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フェラーリ 812スーパーファストを聖地で試乗! 大谷達也が感じたフレンドリーな「800ps」とは? 【Playback GENROQ 2017】

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フェラーリ 812スーパーファストを聖地で試乗! 大谷達也が感じたフレンドリーな「800ps」とは? 【Playback GENROQ 2017】

FERRARI 812 SUPERFAST

フェラーリ 812スーパーファスト

フラッグシップ対決「アストンマーティン DBS 対 フェラーリ 812スーパーファスト」【前編】

空前絶後のV12を聖地フィオラーノで試す。

終わりのないパワーウォーズが遂にここまで来た。新開発6.5リッターV12が発生する最高出力は800psである。はたしてその性能は市販車に封じ込められるのか? そして、その走りはフラッグシップにふさわしいのか? 大谷達也が聖地フィオラーノで確かめた。

「これほど深い親しみを覚えるなんて、いままで想像さえできなかった」

乗り始めたばかりのフェラーリにこれほど深い親しみを覚えるなんて、いままで想像さえできなかった。GENROQでは何度も告白してきた通り、私は操舵初期に素早くゲインが立ち上がるフェラーリのハンドリングが苦手で、同社のニューモデルに試乗すると最初の30分間ほどはどうにも身体が馴染まず、ときには緊張のせいで軽い恐怖を感じることさえあった。

ところが、どうしたことだろう。フェラーリの量産モデルとしては史上初の800psを達成したV12エンジンをフロントに積む812スーパーファストは、マラネロの街を走り始めた直後から、私に深い自信を与えてくれたのである。ステアリングを通じて得られるインフォメーションは豊富で、これが車速の高低に関わらず路面の感触をダイレクトに伝えてくれる。このため、予想外の事態にビクビク怯えながらドライブする必要がなくなったのだ。

フェラーリの技術部門を率いるミハエル・ライタスは「F12tdfと同等のパフォーマンスを備えながら、ドライバビリティを大幅に向上させることが812の開発テーマでした」と私に説明したが、ドライバビリティについては彼らの思惑通りに仕上がっていることが最初の数分間であっけなく証明された。

「雑音の混じってない、美しく澄んだV12の音色に酔いしれる」

ステアリング上の赤いスタートボタンを押すと、ボーッと低くドスの利いたサウンドを響かせながら1000rpm付近でアイドリングを始めるこのエンジンは、2000rpm付近でふっと無音に近づく領域がある。実は7速100~130km/hで巡航している時の回転数がちょうど2000rpm前後だった。つまり、クルージング時にはキャビンが静寂に包まれるように工夫されているのだ。

そこからさらにスロットルを踏み込んで3000rpmを超えると次第に高音を響かせ始め、7000~8000rpmにかけてはそれこそV12が泣き叫んでいるかのようなハイノートを奏でる。しかも、ドライバーの耳に届くサウンドはエンジン回転数の変化に合わせて上下する1種類の周波数成分のみ。したがって雑音の混じってない、美しく澄んだV12の音色に酔いしれることができる。その甘美なサウンドは、まさにフェラーリ・ミュージックと呼ぶに相応しい。

一方、F12から排気量が200ccほど増えて6.5リッターとされたV12ユニットは低速域でも分厚くしなやかなトルクを生み出してくれるため、タウンスピードでも812は実に扱いやすい。それとともに感動を覚えたのが乗り心地のよさ。繰り返しになるが、最高出力800psを誇る812は現行フェラーリのフラッグシップで、ロングクルージングはもちろんのこと、サーキット走行も視野に入れたモデルだ。にも関わらず、路面の鋭い段差だろうと大きなうねりだろうとやんわりと受け流し、乗員に鋭角なショックをまったく伝えないのだから驚くしかない。

「ミッドシップ2シーターとは別次元の余裕ある室内空間」

静かで快適なキャビンはインテリアの仕立ても極上。試乗車は要所要所に赤のアクセントが盛り込まれていたが、だからといって子供じみたイメージには陥らず、上品でしっとりとした雰囲気を醸し出していた。ミッドシップ2シーターとは別次元の余裕ある室内空間はドライバーをリラックスさせる効果をもたらす。フェラーリがフロントエンジンにこだわってV12モデルを作り続ける理由がわかるような気がした。

