普通車、軽自動車のどちらも新車は登録から3年、それ以降は2年に1度、クルマの安全性を確認するために受ける継続検査が車検である。
昔はディーラーか整備工場が車検の窓口だったが、クルマの持ち主であるオーナーが自ら行う、ユーザー車検という制度が打ち出されてからというもの、様々な手段で車検を受けることが可能になっている。
【実はエンジン以外も必要だった!!】ハイブリッドやEVの慣らし運転は必要? それとも不要??
30年近く、20回以上もユーザー車検を受けている自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が先日、ユーザー車検を受けて、あまりの親切ぶりに驚いたという。
さて、どんなことに驚いたのか? ユーザー車検の最新事情と合わせて高根英幸氏が解説する。
文/高根英幸
写真/高根英幸 ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】ユーザー車検とディーラー車検、車検代行業者による車検代の違いとは?
ユーザー車検とは?
陸運支局のユーザー車検受付窓口
ディーラーや整備工場などプロのメカニックが点検整備をした上で、エンジンやブレーキ、足回りなどの走行するための機関、灯火類などが規定の検査項目について基準に合致しているか検査するのが、車検の役割だ。
口の悪いヒトのなかには「車検制度は、重量税を確実に徴収するための手段」と言うヒトもいるけれど、ブレーキがきかないクルマ、基準より排気ガスの有毒成分が多いクルマを野放しにしておくのは、危険極まりないから、やっぱり車検制度は重要だ。
この検査を整備業者ではなく、所有者自身がクルマを車検場(陸運支局)に持ち込んで受けるのが、ユーザー車検である。
そもそもクルマの整備状況は所有者が管理するもので、整備業者はあくまでもそれを代理で行っている、というのが法律上の解釈。
国家資格の整備士免許が必要なのは、ユーザーのクルマを代理で整備するためであり、ユーザー自身がクルマを点検整備することも、法律上問題ない行為なのだ。
DIYメンテナンスに挑戦したいと思っているなら、まずは簡単な点検からはじめ、簡単な整備までこなせるようになったらユーザー車検を受けてみると、クルマの登録制度や車検のもつ意味が理解できて、また愛車との結び付きを深めることができるだろう。
そして、ややこしいのがユーザー代行車検という業者の存在だ。これはユーザーの代わりに車検場に持ち込んで検査を受けることを請負う業者のことで、従来より格安で車検を取得できることをアピールして急成長してきた。
ユーザーにとってはこれまで15万~20万円近くも車検代として支払ってきたものが、大幅に安くなるのだから有り難いと飛びつくケースも多い。
しかし、車検取得後も安心して乗れるための整備を施す整備業者による車検整備とは異なり、ユーザー代行車検は車検を取得することだけを代行するもの。
車検取得後ながらブレーキパッドが摩耗限界を超えていたり、バッテリーが上がってしまったりするなど、トラブルが起こるケースもあり、最近では安さだけをアピールした代行車検は減少しているようだ。
その代わり自動車整備士が点検整備を行なうサービスをメニューにもつユーザー代行車検業者が多くなっている。
最近の車検場の変化ぶりにオドロキ
陸運支局の検査ライン。最初はかなり緊張するが慣れれば大丈夫。なんといっても安く上がるのが嬉しい
筆者はもう30年近く、回数にして20回以上はユーザー車検を利用している。そのなかでは一発で合格しない場合も珍しくなく、様々な経験をしてきている。
先日、首都圏の陸運支局でユーザー車検を受けた時、2年前とは環境が変わってきたという印象を受けた。
それは検査ラインにおいて、ユーザー車検のクルマには検査員が1台に一人ずつ付き添って、検査をサポートしてくれているのだ。
クルマの誘導から、ユーザーが検査のために行なう作業の説明といったものだけでなく、合否の判定を検査用紙に印字する作業や、マフラー出口に検査用のプローブを差し込んで排ガスの検査を受ける作業まで、ユーザーの作業を代わりに行なってくれた。
ユーザーがクルマから降りて作業する必要がなく、そのまま検査ラインを通り抜けることができたのだ。
従来も、要所要所でサポートしてくれるようなことはあったものの、ここまで付きっきりであることはなかっただけに、少々衝撃を受けた。
マンツーマンのサポートぶりで初心者でも安心してユーザー車検を受けられるほど、実に親切、丁寧である印象だったのだ。どうして、ここまでサポートが手厚くなったのだろうか。
国土交通省から委託され実際に検査場を運営する独立行政法人「自動車技術総合機構」に訊いてみたところ、意外な理由があることが分かった。
まず検査ライン内でユーザー車検をサポートしているのは検査員ではなく、案内職員と呼ばれる一般から募集したスタッフなのだとか。
検査員は整備士などの資格をもちクルマを検査するための知識や技術をもっているが、案内職員はあくまでも検査ラインの作業をサポートするだけのスタッフで、一般から募集された人材だそうだ。
ユーザー車検を受ける人は増えているのか?
