いつかはジムニー! 実現できるか!?
AMW編集部員がリレー形式で1台のクルマを試乗する「AMWリレーインプレ」の最後を務めるのは、編集長西山。評価基準はスーパーカー&ラグジュアリーカーのオーナー目線ですが、今回のスズキ「ジムニー」は、いつも以上に熱心に長距離で試したりした模様です。
スズキ「ジムニー」は人生を豊かにする相棒! 本気で趣味を楽しむ人におすすめの1台でした
本当はハスラーでなくジムニーが欲しかった
今回のリレーインプレは、いつもと少しスタンスが違うことを最初に断っておこう。スーパーカーやラグジュアリーカーのセカンドカーとしてだけでなく、あくまでも私的に購入対象車としてジムニーを分析してみたいと思う。
10年ほど前、先代ジムニーの末期モデルを家人用として購入する気満々だったことがある。私のたまの山行に使うにはちょうどよかったということと、マルチパーパスではなく目的に特化していることに強く共感していたからだ。しかし、家人用としてだから、ふだんは私が運転することはない。つまり、私の意見など通ろうはずもない。
家人の要望は、「小さいクルマ」「4ドア」できれば「リアドアはスライドドア」というもの。自宅から半径10km内での使用がほとんどだから、軽自動車でいいということになる。いまならBEV(日産サクラ)も候補に上がったかもしれない。
4ドアという条件であえなく却下された先代ジムニーの代わりに提案したのは、「エブリイワゴン」。しかし、こちらは商用車っぽいということで即却下。本人的にはダイハツ「タント」を強く希望していたようだった……。そんな紆余曲折を経てたどり着いたのが、初代「ハスラー」だったのである。とにかく、スズキのディーラーに通うことが大切で、わたくし的にはいずれジムニーへというのが、青写真だったのだ。
それがいつの間にかジムニーだけでなくハスラーもモデルチェンジしてしまい、ジムニーに至っては1年以上の納車待ちらしい……というわけで、ジムニーが遠い存在となってしまって久しい。とはいえ、ジムニー購入を諦めたわけではなく、いつでもチャンスあればハスラーから乗り換えようと狙っていたのである。目下の悩みはMTにするかATにするか……であった。
その悩ましい選択に答えが出せるかもしれないチャンスが巡ってきた。社用車として、MTのジムニーが導入されたのである。これはもう、たっぷり乗ってジャッジするしかない。
まず向かったのは、信州のキャンプ場(もちろん取材)。リアシートを倒してソロテント2張を含むキャンプ用品(主にBBQ用品)と撮影機材を積むと、ほぼ満載状態。分かってはいたことだけれども、こうなると5枚ドアのジムニーシエラが日本でも販売されるのを待ってみたい気もする。いきなり、選択肢が増えてしまう結果となった。
さて、まずは高速道路でのインプレッションから。事前に非力だからATよりMTでないとストレスが溜まるということを聞いていた。ATだと高速道路では満足できない、と。
性能に合わせて走れば、エブリイだって楽しい
話はそれるが、フェラーリ遣いと言われた太田哲也さんがエブリイを所有しているということで、話が盛り上がったことがある。もとプロレーシングドライバーの太田さんが、非力な軽自動車、しかもレースサポートカーとして工具満載のエブリイの走りに満足できるのだろか? それができるのである。
「軽自動車の性能に合わせて走れば、楽しめるよね。80キロで走ってればそれはそれなりに面白いよ」
とのこと。グループCカーのようなモンスター、オープンホイール、箱のGTカー……と、いろんなレーシングカーの特性に合わせてサーキットを走っていた太田さんにとっては、エブリイもまた同じなのである。
話をジムニー戻して──「ジムニー、高速はかったるいよー」と、ご忠告してくれた方々が、何と比べているのかは定かではないけれど、高速巡航に焦点を当てて開発されたクルマではないことは間違いない。しかもたったの64psである。ジムニーの性能に見合った走りを心がければ、高速で遅いと苛立つこともないだろう。果たして、100km/h以下で走るジムニーはどうだったか。2250mmというホイールベースから想像できるように、直進安定性はイタリアの小粋なスモールカー、フィアット500ツインエア(ホイールベース:2300mm)をドライブしていると考えたらいい。
そこでツインエアで思い出したけれど、スーパーカーオーナーならずとも、イタリア車趣味の人にとってのジムニーのコンペティターは、フィアット「パンダ クロス 4×4」であると常々思っていた。イタリアで「エスクード」や「シグナス」などのスズキ車を見かけたことがあるが、これがなんともイタリアの歴史ある街の風景に溶け込んでいたのである。スズキとイタリアの組み合わせ、実は悪くないと思っていたのだ。
ただし、ツインエア独特のエンジンの脈動は、トコトコしていて遅いなりにも心地よかったりする(とはいえ、85psもある!)。ジムニーにはそうしたエンジンの味がないので、V8やV10、V12といったエンジンでも名機のフィーリングに慣れ親しんだ人には物足りないだろう。
ヒルクライムでは楽しめるのか?
