デビュー以来、一部の層から常に“つまらない”と言われるホンダNSX。その要因は、様々があるのは分かっているだけに改めて実践する必要がある。そこで今回は、袖ヶ浦フォレスト・レースウェイにて全開テストを決行!車両の特性を理解したうえで、どう走らせるのが最善なのかを探った。REPORT◎島下泰久(Yasuhisa Shimashita) PHOTO◎宮門秀行(Hideyuki Miyakado)
正しい”乗り方”を探る。
NSXは誤解されている。特にそのフットワークについては、世間ではいい話はあまり聞こえてこない。言われるのはクルマが重い、ステアリングフィールに乏しい、左右輪を個別の電気モーターで駆動して行なうトルクベクタリングがトリッキー……といったネガティヴな話と言ってもいい。
いや、もちろんそれをすべて否定するつもりはないのだ。カタログ数値で1800kgの車重は、おそらく皆さんの想像、あるいは期待を超えているに違いない。ステアリングフィールも、もっと密度が高ければとは感じている。
しかしながら、トルクベクタリングに関して言えば、これはドライビングが作用する部分が大きいのではないかというのが、デビュー当時にアメリカはパームスプリングスと日本の鈴鹿というサーキットに、京都のワインディングロードで試した結果としての筆者の確信だ。端的に言えば、NSXは自分の今までの走りをアップデートさせた、新しい時代のドライビングを求めているのではないか、ということである。
今回は、それを改めて検証するべくNSXをクローズドコースへと持ち込んだ。舞台は袖ヶ浦フォレスト・レースウェイだ。
改めて言うまでもなく、1周2436mの袖ヶ浦のコースは鈴鹿よりもタイト。しかしながらストレートは400mあり、また大小様々なRを持つ14ものコーナーが備わるなど、NSXのようなハイパフォーマンスカーのポテンシャルを確認するにも十分以上のコースと言える。FIA規格に則るなど、安全面にに最大限に配慮されているのも見逃せないポイントである。
早速、走らせてみよう。今回、タイヤはノーマル。走行モードは最初からTRACKでコースに入った。
率直に言えば、いつも通りのハイパフォーマンスカーの感覚で走らせれば、確かにNSX、前述したような傾向がちょくちょく顔を覗かせて、うまく操るのは簡単ではないなと感じさせる。良くも悪くも速度感が薄く、大抵は実感以上に速度が出ているのと、ステアリングフィールが薄めなのが相まって、漫然と走らせているとわりと突っ込み気味になりがちだ。
それを無理やり曲げてアクセルを一気に踏み込むと、嫌な部分が顔を出す。車重があるせいか思った以上にアンダーステアが強く感じられるし、それでもアクセル開度が大きいままだと、限界の高いリヤは、ブレイクする時の動きがやや急。しかも、カウンターステアが当たった状態でアクセルの踏み込み量が多くなると、車体が舵角の当たった外側に飛ばされそうになるといった具合だ。
けれど、それだけでこのクルマのハンドリングを評価するのは間違いである。必要なのは、頭をNSXの特性に合った走りに切り替えること。具体的には、車重を意識し、そしてフロント2モーターのトルクベクタリングを活かすのである。
コーナー進入は無理せず、丁寧にステアリングを切り込み、旋回モーメントを発生させる。そして肝心なのはクリッピングポイント付近で、気持ちとしては少し手前からアクセルペダルに軽く足を乗せておくこと。こうしてステアリングを切った向きに、クルマを引っ張り出すようにしてコーナーを立ち上がるのだ。
あるいは4WD的な走り方と言ってもいい。もちろん、事実としてNSXは4WDなのだが、ミッドシップらしいシャープな旋回感覚と、同時にミッドシップにしては重いフロントが同居していて、そこも走りを難しいものにしている感覚がある。アンダーステアを出さず、うまい旋回姿勢を作り出し、アクセルでフロントから引っ張り出す。これがうまくキマった時のコーナリングは、いわゆるゼロカウンターで爽快だし、体感としても速い! のである。
フロントのトルクベクタリングがより強くなるSPORT+でも走ってみたが、レスポンスが敏感過ぎてサーキットには不向きと感じた。本領はワインディングロードでの方が発揮できそう。本当はこのトルクベクタリングの特性は、モードによって切り替わるステアリングやスロットル、VSAなどの特性ともども、もっと好みに応じてパラメーターを細かく調整できるようになれば面白いだろう。
もちろん現状に100%満足というつもりはない。不満は他にもまだまだある。けれど言いたいのは、ポテンシャルと向き合い、自分のドライビングの癖や習慣を一旦リセットして最新型にアップデートしていけば、NSXは圧倒的なスピードを引き出せるクルマだということだ。それはスポーツドライビングに、知性という項目を持ち込むことだと言ってもいいかもしれない。
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