クルマ好き必見の展示内容
広島市安佐南区にあるヌマジ交通ミュージアム(公益財団法人・広島市文化財団 広島市交通科学館)では2022年7月15日から令和4年度夏季企画展「ル・マンを駆けた737C・787B」とスポット展示として「高橋徹 ~瞬く間にF2に駆け上がった広島出身のドライバー~」を開催しています。この企画展/スポット展示を紹介しましょう。
【ロータリー神話を振り返る】ル・マン24時間でどうして「マツダ787B」が日本車初の総合優勝できたのか?
ロータリーの聖地! 広島ならではの充実した資料を展示
企画展を主宰したヌマジ交通ミュージアムは、1970年の東京モーターショーに出品されたマツダのロータリー・エンジン搭載のコンセプトカー、マツダRX-500を収蔵。さらに近年になって1968年のニュルブルクリンク84時間=マラソン・デ・ラ・ルートに参戦したコスモスポーツのレプリカがコレクションに加わるなど、ファンには見逃せないロータリー・エンジンの聖地となっています。
そんなヌマジ交通ミュージアムでは定期的に企画展を開催してきましたが、令和4年度の夏季企画展では「ル・マンを駆けた737C・787B」をテーマに魅力的なマシンを飾っています。近年レストアが完成したマツダ737Cと、1991年のル・マン24時間で優勝を飾った787Bを保存するため、国内レース用として製造された通称“787B・202号車” 、この2台のレーシングスポーツを展示。
マツダ737Cは、1985年のル・マン24時間に#85号車としてグループC2クラスに出走した車両そのもので、シャシーナンバー737C-001。ル・マン24時間では片山義美/寺田陽次郎/従野孝司のトリオがドライブし、総合24位/クラス6位入賞を果たしています。
ル・マン24時間レースを終えたマシンは、マツダスピードから静岡マツダに所属が変わり、国内で行われていた全日本耐久選手権に参戦していました。現在は、コジマやマキの国産F1をレストアしたことでもお馴染みとなったクロマの伊藤英彦さんのもとにあり、同氏によってレストアがなされています。
レストア作業は御殿場市にあるトランジット・エンジニアリング・ジャパン(渡邉博人代表)で行われました。カウルワークの生みの親でもあるムーンクラフトの由良拓也社長も検証に立ち会うなど、精緻な作業の末に見事甦ったマツダ737Cは、2021年4月に行われたオートモビルカウンシルで一般にお披露目しています。
もう1台の787Bはシャシーナンバー787B-003で、国内レース専用に制作されたためにレギュレーションで必要とされていないヘッドライトレスのフロントカウルを装着。カラーリングもル・マン24時間の優勝車と同じレナウン・チャージ・カラーですが、オレンジとグリーンの配色が逆になったカラーリングも特徴でした。
同企画展を開催するために奮闘されたヌマジ交通ミュージアムの学芸員、田村規充さんは「本当は787Bもル・マンで優勝した#55号車を展示したかったのですが、ル・マン・クラシックに参加するためにスケジュール的に無理となったのが残念です」と話していました。
2台の車両展示以上に、充実していた展示資料にも注目です。ル・マン24時間レースの成り立ちやマツダのル・マン挑戦ヒストリー、さらに737Cのレストアの詳細などについて数多くの写真とパネルで説明し、多くの人が立ち止まって熱心に見入っていたのが印象的でした。
広島出身のドライバー高橋 徹選手にもスポットを当てたコーナーも
この企画展に合わせて行われているスポット展示では、広島県東広島市出身のドライバー、高橋 徹選手を特集していました。18歳の時に西日本サーキット(山口県美祢市にあったサーキット。現在はマツダの美祢自動車試験場)でレースデビュー。
翌年は鈴鹿でひとり暮らしをしながら、新人のためのレースシリーズである鈴鹿シルバーカップのFL550クラスに参戦。9戦中3戦で優勝してチャンピオンに輝くと、翌年は鈴鹿フルコースで争われるFL550チャンピオンレース・シリーズに参戦しています。
ベテランの猛者がひしめき合うなか、6戦中2戦で優勝してシリーズ3位に。翌1982年はF3にステップアップし、9戦中2戦で優勝しシリーズ2位という結果に。そして1983年には国内最高峰のレースシリーズ、現在のスーパーフォーミュラ(SF)に相当する全日本F2選手権と富士グランチャンピオン(GC)への挑戦が決定したのです。
国内トップチームのひとつ、ヒーローズレーシングに所属し、当初はエースを務める星野一義選手のナンバー2として多くを学び取る計画でしたが、星野選手がヒーローズから離れて自らのチームを立ち上げることになったため、高橋選手は急遽エースに昇格してシーズンを迎えます。
こうして迎えたデビュー戦=全日本F2選手権のシーズン開幕戦で高橋選手は中嶋 悟選手、松本恵二選手、星野選手のベテラン勢に続いて予選4番手を奪い、レース中盤に3位に進出するとファイナルラップでトラブルに見舞われた星野をかわしてそのままチェッカー。中嶋選手に次ぐ2位の表彰台をゲットしています。
そして同じ鈴鹿サーキットで行われたシリーズ第5戦では見事ポールポジションを手に入れています。近年ではホンダやトヨタの育成ドライバーがF3やスーパーフォーミュラライツ(SFL)からSFにステップアップし、早い段階で速さを見せるようになるケースも少なくありませんが、デビュー戦で2位表彰台、5戦目でポールポジションというのはあまり例がありません。
22歳にしてF2デビューを果たした高橋選手
とくに高橋選手がF2デビューを果たした当時は、星野選手と中嶋選手、ふたりの最速最強ドライバーが君臨。ほかにもベテランの猛者が多くいたので、ルーキーがそのなかに分け入って戦うこと自体が困難な状況でしたから、デビューから5年目、22歳にしてF2デビューを果たした高橋選手の戦績は、驚くべきものでした。
そんな驚異のデビューを果たした高橋選手にはマツダも注目していたようです。同年齢で、同時期にF3を戦っていた鈴木亜久里さんは「トオルは絶対にF1に行くと思っていた」とコメントしていましたが、F1よりももっと具体的な話として「マツダのル・マン計画のドライバー候補に名が挙がっていた」と先輩ジャーナリストに聞いたことがありました。
デビュー戦から取材してきたことから、高橋選手とは個人的な交際もあったので、この先輩ジャーナリストの話はわがことのように嬉しかったと記憶しています。しかし、彼の夢も、多くのファンの想いも、残念ながら実現することはありませんでした。F2最終戦の鈴鹿グランプリを前に行われた富士GC最終戦で、高橋選手はアクシデントに遭遇し、23歳になったばかりの若さで逝ってしまったのです。
今回のスポット展示では、そんな彼がデビューシーズンにドライブしたマーチ832・BMWや、彼が普段の足に使っていたマツダ・ファミリアなどが展示されています。また多くの写真や深く掘り下げられた資料もパネルで展示されていて、瞬く間にF2に駆け上がっていった高橋 徹選手を理解するにはベストな展示となっています。高橋 徹選手を知っている人もそうでない人も、モータースポーツファンの人もそうでない人も、この若者を知ってほしい、と改めて思いました。企画展とスポット展示は2022年9月4日(日)まで開催の予定です。
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みんなのコメント
小1になり多少車にも興味出るかもしれないので
子供達が大きくなった頃にはEVとか増えて、エンジン音はうるさいだけって時代になるのかな〜