2023年1月10日、新型プリウスのハイブリッドモデル(HEV)が発売された。新型モデルの登場で、プリウスの販売店での役割と立場に変化があったのか、著者がディーラーへ取材を行った。実情はいかに?
文/佐々木亘、写真/TOYOTA
アクアからの乗り換えはもう古い!! 新型プリウスの実態を暴露
■価格アップも積極的に選びたいクルマに
法人向け、KINTO専用グレードを除けば最も安いGグレード。19インチのアルミホイールやLEDヘッドランプを標準装備
2023年1月10日、新型プリウス(HEV)が発売された。新型プリウスの価格や仕様、そして装備品やオプションなどが公式に出そろい、プリウスに対する反応がさまざまな箇所で聞こえてくる。生まれ変わったプリウスは、ユーザーにどのように受け止められるのか。
ラインナップ内での共食いや比較競争なども気になるところ。プリウスの役割や立場は変わっていくのか、販売最前線を取材した。
新型プリウスの価格レンジは320万円~392万円だ。先代となる50系が登場した際には、最廉価のEが約243万円、最上級のAプレミアムツーリングセレクションのE-fourが約340万円だった。先代が登場した2015年当時は、消費税率が8%だったが、それでも50系の最上級グレードが、新型のエントリーグレードの価格に近いというのには驚く。
それだけプリウスというクルマの格が上がったということを、販売価格から読み解くことができるだろう。
最廉価のXグレードに関しては、別冊の小冊子が設けられ、法人ユースを強くアピールする。おのずと、個人ユーザーがXを選ぶ機会は少なくなり、選択グレードはU、もしくはG・Zの3種類に絞られてしまう。
U・G・Zのうち、最も安いUの2WDは299万円だ。ただし、UグレードはKINTOを使用する場合のみに選択できるグレードとなる。そのため、従来通りトヨタディーラーに足を運んで購入するユーザーの実質的な選択肢は、GかZの2種類だ。
Gが320万円、Zが370万円となり(E-fourはそれぞれ22万円高)、もろもろオプションなどを付属していくと、見積書の合計金額は400万円に届くか、あるいは軽く超えていくこととなる。
これまでアクア、C-HR、カローラに近い、どちらかというとトヨタの入り口的な役割を担っていたプリウスが、新型ではRAV4やカムリ、ハリアークラスに近い価格となったことで、ラインナップ内での立ち位置も大きく変わるはずだ。
これまでは「クルマを選ぶなら」プリウスだったが、今後は「せっかくトヨタに乗るなら」プリウスという特別感も醸し出している。
■プリウスとアクアは不滅!? HVが当然になっても生き残るワケって
2021年7月に登場した現行型アクア。後席の居住性や乗り心地の快適性、内外装の質感を高め上級路線へ移行
もはや、トヨタラインナップの中で、ハイブリッド(HEV)というのは当たり前の存在になった。それでも、ハイブリッド専用車として、アクアとプリウスは残り続ける。
プリウスをもっと手軽に乗ってほしいと、コンパクトなアクアが登場し、大ヒットを記録したが、そのアクアも現行型へのフルモデルチェンジを機に、上級路線へ舵を切った。初代ほどの販売台数は見込めなくなったものの、アクアの価値は高まり、これまでよりもハイクラスな車両からの乗り換えも増えている。
フルモデルチェンジ後のアクアの注文は、最上級のZグレードが多い。オプションの選択も多く、販売店としては台当たりの注文単価が上がったことで、利益にもつながりやすい。ファーストカーとして使える要素を充分に持ち合わせ、アクアの売り方は大きく変わった。
現在、アクアとプリウスの関係性は、かつての親子に近しい関係から、それぞれが独立したものに変化している。アクアからプリウスへの代替需要というものは、昨今ではあまり加味しなくても良くなったというのが正直なところだ。
新型プリウスの装備やグレード設定、価格帯などを見ても、これまでのトヨタラインナップと重なる部分は少ない。ハイブリッド専用車として生まれたからこそ、その存在を愛する人に充分な価値を与えるクルマに仕上がった。
かつてあった車種ヒエラルキーのようなものは、既に存在価値を失くしているのだろう。段々と大きなクルマに乗り換えるという文化が廃れた今だからこそ、それぞれの車種にそれぞれの個性を持たせるクルマ作りをトヨタは体現している。こうしたクルマ作りの代表格が、新型プリウスなのだ。
■キャラ被りはない! ではラインナップ内での共食いは?
スタイリッシュなプロポーションに生まれ変わり注目を集める新型プリウス。受注が殺到し、すでに年内の納期はギリギリ!?
本原稿執筆(2023年1月3週目)時点で、新型プリウスの納期はギリギリ年内に入るかどうかといった話を、複数ディーラーから聞くことができた。話を伺ったディーラーでは、既に300台~400台近い注文が入っており、新型プリウスの出足は好調だという。
販社によっては、既に配車枠を大きく上回る注文を受けているところも多く、待ちの期間としては1年から1年半程度をみていたほうがいいだろう。
期待のプリウスという側面もあって、初動は好調ではあるが、納期の問題や価格の高さから、プリウスから離れていくユーザーも一定数いるようだ。このあふれた需要をカバーするのが、カローラツーリングやアクアになっている。
カローラツーリングのW×Bや、アクアGR SPORTを、プリウスから流れてくるユーザーが注文することが多いという話も、販売店から聞くことができた。車格や走りのイメージから考えると、新型プリウスに近いニーズを受け止めるのには、最適な受け皿だと思う。
筆者もプリウスZとアクアGR SPORTで、本気の見積もりを取ってみたが、アクアGR SPORTの方が100万円も安く仕上がる。支払総額も先代までのプリウスに近く、乗り換えを考えるのなら、新型プリウスよりもアクアの方がスムーズに事が運びそうだ。
筆者と同じような感想を持つユーザーも多いということで、プリウスの登場後、アクアやカローラツーリングの注文が伸びているらしい。
どうやらディーラーの販売最前線では、プリウス一強やプリウスによる共食いといった、販売面で他車種へ与える悪影響は少ないようだ。それよりも、プリウスという名前がユーザーを集め、ショールームにも活気が戻ってきたように感じるという声も聞こえてきた。
常に他車の一歩先を行っていたプリウス。新型になり、トヨタをけん引するという役割から、トヨタを支える存在に変わったように思う。新型プリウスは、販売面での大きなシナジーを生み出している。
やはりプリウスは、モデルが変わりコンセプトが変わろうとも、孝行息子だ。今後も、プリウスが生み出す好循環に期待が高まる。
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