日本市場に合わせたセッティング
スズキはクーペスタイルのSUV、フロンクスの販売を開始した。既に1万台を超える受注があったというこのクルマのステアリングを短時間ながら握ることができたので、その第一印象をまとめたい。
【画像】インド生まれの日本車、スズキ・フロンクス初乗りの様子 全34枚
フロンクスは、インドのグジャラート工場で生産しているスズキのグローバル戦略車で、日本、インドをはじめ世界70か国以上で販売している。
スズキがインドで生産をして日本で販売したモデルに、2016年から2020年まで販売をしてきたバレーノがある。日本での販売終了後もインドや中南米、中近東などで販売は継続。2022年にフルモデルチェンジを行い2代目に進化。そのプラットフォームを共用したのがフロンクスだ。
「もともと初代バレーノをSUVにしたら格好良いのではないかという構想がありました。そこで2代目の開発がスタートしたときに、バレーノ・サイズの使いやすさとSUVライクなデザインをまとったフロンクスの企画がスタートしました」と話すのは、開発責任者の森田祐司さんだ。
そのうえで、過去のバレーノの反省を踏まえ、日本向けに安心、安全装備を充実させた。特に4WDは、「日本は積雪地域が多いので、安心して乗ることができる4WDが必要」と専用開発した。
同時にサスペンションも、「インドは荒れた道やかまぼこ状のスピードブレーカーがあるので、少しいなしながら走るようなセッティング。日本は、平坦な道をきれいにスムーズにまっすぐに、僅か数センチの橋の段差などを丸くいなしながら走るという考え方でセットしています」と、環境に応じてショックアブソーバーの減衰力等を変えているとのことだった。
エンジンスペックの差は?
早速ステアリングを握ってみたいところだが、その前にどうしても気になることがあった。それは2WDと4WDでエンジンの出力とトルクの値がわずかだが違うのだ。具体的には2WDは101ps/6000rpm、135Nm/4400rpmであるのに対し、4WDは99ps/6000rpm、134Nm/4400rpmだ。
これについてドライブトレイン等を開発したうちのひとり、光澤尚晃さんによると、「4WD化により排気管の取り回しが変わったので、少し抵抗が生まれてしまいました」とのこと。ここから最初に2WDが開発されたことが伺えたが、もちろん走行時に差異を感じることはなかったことを付け加えておく。
さて、エンジンをスタートさせ走り出してみると、まずその静粛性の高さに驚かされた。試乗時は雨が降っていたのだが、それを跳ね上げタイヤハウス内にあたる音もほとんど気にはならない。
ゆっくりアクセルペダルを踏み込んでいくと、街中ではおよそ2000回転でどんどんシフトアップし、燃費優先のセッティングであることが分かる。一方、しっかりとアクセルペダルを踏み込めば、レッドゾーンの始まる6300回転までスムーズに、トルクやパワーが垂れることなく回ってくれるので、とても素直なエンジンといえる。
お勧めは4WD
ただし、低回転域では若干トルク不足を感じるときがある。前述のとおりどんどんシフトアップしてくのだが、2速から3速にシフトアップしたあたりで加速が鈍り、トルクが不足しているようなかったるさを感じた。
これを解消する方法はスポーツモードにすることだ。そうするとアクセルペダルの応答性が鋭くなるとともに、シフトアップポイントが1500から2000回転ほど高くなるために、こういったまどろっこしさを感じることはなくなり、直線的な加速を味わうことができるようになる。
だがしかし、今度は発進時に気を使うことに。ノーマルモードでは極めてスムーズに発進できるのだが、そのつもりでアクセルペダルを踏み込むとまるでスイッチのオンオフのような印象で、過敏な反応に戸惑ってしまった。現状ではノーマルモードで、トルク不足を感じた時だけパドルでシフトダウンするという乗り方が良さそうだ。
今回2WDと4WDを乗り比べることができた。結論からいうとお勧めは4WDだ。まずハンドリングはどちらも素直で、ステアリングフィールも自然。路面からのフィールもきちんと伝えてくれる。
2WDと4WDの違いは、やはりコーナリング性能。ただ、この差はワインディングではなく雨の街中で十分感じ取れる、いわば安全性能と捉えてもらっていい。例えば横断歩道などの白線でスリップした経験は誰にもあるだろう。そういったシーンでも4WDはしっかりと路面を捉え、行きたい方向にしっかりとクルマを進めてくれる。さらにレーンチェンジの時なども車両の安定感はかなり高かった。
慣らしが終われば大きく変わりそう
ところで、最後まで乗り心地について触れなかったのにはわけがある。それは試乗車がどちらも走行距離が500kmにも満たなく、まだ足まわりの慣らしが終わっていない状態で、少々突っ張るような固めの乗り心地だったからだ。
それでもスピードバンプのような大きな入力の際にはしっかりとしたストロークを感じたので、もう少し走り込めばはるかにしなやかさが感じられることだろう。現状でも2WDと4WDを比べると、明らかに4WDの方が後席も含めてしなやかさを感じられた。
開発責任者の森田氏は、ドイツの国民車の乗り味が好きとのことなので、最初は少し固めに組んで、そこから距離を重ねることで各部の慣らしが終わり、本来の乗り味が出てくるという、そう、まるでひと昔前の欧州車のようなクルマに仕上げているようなのだ。
そのほかADAS系は非常にスムーズで急激な加減速もない、安心して使えるものだった。加速時に若干ゆっくり過ぎるかなという場面もあったが、その場合はドライバーがアクセルペダルを踏み込めばいいだけのこと(あくまでも安全運転支援システムということをお忘れなく)。
シートも大きめだが、ホールド性は高く長距離もこなせそうな印象。前述のように走行距離が500kmに満たない走行距離だったが、一部情報によると1000kmほど走り込むとトルク不足もかなり変わってくるらしい。もしそうなら、普段使いから、クルマに対して一過言ある方にまでお勧めできる1台に仕上がっているといえる。何にせよ、全てにおいての自然さがこのフロンクスの美点だ。
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インドのコンパクトカーはどれくらい進化しているでしょうか!?