ゴーストとファントムとの走り味の違い
text:Matt Prior(マット・プライヤー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
ロールス・ロイス・ファントムとゴーストのオーナーの違い。それは、自らの豊かさをどれだけ主張したいか、の違いといってもいい。あるいは、どのようにロールス・ロイスを走らせたいか、の違いでもある。
この2台には、走り味の違いがある。当然のこととして。
どちらにも、ロールス・ロイスとして固有のリラックスした素地がある。一部のライバルのように、一切の足かせや妥協なしに、運転が心地良い。
例えばベントレーの場合、ラグジュアリーでありつつ、スポーツカーであることも求められる。最高速度は320km/h、とまではいわなくても。
もちろん、その達成を目指した結果は素晴らしい。電圧48Vで高速に作動する、アクティブ・アンチロールバーは、クルマをできるだけ水平に保ってくれる。それでいて、乗り心地は上質なまま。
一方のロールス・ロイスは、スポーツカーである必要はない。長周期での揺れや、多少のボディロールも許されるから、乗り心地の面では有利に働く。
一般道でのゴーストの乗り心地は、車内の静寂によく合う。ゆったりとした周期で、宙に浮いたような感覚がある。さらにファントムより動きが小さく、引き締められた印象を受ける。充分にラグジュアリーであり、快適だ。
車線変更を試みると、後輪操舵が機能し、穏やかに隣の車線へボディが滑る。大きなファントムやカリナンの場合、落ち着いた中にも若干の緩さが伝わってしまう。
オーナーが運転することにも腐心されている
高速域で鋭い起伏などを通過すると、リアタイヤが横方向へ不意に小さく振動することに気付いた。フロントのサスペンションからのノイズも、わずかに耳に届く。ただし、相当運転に集中していた状況に限る。
車内空間の静寂さで、余計に目立ってしまうのかもしれない。ステレオのボリュームを上げれば済む。
ステアリングホイールの操舵感は、適度に軽く、レシオの設定も穏やか。精度は極めて高いものの、手のひらに伝わる感触はほとんどない。不思議なことに、多くのスポーツカーの重たいステアリングより、印象的で好感触なものに感じられた。
セルフセンタリングは、多くのビッグサルーンほど強くはない。積極的にステアリングホイールを握り変えてもいいけれど、静かな車内では大きな操作音になってしまう。穏やかに切り替えす方が、ゴーストには合っている。
それ以外の操作系の重み付けも、素晴らしい。ゴーストは、運転してもらうだけでなく、運転することにも腐心されている。狙った通りの制動距離で停止し、再び滑らかに発進する。
相当な加速力を味わうこともできる。かなり楽しい。最高速度は249km/hに制限されている。車重は2490kgもあり、前面投影面積も大きいが、すぐにスピード・リミッターには当たりそうだ。
強いエネルギーを求めれば、エンジンは沈黙を破る。高級感のある響きを、控えめに車内へ届ける。8速ATは、ドライバーが段数を選べないが、反応は良い。
見事なまでにロールス・ロイス
ロールス・ロイスのゴーストらしい穏やかなペースで走らせれば、エンジンの放つサウンドをドライバーが聞くことは、ほぼない。ATが変速したことすら、気付かないはず。
このパワートレインは、電動化されていない、オールドスクールな大排気量エンジンの最後の1つ。6.4km/Lと燃費は悪いものの、とてもスイートだ。一方で、静かで力強い、純EVに似たドライビング体験を得ていることは皮肉でもある。
筆者の予想では、純EV版のロールス・ロイスも、2030年までには登場するだろう。電気自動車の走り味は、大きなラグジュアリー・サルーンにぴったり合うものだと思う。
しかし2020年の今選べるのは、大きなV型12気筒エンジンのみ。エンジンブロックにロールス・ロイスの刻印があるかどうかは関係ない。最新のゴーストは、見事なまでにロールス・ロイスだ。
ロールス・ロイス・ゴースト(英国仕様)のスペック
価格:24万9600ポンド(3394万円)
全長:5546mm
全幅:1950mm
全高:1550mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-100km/h加速:4.8秒
燃費:6.4-6.6km/L
CO2排出量:347-358g/km
乾燥重量:2940kg
パワートレイン:V型12気筒6749ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:571ps/5000rpm
最大トルク:86.5kg-m/1600rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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