かつて日本でも人気を集めたアメリカ車を小川フミオがセレクト。現代のアメ車では得られない魅力とは?
さいきん、1960年代から1980年代のアメリカ車っていいなぁ~と、思うようになっている。理由は、“StayHome”の友である「NetfFlix」。アメリカのテレビシリーズ「Gotham(ゴッサム)」で、再注目した。
Gothamのコンセプトは、バットマン誕生前夜。バットマン/ウェインの育った街、ゴッサムシティを舞台に、青年期のジェームズ・ゴードンと少年期のブルース・ウェインを軸にしたクライム・ドラマだ。
時代背景はさだかでないが、登場人物はふたつ折りの携帯電話を使っているから1980年代後半か。たしかに私が当時、取材で出かけたアメリカの街のように、幅広で、クロームぎらぎらの、いかにも頑丈そうなアメ車が続々登場する。それが妙に魅力的なのだ。
私の家の近所でも、1960年代のいわゆる第1世代のポンティアック「GTO」に乗る「バワリーキッチン」(カフェ)のオーナーの姿をよく見かける。5.2mの全長に、1.9mになんなんとする全幅の車体は、かなり目立つ。
カッコいいんだか、悪いんだか、ちょっとわからない。ファッションでいうと、昨今のカーハートやディッキーズといった作業着を手がけてきたブランドが、もてはやされるのと、すこし似ているのかもしれない。
カッコよくしようと思って作ったものはカッコよくない。そんな価値観に、ちょっと古いアメ車は合致しているのだろう。ネット通販やネットオークションが発達した今、アメ車を買うのは比較的簡単だし、パーツもリプロダクション(複製)まで含めるとストックが豊富にある。
やや問題があるとしたら、毎年、ちょこちょことマイナーチェンジをほどこされているで、買うべき年式を見極めるのがすこしむずかしいこと。それに、エンジンやギアボックスをはじめ、オプション・パーツがじつに豊富なクルマが多いため、自分にとってのオリジナルをどこに設定するか、といったところだろうか。
ここで紹介しているモデルのほとんどは、日本にも正規輸入されていたので、うまく探せば、日本国内で程度のいい個体が見つかる可能性もある。
ジープ・ワゴニア
このクルマが新車だなんて、1990年ごろは信じられなかった。なにしろ1962年に登場して、1992年まで生産されていた。空力ボディを含めた”機能主義的”デザインが多くなった1980年代には、すでに異色の存在であった。
1980年代といえば、日本ではパリ~ダカール・ラリーで活躍した三菱「パジェロ」に代表されるように、SUVでも高性能化が進んだ。そんななか、ウッドパネルのデカールが似合うワゴニアは、いかにも旧態依然としていたが、この”味”が大好きというファンには大きな魅力を持っていた。
フレームシャシーに、低回転域から太いトルクを発揮する、4.2リッターの直列6気筒、あるいは5.9リッターのV型8気筒エンジン。ゆっさゆっさとボディを揺らすように動き、“コーナリングが得意です”とは言いにくいおおらかなステアリングなど、独特の”味”のあるクルマだった。
インテリアは、キュリオショップ(骨董屋)のなかにいるみたいで、はっきりいってかなり違和感があった。“テカテカ”と、表現したくなるレザーとスウェードを組み合わせたシートの素材感といい、明るい色調のダッシュボードを含めた色使いといい、エイティーズっぽくなかった。
©2018 Courtesy of RM Auctions©2018 Courtesy of RM Auctions1980年代はMacが出てきて、携帯電話も出てきて……という時代だったが、こちらは、大きなタイプライターとか固定電話の世界だ。イタリア料理でなく、チキンポットパイを出すダイナー。
というわけで、こういう世界に惹かれるひとは、いまあえて乗る価値がある。
ワゴニアは当初、1940年代にジープのステーションワゴンとして開発され、そののちワゴニアの名前で生産化された。最後までフレームシャシーで悪路の駆動性を確保していたように本格的なオフロード性能を持っていた。
パートタイムの4WDであったものの、1973年にフルタイム4WDシステムが採用された。この頃、アメ車の常として設定されていた後輪駆動仕様がカタログからなくなり、4WDのみになった。
「ワゴニア」と「グランドワゴニア」があるのは、途中で、ジープ全体の車種体系が変わったのに合わせたから。84年に「ワゴニア」が2代目「チェロキー」とおなじ四角い合理的なデザインのボディになったのを機に、従来からのモデルは「グランドワゴニア」に車名変更された。
キャデラック・フリートウッド・ブロアム