もっとも、フロントに搭載したエンジンが生み出す強大なパワーをリヤタイヤだけで受け止めるのは、さすがのフェラーリにとっても容易ではない。おかげでマラネロ郊外のワインディングロードを軽く攻めるとまたたく間にトラクションコントロールの警告灯が明滅し始めた。そのコーナリング性能をフルに引き出すには、この後に控えたフィオラーノでのサーキット走行を待つ以外にない。私は昂ぶる気持ちを抑えながら、ステアリングを大きく切って跳ね馬の生まれ故郷を目指した。

生まれて初めて走るフィオラーノで許されたのは4周の1セットのみ。しかも最後はクールダウンラップだから実質的には3周だ。一方、マネッティーノの“スポルト”や“レース”ではオーバーステアにならないことは公道試乗を通じてわかっていた。つまり、トラクションコントロールが外れる“CTオフ”か“ESCオフ”を試さない限り、812の実力は引き出せないのである。そこで、やや無謀とは思ったものの、慣熟走行の1周目を“レース”で走り、続く2周目で同じく“レース”で限界コーナリングに挑戦。最後の3周目で“CTオフ”を試すというメニューを組み立てて走行に臨んだ。

「タイトな1コーナーで初めてテールを大きく振り出し、私に牙をむいた」

しかし、ここでも812は私にフレンドリーな一面を見せる。ステアリングから伝わる「大丈夫、キミにはコントロールできる」というメッセージを信じてスロットルペダルを踏み込めば、1コーナーを過ぎ、続くS字セクションに入る頃にはスタビリティコントロールの警告灯が点滅し始めた。コース幅が狭くてリスキーな立体交差付近は無難にクリア。その先のヘアピンではリヤタイヤの限界をはっきりと掴めた。さらにバックストレートのキンク部分では高速ベンドでの限界挙動も確認。最終コーナーを立ち上がったところで一旦ペースを緩めることが指示されていたが、ここで予定より1周早くマネッティーノを“CTオフ”に切り替えた私は、再びスロットルを大きく踏み込んでメインストレートを駆け抜けていった。

タイトな1コーナーで812は初めてテールを大きく振り出し、私に牙をむいた。低速コーナーだったこともあり、ここはカウンターステアでなんとか態勢を立て直すと、中速ベンドのS字セクションに進入。最初の右コーナーで再びリヤが軽く流れる。このときのカウンターがやや遅れ気味だったせいで、不安定な姿勢のまま続く左コーナーにアプローチしたところ、さらに大きくテールが流れ始めた。本来はスタビリティが高い812も、ここまで姿勢を乱すと為す術はなく、たまらずハーフスピン。速度は停止寸前まで落ちていたものの、その勢いで縁石を直角にまたいでグリーンに乗り上げる失態を演じてしまった。

「ドライバーを鼓舞する官能性と、正確な判断を促すコミュニケーション能力を両立」

もちろん、原因は単純な私のドライビングミスにあって、812には何の罪もない。それどころか、この巨大なV12エンジンをフロントに積むスーパースポーツカーは、ステアリングを通じて様々なインフォメーションを私に伝えてくれた。その情報に的確な反応ができなかったのは緊張で肩に力が入り過ぎていた私に責任がある。基本的なスキルが不足していたことも明らかだ。

しかし、初めて走るフィオラーノで私がここまで攻める気になったのは、ドライバーを鼓舞する官能性と、正確な判断を促すコミュニケーション能力の両方を812が備えていたからに他ならない。しかも、そうしたスポーツ性を他ブランドでは見られない圧倒的にゴージャスな世界で堪能できるのだ。GTC4ルッソを駆ったときに抱いた「ラグジュアリー・スーパースポーツカー造りでフェラーリが一歩抜け出した」との思いは、812と出会ってますます強まるばかりだった。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/Ferrari S.p.A.

【SPECIFICATIONS】

フェラーリ 812スーパーファスト

ボディサイズ:全長4657 全幅1971 全高1276mm
ホイールベース:2720mm
車両重量:1630kg
エンジン:V型12気筒DOHC
圧縮比:13.64
総排気量:6496cc
ボア×ストローク:94.0×78.0mm
最高出力:588kW(800ps)/8500rpm
最大トルク:718Nm(73.2kgm)/7000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前275/35ZR20(10J) 後315/35ZR20(11.5J)
最高速度:340km/h
0-100km/h加速:2.9秒
燃料消費率:14.9リッター/100km
CO2排出量:340g/km
車両本体価格:3910万円

※GENROQ 2017年 9月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。

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