発表したプロトタイプ「アッソ・デ・フィオーリ(イタリア語でクラブのエースの意)」。
低いノーズと鋭いウェッジシェイプ、空力低減のため極力段差をなくしフラッシュサーフェス化されたオリジナルデザインを、FRジェミニをベースにほとんどそのままのスタイルで量産化したものだった。
原型となったクルマのヘッドライトは、可動式のセミカバーを取り付けた角型ヘッドランプのセミリトラクタブルヘッドライトで、これも徹底したフラッシュサーフェス処理の賜物だった。
市販車版であるピアッツァにもこの意匠はそのまま受け継がれ、極めて鋭利なフロントセクションを持つ原型そのままのデザインを実現し、CD値0.36は、当時としては最先端のものだった。
■リトラクタブルヘッドライトのリバイバルはあるのか
筆者はかつて「ユーノスロードスター」を所有していたことがあるが、当時のリトラクタブルヘッドライト搭載車はアフターパーツやカスタムでヘッドライトを“半目”状態にするのが人気だった。
その後、リトラクタブルヘッドライトは事故時の安全性の問題といった法規制、装備することによる車体前方部分の重量増や整備性、コストの問題などにより絶滅。今となっては、ヤングタイマーなスポーツカーを象徴する意匠となり、その進化の過程で生れたバリエーションや文化までもが失われていくのが残念でならない。
個人的にリトラクタブルヘッドライトの真髄はドライブ中、運転席からの視界からクルマの形状が変わる“変形ロボット”的なものなのではないかと思う。
セミリトラクタブルヘッドライトの小ぶりな瞼のような機構は、現代のクルマのヘッドライトに求められる課題に対し、充分対応できるのではと感じるのは筆者だけではないはずだ。
SUVが趣味のツールとしての意味合いを強めているのと同様、スポーティなクルマの味付けとしてのリトラクタブルヘッドライトの復活があってもよいのではないだろうか。
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