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ラリー フィンランドを制したトヨタのWRカー「ヤリスWRC」に試乗!【同乗体験記】

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ラリー フィンランドを制したトヨタのWRカー「ヤリスWRC」に試乗!【同乗体験記】

2019 Rd.9 RALLY FINLAND

WRC 2019年 第9戦 ラリー フィンランド

ラリー フィンランドを制したトヨタのWRカー「ヤリスWRC」に試乗!【同乗体験記】

3連覇を達成したトヨタWRカーのナビシートを体験

WRC(世界ラリー選手権)第9戦のラリー・フィンランドは、TOYOTA GAZOO Racing WRT (World Rally Team) にとって非常に重要なイベントとなった。地元ユバスキュラに本拠を置くトミ・マキネン・レーシングとのジョイントによりWRCに復帰した2017年にここで初優勝を遂げて以来、実は同イベントは2連勝中。今年は3連覇への期待がかかっていたのだ。

SS2~SS11が行われたDAY2では地元フィンランド出身のヤリ-マティ・ラトバラが首位に立つ。DAY3ではタイヤを岩にヒットさせたことによるパンクで後退するも、代わって現在ドライバーズランキング首位のオイット・タナックが首位に立つと、翌日のDAY4までトップを譲らず見事優勝。3連覇を達成した。また、今年これまで表彰台の無かったラトバラも3位に入り、マニュファクチャラーズ選手権争いのリードを大きく広げるのに貢献した。

世界で活躍するWRカー“トヨタ ヤリスWRC”

TOYOTA GAZOO Racing WRTが、このWRCに投入しているマシンがワールドラリーカー(以下“WRカー”)規定に則って開発されたトヨタ ヤリスWRCである。WRカーの車両規則は、まずベース車として年間2万5千台以上が生産されるBセグメントカーを使うことが定められている。ちなみにライバルとなるのはヒュンダイi20クーペ、シトロエンC3、フォード フィエスタといった車両である。

エンジンは、やはり規定により定められた1.6リッターターボ。最高出力は380ps以上とされる。駆動方式は当然4WDで、センターデフのみ電子制御、前後デフは機械式となる。

開発は、車体はトミ・マキネン・レーシングが、そして1.6リッターターボエンジンについてはTMG(トヨタ・モータースポーツ GmbH)が、それぞれ担当している。

ラトバラ選手のナビシート同乗試乗で見えたもの

実はラリー・フィンランド終了後の月曜日、ユバスキュラ近郊のテストコースにて、このトヨタ ヤリスWRCのナビシートを体験することができた。ドライバーは前日に3位に入ったラトバラ選手。特設のコースはすべてグラベルでクルマ1.5台分程度の幅しか無かったが、コースに出た途端いきなり全開走行が始まった。

現役最強のセバスチャン・オジェ、あるいはオィット・タナックのような安定したグリップ走行の選手が活躍する最近のWRCでは珍しい、リヤを振り回すタイプのアグレッシブな走りで魅せるラトバラ選手だが、実際に脇に乗ってみると決して走りが荒いわけではないと解る。極限の中でのわずかな、しかし確かな違い。そんな風に解釈すべきだろう。

もちろん、ここで全開にできるかどうかは別問題だが、マシンの印象としてパワーそのものは驚くほどではないという印象だ。それでも、現在R5マシンでWRC2に参戦中で8月のラリー・ドイッチュランドで最高峰クラスへのデビューを果たす勝田貴元選手によれば、限られたパワーをいかに使うかが大事なR5マシンと違って、ドライバーがやる気なら、どこまでもついてくるのがWRカーだという。

巨大なショックアブソーバーに驚かされる

感心させられた、あるいは圧倒されたのはサスペンションだ。マシンが大きくジャンプした後の着地の際も、大きな衝撃などとは無縁。しなやかにショックを受け止めすぐさま姿勢を安定させるのは、直径は10cm近くでケース長は70cmくらいはありそうな巨大なショックアブソーバーである。聞けば1本数百万円はするというから驚くが、WRカーの走りの大きな要素を担っていることは間違いない。

いやぁ、すごかった・・・と言うだけでは、もちろん記事にはならないというものだろう。何より注目は、TOYOTA GAZOO Racingはこうしてラリーで培ったノウハウを注ぎ込んだクルマを世に出そうとしているということである。

企画書に記された『ラリー王国トヨタを目指す!』

トヨタ自動車GAZOO Racing Companyの友山茂樹プレジデントは「WRCで鍛えた人、そして鍛えたノウハウを用いて、誰でも持てるようなスポーツカーをグローバルに世に出していきたいと思うんですよね」と言う。

また更に「ラリー王国トヨタと呼ばれるためには単にWRCで勝つだけではダメなんです。WRC2やもっと下のカテゴリー、もっと言うなら全日本ラリーやラリーチャレンジがあるわけです。最終的にはそこにも通用するクルマを開発して提供していきたいと思うんです」と言うから、つまり市販スポーツカー、そしてラリー下位カテゴリー用のモータースポーツベース車両の販売を検討していることは間違いない。

「あまり言っちゃいけないんですが、その企画書の最初の1ページが『ラリー王国トヨタを目指す!』で(笑)。普通、そういう車両企画会議では、このクルマはこういうセグメントで、このぐらい市場があって、どんな競合相手が居て、どういうそれに対して少しずついいクルマを出せば、企画台数年間5万台とか10万台とか売れるので・・・とやるわけです。ところがこのクルマは、企画台数はホモロゲーションが取れる年間2万5千台。そのあとはよくわからないけれど、とにかく1ページ目は『ラリー王国トヨタを目指す』だったという(笑)。」

待ち遠しいWRカーのエッセンスを詰めた市販車

WRカーには年間2万5千台以上を生産するBセグメントカーをベースとするという車両規則があるだけに、TOYOTA GAZOO Racing WRTの次期ウェポンもヤリス、それも次期型をベースとするのは間違いない。

現行のヤリスWRCは販売面では少数派の3ドアボディだが、これはリヤフェンダー周辺の改造範囲がこちらの方が大きいからで、ヒュンダイがi20クーペをベース車に使っているのも、それが理由。シトロエンC3がやや苦戦気味なのは、3ドアを市販車ラインナップに持たず、5ドア車両を用いているのも一因と言われる。そう考えると目下開発中だという件の車両は、専用の3ドアボディを用いて生み出される可能性が高そうだ。

それにしても、TOYOTA GAZOO Racingは現在、WECマシンのベースとなるGRスーパースポーツの開発も進んでいるところである。その一方で、WRCマシンと密接に関係した市販車もこうして準備が進んでいるのだ。今どき世界を見渡しても、こんなメーカーは他にはない。

スポーツカーに、あるいはコンペティションモデルに興味のある人なら、TOYOTA GAZOO Racingの今後の動向、注目しておくべきだろう。個人的にはそのWRCホモロゲーション用車両が、ジャンプからの着地で一体どんな感触を味わわせてくれるのか、早く試してみたい。

REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)

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