©2018 Courtesy of RM Auctionsこのクルマのよさは、サイズとエレガンス。1980年代から1990年代は、キャデラックの大変革期。最初の波は前輪駆動化だった。そして次なる波は新しいデザイン・テーマの導入。
どちらの波もかぶることのなかったこのクルマは(やや皮肉的だが)この時代のキャデラックのなかでもっとも魅力的に見える。
キャデラックといえば、フルサイズと呼ばれた全長5m超のボディに、V8エンジンに、それに後輪駆動。しかし、ゼネラルモーターズは製造コストや燃費などにかんがみて、来る時代の生き残りのためには前輪駆動化が必要と判断した。
そこで生まれたのが、前輪駆動用のCボディ・プラットフォームだ。オールズモビル「98」をはじめ、1985年モデルから採用された。フリートウッドもこのとき前輪駆動になった。
©2018 Courtesy of RM Auctions©2018 Courtesy of RM Auctionsいっぽうで、守旧的なオーナーも少なくないキャデラックのマーケットのために、従来の後輪駆動モデルも残され、フリートウッド・ブロアムと名づけられていた。
2車は車名が似通っていてややこしいが、ボディスタイルからして、まったく違う印象。フリートウッド・ブロアムが圧倒的な存在感だ。ボディの長さを強調した水平基調のラインで構成されている。
くわえて、特徴的なのは、後輪を半分隠した”スパッツ”の採用だ。キャデラックでいうと、1941年の「60スペシャル」で使われだした。当時はタイヤハウスをくり抜かないことでリアフェンダーの造型を強調するという、アールデコスタイルに合ったものだった。
©2018 Courtesy of RM Auctions全長5.6mを超えるボディをはじめ、細かい格子のキャデラック伝統のグリル、クロームの輝きが目をひくバンパー、さらにボディ側面下部もクロームで美しく装飾されている。これは、いま乗ると、適度にクラシックで、かなりいいかんじ。
5.7リッターV型8気筒ガソリン・エンジンによる太い低回転域のトルクで瞬発力もある。いっぽうエンジンを上までまわしたときの太い排気音と、ステアリング・ホイールや床面から足に伝わるバイブレーションは、大排気量のアメリカ車ならでは。最高です。
ヤナセが販売していたので、日本の中古市場にもけっこうタマ数が残っている。100万円を切る価格なのもぐっと興味を惹かれる。ただし新車で高かったクルマはパーツが高いことをお忘れなく。まずは、消耗品をチェックして、米国のサイトで価格を調べてみて、そのあと購買に踏み切ろうではないか。
シボレー・コルベット(C4)
chevyhistory corvettehistory「アメリカン・フェラーリ」。1984年登場のコルベットはそう呼ばれることもあった。たしかに、当時のゼネラルモーターズのヘッドオブデザインのチャック・ジョーダンは、熱烈なフェラーリ・ファンだった。
V型8気筒ガソリン・エンジンにファイバープラスチックのボディという、1955年から現在まで続くコルベットの”公式”は、フェラーリとはちがう、独自のものだ(コルベットの登場は1953年でるが、最初の2年間は直列6気筒搭載でスタイリングもそれ以降の「C1」世代とは異なる)。
小まわりの効く駆逐艦であるコルベット艦が名前の由来であり、命名したゼネラルモーターズでは、ハンドリングのよさとパワーのバランスを追求したのがわかる。
1984年登場の第4世代「C4」は、当時ゼネラルモーターズの輸入代理店だったヤナセが本格的に販売を手がけた初のコルベットであり、日本市場において、いっきに存在感を高めた。ウェッジシェイプのシルエットが従来に比べぐっと洗練されたのも人気の理由になった。
©2019 Courtesy of RM Auctions©2019 Courtesy of RM Auctionsいっぽうで、要所要所にデザイン的な見せ場もきちんと作られていた。
たとえばエンジンルームへアクセスするには、フェンダーと一体になった大きなボンネットを開くので迫力があったし、格納式ヘッドランプを点灯すると270度ぐるりとまわってユニットが出現する。周囲の人が注視するのはおもしろかった。
当初は200psの5.7リッターV型8気筒エンジンのみで、のちにパワーアップ。1989年には高性能の「ZR-1」が追加された。もちろん、真価を堪能したいなら、ロータス・エンジニアリングが開発に手を貸し、375psを発揮するV8搭載のZR-1に勝るものはない。
でも、200psのモデルでも充分に速い。発進・加速時の、いわゆるストールトルク比の大きさははんぱではない。(お勧めしませんが)街中の信号グランプリで負けることはめったにないだろう。
