日欧メーカーの新車が買えなくなる
ウクライナ侵攻をおこなったロシアへの経済制裁として日本や欧州の自動車メーカー各社は2月末から3月上旬にかけて、ロシア国内の販売事業やロシアへの車両や部品の輸出を停止する措置をとった。
【画像】日本で最も有名なロシア車?【ラーダ・ニーヴァってどんなクルマ?】 全53枚
これらの経済制裁は3か月経過した現在も続いており、日本メーカーの新車販売に関しては「在庫が無くなり次第終了」という状況である。
まずは、ロシアでどのような日本車がどれくらいの台数を生産しているのかお伝えしておきたい。
ロシアで新車を生産しているのは、日産、トヨタ、三菱、マツダの4社である。(【】内はロシアにおけるメーカーの名称で車名は主な生産モデル。販売台数は2021年のデータ。出典:FOURIN世界自動車調査月報)
【Avtoframos】ルノー/日産
日産テラノ(他のルノー車と合計で14万4571台)
※テラノの名称ではあるが、実際にはルーマニアの自動車メーカー「ダチア」(ルノーグループ)のクロスオーバー「ダスター」に日産バッジをつけて「テラノ」として販売しているモデルである。
【PCMA Rus】プジョー/シトロエン/オペル/三菱
三菱アウトランダー、パジェロ・スポーツなど合計2万1429台
【トヨタ】
カムリ、RAV4など合計8万813台
【日産】
エクストレイル、ムラーノ、キャシュカイなど合計5万2073台
【Sollers Auto】フォード/マツダ
マツダCX-5、CX-9、CX-30など合計2万8782台
これらは現地生産のモデルで、このほかに日本から輸入される乗用車+トラックが約11万台(2021年)
さらに日本からの中古車も年間約16万台(同)が輸入されている。
ロシアは日本からの中古車仕向け国として世界1位の台数である。
なお、中古車に関しては3月に数週間、輸出停止となったが、3月末には復活しており、600万円以下の中古車であれば日本からロシアへの輸出は許可されるようになった。
現在、日本とロシア間の自動車関連する事業は日本からの中古車輸出だけがおこなわれている状況である。
なぜ、「旧車仕様」を生産開始?
完成車メーカーによる制裁でロシア国内での海外メーカー車の新車生産や販売、新車輸入はほぼ不可能となっているが、さらに日本や欧州の自動車部品メーカーからの部品供給も事実上ほぼ停止している。それゆえ、ロシアメーカーの新車生産も非常に厳しくなっている。
そこでロシアメーカーが考え出したのが、エアバッグ、ABS 、排ガス浄化装置などを「のぞいた」ロシア車をロシア国内でつくることである。
「旧車」といっても、旧型のクルマを復刻生産するのではなく、カタチは基本、最新の姿ではあるが中身(各種の装備)を1980年代~1990年代の「旧車仕様」にする、という意味である。
とくに注目すべきは「環境基準」
ロシア政府がこのたび許可することになった環境基準(排ガスや燃費などの基準)はなんと1988年レベルの「ユーロ・ゼロ」とされる、「ユーロ〇」とはEUにおける段階的な自動車排出ガス規制のこと。
欧州では1970年から乗用車と小型トラック、1988年から総重量3.5t以上の重量トラックに対する規制が実施されてきた。
1992年からは「ユーロ1」から始まる基準となり、2009年からは「ユーロ5」、2014年からは「ユーロ6」が導入されている。
現在、ロシア国内の基準および輸出車の最低基準は「ユーロ5」である。
この状況下で1988年レベルの「ユーロ0」に戻すということは、当然「ユーロ3」で義務付けられたOBD(車載故障診断装置)などの装備も不要ということになる。
1988年といえばまだ旧ソ連(USSR)の時代。
同年11月にエストニア・ソビエト社会主義共和国が主権宣言をおこなったのを皮切りに、共和国が続々と独立していった頃だ。
なおウクライナの「主権宣言」は1990年におこなわれ、実際にウクライナ・ソビエト社会主義共和国から独立して「ウクライナ」になったのは1991年8月24日である。
旧ソ連時代の環境基準まで引き下げるとは、相当な決意? ではあるが、実際、大手自動車メーカーも「旧車仕様」で自動車の生産をおこなうことを公表し始めている。
露最大のトラックメーカーに取材
環境基準が「ユーロ0」のクルマは輸出することができない。あくまでもロシア国内向けの新車となる。