登録車のユーザー車検数。継続車検に占めるユーザー車検の割合は8%と微減が続いている
軽自動車のユーザー車検数。登録車と同様、微減が続いている
軽自動車の登録台数が増えているため、トータルでの乗用車の登録台数はこのところ年間30~40万台程度の微増を続けているが、平成12年をピークに登録車(普通車)の登録台数は減少を続けている。
そのため継続車検を受けるクルマが減っていることから、全国の陸運支局では検査場の検査ラインを減らしているらしい。
それによって1本のラインで通すクルマの台数を一定以上のモノとしている。これは検査員の人材不足にも対応したもので、1日あたりの検査台数に応じて、調整されているのだ。
実はユーザー車検自体の割合は、ここ10年ほどは微減を続けていて、普通車では8%程度になっている。
しかし検査ラインの数も減っているためユーザー車検が、1本の検査ラインを通る割合は増えている。
そのため少ない検査ラインでも滞ることなく検査をスムーズにするために案内職員を増やしてサポートを手厚くしているのである。
2年に1度、自分のクルマを持ち込むユーザー車検と違い、毎日1、2台のクルマを車検に持ち込む整備業者や代行業者にとっては、不慣れなユーザーが検査ラインで戸惑ってモタモタされるとイライラしてトラブルの原因にもなり兼ねない。そんな整備のプロからのクレーム対策にもなっているようだ。
ユーザー車検のメリットとは?
指定民間車検場で確実に整備をする選択肢もある
話を冒頭で触れた車検を取得するための方法に話を戻すと、車検を取得するにはディーラーや一般の整備工場、輸入車など特定の車種に特化した専門店に任せるという方法と、前述のユーザー代行車検などを行なっている車検専門業者、そしてユーザー車検という選択肢がある。
ディーラーや整備工場での車検取得は、点検整備がセットになっているため、しばらくはトラブルの不安なく乗ることができる。
輸入車や旧車などは専門店であれば、トラブルが起こりやすいウィークポイントなどを熟知しており、部品交換なども手慣れている分、安心できる。
ユーザー車検の一番のメリットは、やはり費用が安くなることだ。何よりもコストが掛かるのが人件費なのだから、自分で出来ることは自分で行なう方が、安上がりなのは明白だ。
しかも車検を自分で受けることにより、自分のクルマについての知識は確実に深まる。例えば自分のクルマの車台番号がどこに打刻されているか、知っているオーナーは少ないのではないだろうか。
新車で購入して初めての車検であれば、24ヵ月点検は後回しにして、ユーザー車検を受けてみるのもいい。
ディーラーのメンテナンスパックなどに加入している場合は、それを利用するため車検もそのままディーラーで受けることになるだろうが、そうした、しがらみがなければ、初回の車検は大体何の問題もなく取得できる。
よほど走行距離が多くなければエンジンオイルの交換以外、メンテナンスフリーで5年くらいは乗れてしまうのが最近のクルマだ。
車検を受けるには24ヵ月点検が必要だが、ユーザー車検の場合は車検に合格した後で24ヵ月点検を受けることも可能なので、車検は自分で取得して、後から24ヵ月点検だけをディーラーや整備工場に依頼してもいい。
車検取得のために整備を行なうと、念のために調整や部品交換する場合もあり、車検費用の上昇に繋がるが、車検を先に取得しておけば最低限の点検整備と消耗品の交換だけで済むからだ。
1回車検に不合格になっても15日間有効の車検証を発行してくれる
「限定自動車検査証」の有効期間は発行日を入れて最大15日間。ただし、車検証の有効期間を超えて運行することはできない)。「限定自動車検査証」の有効期間内に再申請を行わない場合は改めて全ての審査を行う。この場合の検査手数料は、普通車が1800円、小型車が1700円
車検は有効期限の1ヵ月前から継続検査を受けることができるが、もし検査を受けるのが期限ギリギリになって、軽微な不具合で不合格になったとしても救済措置もある。まず検査当日中であれば2回までは無料で再検査を受けることが可能だ。
そして、なかなか親切だなと思ったのは、再車検では特定部分だけの検査を受け直せばいいというだけでなく、検査日から15日間の猶予で有効期限を延長してくれる限定車検証を発行してもらえること。
本来、期限切れとなったら仮ナンバーを取得して整備や再車検を受けに行かなければならないことを考えると、これは手間が減って助かる制度だ。
高根さんが実際にユーザー車検を受けて、陸運支局から発行された限定車検証
独立行政法人自動車技術機構のホームページ
ユーザー車検のデメリットとは?
ユーザー車検はクルマのオーナーに認められた権利の一つであるが、すべて自己責任のもとに行われる
ではユーザー車検のデメリットは何だろうか。車検に合格/不合格するも、その後のクルマに起こる不具合やトラブルなども、すべて自己責任である、ということだ。
最近のクルマはなかなか壊れなくなったとは言っても、古くなれば摩耗消耗し、寿命を迎える部品が出てくる。
ブレーキパッドが摩耗限界であることを知らせるウエアインジケーターには、金属片がローターと接触することで音で知らせる機械式と呼ばれるタイプがあるが、走行中にこの音を響かせているクルマも見かける。
補機類を駆動するファンベルトやベルトの張力を調整するテンショナーの働きが弱まって、加速時に高いノイズを響かせているクルマも見かける。
これらはユーザー車検やユーザー代行車検で車検を取得し、点検整備を怠って乗りっ放しになっている場合に起こりやすい不具合だ。
ユーザー車検はクルマのオーナーに認められた権利の一つでもある。ハイブリッド車やEVでも検査内容はほとんど変わらないし、申請書類の作成や検査を受けることは難しくない。機会があれば初心者にもお勧めしたいものだ。
そのまま放っておけば、さらにダメージは広がって、高額な修理費用が必要になったりするケースもある。
【画像ギャラリー】ユーザー車検とディーラー車検、車検代行業者による車検代の違いとは?
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