日本ならではの軽を作り上げるという新たなる挑戦
いよいよ正式デビューを飾った新型デイズ。初のフルモデルチェンジで、2代目へと生まれ変わったデイズは、その特徴をひと言で表すなら「よくばりなクルマ」と言えるだろう。安全性、加速性能、室内の広さやユーティリティの使い勝手、運転のしやすさから質感、デザインと、ありとあらゆる部分を進化させた新型は、プラットフォームからパワートレイン、電子システムまで一新され、さらには話題の先進運転支援技術「プロパイロット」も採用(グレード別設定)するなど、じつに見どころの多いクルマだ。
【試乗】もはやコンパクトカーいらず!? プロパイロットまで搭載した新型日産デイズ誕生
開発責任者の齊藤雄之さんは、「技術の日産のすべての力を注ぎ込んだクルマです。お乗りいただければ、すべてのお客さまにその実力を感じていただけるはずです」と胸を張る。自信作をものにできた最大の理由は、一切の妥協を許さなかったことと、そのためのモチベーションをすべての開発メンバーが持ち続けたことだという。
「開発が始まった当初、私がメンバーに言っていたのは、『この仕事は間違いなく歴史に残る』という言葉でした。新型デイズは、2代目じゃない。日産にとって本当の意味での初の軽自動車なんだと」
ご存じの通り、デイズは三菱自動車のeKワゴンと姉妹車の関係にあり、初代の開発は三菱自動車との共同で行われている。企画には日産の意見が色濃く反映されていたが、開発の多くは三菱が担当し、エンジンや電子システムなども三菱製が採用されている。対して2代目となる新型は、生産は三菱自動車が担当するが、開発は全面的に日産の主導で行われている。エンジンやCVT、プラットフォームなどの新開発も日産によるもの。プロパイロットが採用できるのも、各電子部品を連携・制御するための電子システムが日産製であるからだ。新型デイズでは開発コンセプトとして「すべてを備えた 新生 日産軽」を掲げているが、まさにその言葉通りに開発されたクルマと言えるだろう。
「やはりエンジニアとしては、開発をやり抜いたクルマこそが、自分たちが作ったクルマなのだと思います。日産にとって初の軽という言葉は、私のそんな個人的な想いから出たものです。けれど開発メンバー全員がこの言葉に共鳴してくれました。プロジェクトがスタートしたときから、みんなのモチベーションもすごく高かったですしね」
本当の意味での日産初の軽。それは志の高さを示すと同時に、ハードルの高さを表す言葉でもある。
「私たちエンジニアだけでなく、ほかの開発メンバーも、ゼロから軽自動車を開発するのは今回が初めてでした。そこで開発を始めるにあたってまず取り組んだのは、軽の市場を知ることです。お客さまの声に徹底的に耳を傾け、真摯に向き合おうと考えたんです。自分たちでもハンドルを握り、軽自動車で走り込みました。その結果、開発チームが得た結論は、軽自動車はどこかひとつが尖っていればいいというクルマではないということ。性能や品質はもちろん、すべての領域でお客さまにご満足していただくことが必要だと考えたんです」
そんな考え方が形として表れている例のひとつが「プロパイロット」の採用だ。開発当初は社内からも「軽自動車でそこまでやる必要があるのか」という声が挙がったが、齊藤さんたちは、むしろ「女性や高齢者、運転の初心者など、さまざまな人が乗る軽自動車だからこそ必要だ」と考えて実現させたものだ。
「かつての軽自動車のイメージは、日常の買い物の足として購入するセカンドカーであったり、通勤のために使う経済性が魅力のクルマというものだったと思います。ですが、そのイメージもすっかり変わってきました。今や日本の乗用車の新車市場は3台に1台以上が軽自動車です。ファーストカーとしてお乗りになっているお客様も増えていますし、それにともなって、趣味やレジャーで使われる場面も多くなっています。長距離を安心・快適・便利に移動できるプロパイロットは、そうしたお客さまに絶対に喜んでいただけると確信しています」
齊藤さんが語る通り、軽自動車のイメージは大きく変わりつつある。以前は、「軽でも十分」という理由で軽自動車を選んでいたオーナーも多かったと思うが、近年では「軽がファーストカーでもいい」ではなく、「ファーストカーとして選んだクルマがたまたま軽だった」という人も増えている。実際、コンパクトカーから軽自動車へとダウンサイジングするユーザーは増加傾向にある。そうした時代の変化を考えると、軽自動車である新型デイズへのプロパイロットの採用は、大きな意義のあることだったと言えるだろう。
女性評価チームを結成し開発初期から使い勝手を追求した