クーペ・ボディでもルーフの一部は脱着式可能だったが、1986年にフルオープンのコンバーチブルモデルが追加されている。速さと優雅さ、コルベットに求められている要件をほぼすべて満たしたC4は、いまも魅力的だ。
フォード・トーラス
1992 Ford TaurusFord画期的なクルマであった、と、当時思った。経営危機におちいっていたフォードが、社運をかけて1986年に発表した「トーラス」は、スタイリングしかり、性能しかり、“四角いフォード車”の時代をいっきに過去のものとしたのだ。
独ケルンのドイツ・フォードのデザインスタジオと連繋をとりながら作りあげたスタイリングは(ドイツ・フォードのシエラほどではないにしても)トレンディなエアロルックで、同時に発表されたワゴンも、スタイリッシュだった。
感心したのは、スタイルありきで開発されたようでいて、じつはパッケージング(室内の広さ)が最優先だったという点。実際、室内はゆったりしており、前後席ともに空間的な余裕はたっぷり。橫3人がけのフロントシート仕様まで用意されていた。
日本ではフォードと提携関係にあったマツダ系列の販売店でも扱われた。マツダ車の延長線上にあるクルマととらえてもさほど違和感をおぼえないぐらい、乗り心地もハンドリングも、それに内外のデザインも、従来のフォード車とは大きく一線を画していた。
トーラスはしっかりした足まわりを備え、ハンドリングも欧州車的だった。全長4785mmのボディは日本ではやや大きすぎると感じられたのと左ハンドルしか設定がないなどデメリットもあったが、好きになれるクルマである。
日本には正規輸入されなかったが、1989年登場のヤマハと共同開発したハイパワーエンジン(Super High Output)搭載の「トーラスSHO(ショー)」はもっとも印象ぶかいモデルだ。
©2019 Courtesy of RM Auctions©2019 Courtesy of RM Auctions©2019 Courtesy of RM Auctionsクイックなステアリングと、硬められた足まわり。トラベルが短い6段マニュアル変速機用のシフトレバー。そして軽量フライホイールと組み合わされてシュンシュンまわる223psの3.0リッターV型6気筒ユニット……今、振り返ってもいいクルマだった。
このあと1995年にフルモデルチェンジ。2代目トーラスは、オーガニック・シェイプともいうべき、独特なスタイリングへ変貌する。日本にも正規輸入されていたが、約5mの全長に全幅1855mmというボディサイズとあいまってセールスは苦戦したのを思い出した。
ビュイックリーガル(3代目)
: 1992 Buick Regal Gran Sport Sedan and Custom Sedanアメリカ車のなかで、じつは隠れたベストセラーといってもいいのでは? と、思うのが、ゼネラルモーターズ傘下のビュイックが1988年に送り出した「リーガル」の3代目。とりわけ「リーガル・エステートワゴン」はいまでも街中で見かけるほどの人気ぶりだ。
SUVの台頭で、「アメリカのステーションワゴン市場はなくなった」と、言われてひさしい。でもこのリーガル(米国名はセンチュリー)のワゴンを見ると、1900年代の前半から、長いあいだステーションワゴンを作ってきた国だけのことはある、と、感心。
広い荷室、テールゲートには独立して開くガラスハッチ、荷室内の2人がけシート(格納式)と、考えられるユーザーの要求にできるかぎり応えようとしているのだ。
日本で売られたモデルをみると、エンジンは、年式によって、162psの3340ccV型6気筒ガソリン・エンジンと、160psの3135ccV型6気筒ガソリン・エンジンがある。最大トルクの数値は250Nmと比較的低めで、全長4930mm、全幅1770mm、車重1480kgのボディでもだいじょうぶ? と、思わないでもないが、力不足感はない。
1988年から1996年までと生産されていた期間は長い。正規代理店が扱っていた当時の価格は300万円を少し超えるぐらいで、当時は地味なモデルだった。
ゼネラルモーターズ傘下の企業の位置づけとして、最高級ブランドはキャデラックで、ビュイックはその下にくる高級ブランドであるものの、リーガルの内外装は実務的だ。
おもしろいのは、日本市場でのポジション推移だ。1990年代には、ウッドパネルのデカールをボディ側面に貼った、独特のたたずまいが若いひとにウケるようになった。いらい、中古車市場で独自の地位を守っている。
文・小川フミオ
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個人的には欧州車よりアメ車が好きです。