ロシアの天然資源省は排出基準が環境に悪影響を及ぼすことを危惧しているそうだが、新車をつくりたくても現在の基準(ユーロ5以上)を満たすクルマは物理的に生産が不可能なので、背に腹は代えられない状況だろう。
また、「西側諸国からの部品入手ができなくても昔の方法で新車をつくることができる!」という、経済制裁への対抗という見方もある。
実際に旧車仕様の新車をつくることを公表しているロシアの自動車メーカーは複数ある。
例えば、ロシア最大のトラックメーカー「KamAZ(カマズ)」ではかなり早い3月上旬の時点で「輸入部品の供給が止まっているため、K3(同社の主力である重量級トラック)向けの部品は国内メーカーから供給することにして、一部機能を省略して生産する」と発表している。
ちなみにそれまでのK3のエンジンは米国カミンズ社、ギアボックスはドイツZF社から供給を受けていた。
当初は旧型トラックを復刻生産させる、というウワサもあったので、筆者は直接、カマズの広報担当者にメールを送ってみた。
すると意外と早く返事が届いた。
「残念ながら、(旧型トラックを復刻生産するという)あなたの情報は真実ではありません。K3、K4、K5世代の最新型トラックは引き続き生産しており、旧型トラックの再販は考えておりません」
「ただし、部品不足のため、K3世代のトラックの一部を『ユーロ3』規格で生産する予定です。世界の自動車メーカーが部品不足の問題を抱えています。当社の活動に関する追加情報は、いつでも当社のウェブサイトでご覧いただけます」
K3トラックの一部を「ユーロ3」規格で生産する発表は本当だった。
旧ソ連の象徴「モスクヴィッチ」が復活
カマズの動きはかなり早いと思われるが、5月下旬には驚きのニュースが届いた。
なんと、歴史あるロシア車「モスクヴィッチ」ブランドを復活させるという内容だ。
しかも、ルノーが所有していた主要な工場を宣言どおり国有化し、旧ルノー工場のスタッフおよび、下請け企業の雇用も守るという。
モスクヴィッチとは「モスクワっ子」の意味でモスクワ市が独オペルの生産設備を接収して1947年に設立、2002年に破産した旧ソ連を象徴する歴史的な自動車ブランドである。
この動きを1970年代からのロシアの自動車事情に詳しい大手商社のロシア駐在員だったK氏は、どう見ているのだろうか?
なお、K氏は1980年代、Faia(外国自動車輸入協同組合)によるラーダ・ニーヴァの日本輸入に尽力された方でもある。話を聞いてみた。
「古い話ですが小生が最初にモスクワ駐在したのが1970年で、1979年からソ連車ラーダ・ニーヴァの輸入の検討を開始し、数百台を輸入したのちソ連側の事情で1989年に撤退しました」
「1970年代のソ連車のラインナップは最高級車のジル(共産党・政府の幹部用)、次がチャイカ、そしてタクシーでも使われていた中型のヴォルガ、小型のモスクヴィッチ、ザポロージエ(リアエンジン)、そしてフィアットの協力で建設した工場からラーダ・ブランドの各種小型車が登場しました」
「最初の駐在時は事務所用の中型車ヴォルガを自分で運転していましたが、プラスチック製のパワステ無しのステアリングが重たくて手こずりました」
「燃料計はフロート式で正確ではなく、車高も高く、バンパーは頑丈で、バックの際に街灯の支柱にガーンとぶつけたときもまったくへこまなかったような、まるで戦車のようでした」
「2回目の駐在の時はラーダのジグリと云う小型セダンを運転しました。こちらはより西欧風でしたが、品質的にはパネルの合わせ目の隙間などに難がありました。当時のクルマは排ガス対策などなかったと記憶しています」
「ユーロ0での生産を一時的に許可するというロシア政府の判断ですね。もし、ロシアが排ガス規制に合致するか否かに関係なくクルマを生産してロシア国内でのみ使えることを許可すれば、それはロシアの勝手です」
「電子制御に必要な外国製部品(例えばボッシュ製)が輸入出来ない現状ではやむを得ないのでしょう。5月上旬時点ですでに規制に合致しないクルマを5000台前後生産したと聞いています」
カタチは最新のままで、中身は旧ソ連時代……なんとも不思議なクルマが誕生しつつあるようで、それはそれで、興味深いクルマではある。
しかし、望むべくはロシアとウクライナに平和が訪れ、かつてのように海外の自動車メーカーがロシア国内で生産を再開することである。
そのような日が1日も早く訪れることを願うばかりである。
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