小諸ICを降りてチェリーパークラインに入ると印象は異なってくる。浅間ヒルクライムのステージになったヒルクライムのコースである。
ジムニーは、2WDと4WDを切り替えることができるパートタイム4WDである。通常はフロントエンジン/リアドライブのFR車として使うことができる。よほどの悪路か冬季の雪道の場合には4H(4WD高速)が活躍するのであろうが、通常は2H(2WD)というわけである。
さて、小排気量車でのヒルクライムは、ストレス発散にちょうどよい。アクセルペダルを踏み切って、エンジンをレッドゾーンまで回しながらコーナーを攻める快感は、スーパーカーでは味わえない。しかも、非力ゆえに実際はそれほどスピードが出てもいなかったりする。この点、パンダ クロスも楽しい。しかし、やはり後輪駆動の方がステアフィールが心地よいのはいうまでもない。エンジンフィールでのビハインドを、ヒルクライムで挽回! と言いたいところだけれども、実はひとつ致命的な欠陥──あくまでもワインディングを楽しんで走るという、ジムニーに求めるのは筋違いの部分であるが──を見つけてしまった。 それは左足のフットレストのスペースがほぼないに等しいということである。Gがかかった時に、踏ん張ることができないのである。
その点パンダ クロスは、ボディをロールさせながらのコーナーでもしっかりと左足で身体を支えることができる。そういえば、スペインのワインディングロードで、猛烈な勢いで追いついてきて抜き去っていったルノー「エスパス」を思い出した。私がドライブしていたのはアストンマーティン「ヴィラージュ」。ロケ地を探しながら走っていたとはいえ、それなりの速度である。エスパスのドライバーにしてみたら毎日走り慣れている道を、いつものペースで走っていただけであろう。こうした時、むやみに速度を上げたりはせず、追いついた後続車に抜かせるがままにしている。追いついたクルマは先行車をパスするのが常識なのである。抜かれたからといって腹を立てて煽ってくるドライバーもいない。むしろ、追いつかれたのにモタモタ走っていると、どこでパスしてやろうかとピッタリ背後に張り付かれてしまう。日本なら煽り運転認定間違いなしの車間で、である。
ヨーロッパ──それもイタリアやスペインを走っていて感じるのは、ドライバーたちは自分の速度で走ることを大切にしている──というより固執しているのではないかということだ。だから、パンダ クロスはダートや悪路を走らせるより、舗装されたワインディングを思い切り走らせるほうに重点を置いてセッティングされているように思う。逆にジムニーは、ワインディングよりもダートを走った方が楽しいに違いない。履く靴も踵にアールがついた細身のドライビングシューズではなく、ゴツいトレッキングシューズや作業ブーツのような幅広で厚手のソールだとちょうどよいペダル配置である。スポーツカーのようにワインディングを楽しむものでは、そもそもないのである。
というわけで、あり余るパワーのほんの少ししか使うことができずにフラストレーションの溜まっているスーパーカーオーナーには、パンダ クロスをオススメする。ツインエアのフィーリングもきっと楽しんでもらえるはずだ。
購入前提での妄想は楽しい
しかし、今回の試乗はわが家のご近所買い物用兼たまの山行に使うクルマ選びとう側面も持っている。具体的にはハスラーからの乗り換えということ。ということは、維持費がかからない軽自動車一択。パンダ クロスと比べるのではなく、MTかATかをジャッジするための試乗であることをすっかり忘れていた。
帰路の関越自動車道の渋滞にハマって考えたのは、下山してから帰宅には、やっぱりATがいいよなぁ、ということ。いくらクラッチペダルが軽いとはいえ、登山で疲れた脚では、渋滞が辛いのはこれまでに経験済み。そもそも家人の免許はAT限定だし。って、最適解は最初から出ていたんじゃないか、というツッコミはなしで。クルマ好きなら購入する前の妄想期間がどれくらい至福のひとときか、改めて説明するまでもないでしょう。
そしていま、妄想しているのは、太田さんとの会話でも登場したエブリイワゴン。ジムニーと同じ64馬力、パートタイム4WD、しかも通常の2WDは後輪駆動。家人が求めるリアドアがスライドでもある。エブリイワゴンだと単独登山の際、車中泊にも使えそう。あとはCVTのフィーリングがどうであるか、ちょっと試してみたい気もする。目下の悩みは標準ルーフにするかハイルーフにするかである。
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