燃料電池車の新たな選択肢?
執筆:Wataru Shimizudani(清水谷 渉)
【画像】デザインは? ヒョンデ・ネッソ【細部まで見る】 全68枚
2020年から東京エリアで、プロモーションやカーシェアリングを展開している、見慣れないFCVが存在する。
現代自動車が生産する「ヒョンデ・ネッソ(NEXO)」だ。
ボディ形状はSUVタイプで、その車体後部には「Fuel Cell」というエンブレムを確認できる。
FCV(燃料電池車)は、20世紀後半からGMやダイムラー・ベンツをはじめ多くの自動車メーカーが市販化を目指して開発してきた。
2002年にホンダ、トヨタが相次いでFCVのリース販売を開始している。
その後、トヨタは2014年にセダンの「ミライ」、2018年にはバスの「ソラ」、ホンダは2016年にセダンの「クラリティ・フューエルセル」を発売。メルセデス・ベンツは「GLC Fセル」をリース方式で日本に投入した。
ミライは2020年に2代目にフルモデルチェンジされ、クラリティは2021年末で生産を終えている。
つまり現在、日本で個人がFCVを純粋に購入しようとするなら、ミライしか選択肢はないことになる。
そこで注目しておきたいのが「ネッソ」という可能性。2018年のCESでワールドプレミアされ、すでに欧米では販売されているヒョンデの世界戦略車である。
意外にグラマー サイズは?
ヒョンデ・ネッソは、日本では2022年1月末時点で未発売だが、先ごろ開催された東京オートサロン2022にも展示されていた。
そのボディサイズは、全長が4670mm、全幅が1860mm、全高が1640mm。
ホイールベースは2790mm(前述のプロモーションで配布されたカタログ値)。
日本で見かけるインポートSUVとしては、ボルボXC60(4690×1900×1660mm、ホイールベースは2865mm)に近いサイズで、東京の街中でも取り回しに苦労することはないだろう。
ボディタイプは、いわゆるSUVに属するが、なだらかなルーフ形状や少し寝かせたリアウインドウなど、クーペSUV風な佇まいも見せている。
なかなかスタイリッシュな雰囲気で、前傾したショルダーラインとボンネットのパワードームにより、グラマラスで力強いフォルムが特徴だ。
水素充填口は、車体の左後ろに位置。ちなみに、車両重量は1870kgだ。
ミライ同等 航続可能距離820km
ヒョンデも21世紀はじめごろからFCVの開発を進めており、2013年には「トゥーソン」をベースにしたFCVを発売した。
だがネッソは、FCV専用モデルだ。
FC(燃料電池)スタックの型式は水素燃料電池で、種類は固体高分子型燃料電池。
これを432個、直列に接続し、最高出力は95kW(129ps)を発生する。燃料となる水素のタンクは3本搭載し、総容積は156.6L。
公称の使用圧力は70Mpaとされ、FCのシステムはフロントのボンネット内に搭載される。
FCが発電した電力を最高出力40kW、容量1.56kWhのリチウムイオンバッテリーに充電し、その電力で永久磁石型同期モーターが前輪を駆動する。モーターの最高出力は、120kW(163ps)、最大トルクは395Nm(40.3kg-m)。
燃料100%充填基準での走行可能距離は、820kmとされている。つまり、理論上は東京から広島市まで一充填で行くことが可能だ。ちなみに、トヨタ・ミライは850kmだ。
日本を走るネッソのハンドル位置は右で、「P」「R」「N」「D」のシフターはボダン式。パーキングブレーキも電動タイプだ。なおネッソの最高速度は179km/hとアナウンスされている。
また、AUTOCARで撮影した車両は、ハンコックのベンタスS1エボ(245/45R19)を履いていた。
内装とパッケージについて
ネッソのインテリアでは、センタークラスターと一体化した、ブリッジタイプのセンターコンソールが特徴的だ。そのセンターコンソール上方にスイッチ式のシフトセレクターが備わる。
メーターパネルは7インチの全面液晶モニターで、その左側のセンターダッシュ中央には12.3インチのマルチメディアスクリーンが備わっている。
インテリアはレザーフリーで、大半の素材はバイオプラスティックを採用。
ネッソの室内寸法は、長さが1923mm、幅が1530mm、高さが1228mm。乗車定員は5名。
日本車では、トヨタ・ハリアーの室内寸法(1880×1520×1215mm)より全体的にわずかに広いといった空間だ。
ラゲッジルームの長さは1031mm、高さは800mm、幅は最小1024~最大1350mm。容量はVDAで461L。
ラゲッジルームの床下に3本の水素燃料タンクや駆動用のバッテリーを搭載しながら、これだけのスペースを確保しているのは、たいしたものといえるだろう。
SUVとセダンという違いはあるが、ミライのトランク容量は254~321L(グレードによる)となっている。
おさらい 燃料電池とは
ヒョンデ・ネッソの解説を終える前に、燃料電池についておさらいしておこう。
燃料電池とは、電気化学反応によって燃料の化学エネルギーから発電する電池のことだ。
その燃料には水素や炭化水素、アルコールなどが用いられるが、自動車用は水素を燃料とするものがほとんど。
燃料の水素と空気中の酸素を化学反応させて発電するのだが、そのシステムは簡単にいえば「水の電気分解(水に電気をとおして酸素と水素をつくる)」の逆となる。
この原理は19世紀初めに考案されているのだが、1960年代にNASAが有人宇宙飛行計画で採用したことから有名になった。
その燃料電池で発電した電気を駆動用バッテリーに蓄え、モーターで駆動して走るのが燃料電池自動車(Fuel Cell Vehicle:FCV)だ。
つまり、FCVは電動車の一種にあたる。
ヒョンデ・ネッソ スペック
車両価格:-
全長×全幅×全高:4670×1860×1640mm
ホイールベース:2790mm
車両重量:1870kg
パワーユニット種類:永久磁石式同期型モーター
最高出力(モーター):163ps
最大トルク(モーター):40.3kg-m
最高速度:179km/h
駆動用バッテリー:リチウムイオンポリマーバッテリー
駆動方式:FF
航続可能距離:820km
水素タンク容量:156.6L
最小回転半径:5.68m
最低地上高:162mm
乗車定員:5名
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