あらゆる人に快適さを。そんな開発チームの想いは、女性ユーザーにも向けられている。新型デイズでは、開発チーム内に女性社員による「女性評価チーム」を結成し、使い勝手などについて女性目線からの徹底的な検証を行っている。付け爪でも操作しやすいスイッチの位置や形状。体格の小さな女性でも、つま先ではなく足全体で踏み込めるペダルや、キューブなみの柔らかさと、長時間でも快適なスパイナルサポートを備えたシートなど多岐にわたる。
現在の日産車のステアリングホイールは、下面が平らになったDシェイプを採用しているが、新型デイズだけは女性が送りハンドルで操作をしても違和感のない真円タイプを採用。これらはすべて、女性の意見から生まれたものだ。
「運転視界についても、女性が運転しやすいことに配慮しています。ボンネットの左右の微妙なふくらみは、堂々とした威風を表現するだけでなく、車両感覚をつかみやすくすることにも、ひと役買っています。収納についても、よく使うものをしまう場所は『見える収納』、車検証のような普段は使わないもののためには『隠す収納』と、メリハリを付けてスッキリ美しく使えるような収納のレイアウトにも、女性の意見が生かされています」
「付け爪でも操作しやすいスイッチ類などは、男性エンジニアだけでは絶対に気付けなかったことですね。開発中は試作ができると女性評価チームにチェックしてもらい、そこでの意見をもとに修正をしたり、新たなアイディアを盛り込んだりといったことを何度も繰り返しました。その過程でわれわれは、女性に使いやすいものは、男性にも使いやすいということを強く感じました。女性評価チームのおかげで、結果的に女性だけでなく、より多くの人たちにとって使いやすいクルマができたと思います」
どんな道でも気持ちよく走れる日産のすべてを注ぎ込んだ自信作
新型デイズの斬新なデザインを実現した技術力も見逃せないポイントだ。豊かな抑揚を持つフォルムや、角Rの小さなプレスラインなどは、従来の軽では見られなかった繊細かつ大胆な表現。コンパクトクラス以上の存在感、質感の高さを訴求するモデルとなんら変わらない手法で作られている。
「そうおっしゃっていただけるとうれしいですね。サイズに制限のあるボディで、あれだけの抑揚を付けながらシンプルに見せるのは本当に大変な苦労でした。新型は室内空間も広がっていますから、デザインのために使える寸法がもともと少なくなっています。ですから、ドアの設計を見直すなど、設計サイドでの苦労も大きかったですね。こうしたデザインの実現のためにも『技術の日産』が生かされているわけです」
ボディの抑揚の表現には、生産現場の協力も欠かせない。たとえば、プレスラインの角Rも、Rが小さいと、プレス時に「線ズレ」という現象が起こりやすい。そうした問題を克服するには、試作段階の試行錯誤も必要となるため、開発と生産の協力体制が不可欠だ。だが、もともと開発と生産は、ある意味で相容れない立場にある。開発サイドは、時代ごとの新しい表現を模索して、その魅力をお客さまに届けたいと考える立場。対して生産サイドは、高い品質を安定的にお客さまに届けることが最大の使命。そんな生産サイドにとって、開発の“冒険”は好ましいとは言えないのだ。
「しかも今回は、生産を担当するのが別の会社ですからね。日産の私たちが思い描くクルマが、日産とは違う歴史を持った工場で、本当に狙い通りに生産できるのか。日産同士なら同じ建物のなかにいて、すぐに顔も合わせられますが、新型デイズを生産する三菱さんの工場は、われわれのいる神奈川県から物理的な距離も大きい。今回のような役割分担が初めてということもあり、開発が始まった当初は不安もありました」
そんな不安を解消し、理想を実現させるために、齊藤さんたちが取った行動は、労を惜しまず足を運んで、顔を合わせるということだった。
「愚直なやり方かもしれませんが、やはり必要なのは、相手のふところに飛び込んで、お互いの考えや意見を尊重しながら、コミュニケーションを取ることだと思ったんです。われわれも岡山に何度も足を運びましたし、岡山の生産現場の人たちにもこちらに来てもらったりして試作を確認したり、アイディアを出し合ったり、徹底的な議論をしたり、本当に濃密なやりとりをしながら完成にこぎつけたんです。お互いの協力があったからできたデザインだと思います」
不安と戦いながら、妥協を許さずに進めてきた開発プロジェクト。苦労は大きかったが、理想を実現させることができた喜びはそれ以上に大きかったという齊藤さん。
「日産という社名は、日本の産業をよくしたいという想いが由来です。新型デイズも、細い路地や、解けかかった雪でぬかるんだ道、急坂や高速道路など、日本のどんな道でもスイスイ走りたいというお客さまのご要望に応えたいと考えて作ったクルマです。日産の新しい自信作を、ぜひ体感してみてください」
そう言いながら、にっこりと笑ってみせてくれた齊藤さん。その笑顔は、新型デイズへの自信の表れに違いない。
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