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【アイドリングストップでもエアコンが止まらない】先進式エアコンが全車搭載にならない理由

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【アイドリングストップでもエアコンが止まらない】先進式エアコンが全車搭載にならない理由

 殺人的な灼熱の夏場でも、エアコンがガンガンに効いた車内では快適に過ごすことができる。しかし、最近のクルマはアイドルストップ機能付きのクルマが当たり前になり、信号待ちや渋滞などで頻繁にエンジンが停止。

 アイドリング停止機能については賛否両論あるなか、どちらかと言えば嫌い派のほうが多いが、このエアコン問題もその要因のひとつである。

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 電動コンプレッサー付きエアコンでないクルマだとエアコンが単なる冷たくない送風となり数秒もすると地獄のような暑さで辟易、という経験をお持ちの方も多いはず。

 アイドル停止機能をカットすれば問題ないが、せっかく付いている機能をカットするのももったいない。

 便利なものは何でもすぐに拡大採用する日本車なのに、なぜ電動コンプレッサー式エアコンは全車に装着されるようにならないのか? 

 この誰もが抱いているであろう疑問に対し鈴木直也氏が解説する。

文:鈴木直也/写真:HONDA、SUZUKI、トヨタ自動織機、平野学、ベストカー編集部

夏場の最強アイテム

 梅雨が明けたと思ったら連日の猛暑。エアコンさえ効いていればクルマの中は快適だけど、信号待ちなどでアイドル停止機能が働くと、だんだん送られてくる風がヌルくなってくる。

 まぁ、あんまり暑い時はアイドル停止もエアコン優先でキャンセルになるのだが、最近は停止中にエンジンがかかっていると、なんとなく肩身が狭いような風潮。「もうちょっと気の利いた仕掛けはないの?」と思うユーザーも少なくないだろう。

今やアイドル停止機能は装着されているのが当たり前になっているが、電動コンプレッサー式エアコンはすべてのクルマに装着されているわけではない

 実は、「もうちょっと気の利いた仕掛け」はあるんですよ、だいぶ前から。

 ハイブリッド車にお乗りの方は、先刻ご承知のことと思うが、20プリウス以降のトヨタハイブリッドが先陣を切って導入した電動コンプレッサー式エアコンがその答え。

 エアコンの冷媒を圧縮するコンプレッサーは、それまでずーっとエンジンからVベルトで駆動されていた。それゆえ、エンジンが停止すれば冷房能力ゼロ。

 昔はアイドル停止なんか考えていなかったから仕方がないが、頻繁にエンジンを止めるハイブリッド車では大問題。プリウス開発初期から、エアコンは大きな技術課題となっていた。

トヨタのハイブリッドカーは世界に先駆けて電動コンプレッサー式エアコンを採用。渋滞などでエンジンが停止していてもエアコンから冷気が出るのと出ないのでは快適性は雲泥の差

想像以上に電気を使うのが欠点

 トヨタは量販を目指した20プリウスからそれを電動化。家庭用エアコンと同じように、モーターがコンプレッサーを回す方式に改めたのだ。

おかげで、20プリウス以降、ほとんどのハイブリッド車は、信号待ちなどでエンジンが停止していてもバッテリー駆動のコンプレッサーが車内を快適な温度にキープしてくれるようになったのだった。

2003年にデビューした2代目プリウス(NHW20)で電動コンプレッサー式エアコンを搭載。アイドル停止だけでなくモーターのみでの走行もあるプリウスでは必須だった

 これは、電力に余裕のあるハイブリッド車にとっては、ほぼイイことづくめといっていい。モーター駆動なら必要な時に必要なだけコンプレッサーを駆動することができるから、トータルなエネルギー効率がアップ。パワステが電動化されたのと、まったく同じ理屈だ。

 コンプレッサーを駆動する電力についても、減速時の回生発電でバッテリーに貯めておいたものを使えば、理屈の上では元手要らず。ブレーキから熱として捨てられていたエネルギーでエアコンが動くと思うと、ものすごく得した気分になってくる。

 ただし、電動コンプレッサーも完全無欠とはいえず、欠点もある。

 根本的な問題は、電力に余裕がないと電動コンプレッサーを採用できないこと。エアコンは家電の中でも消費電力の多いアイテムで、夏場に複数の部屋をガンガン冷やしたりすると、時としてブレーカーが落ちたりもする。クルマのエアコンも1kW以上のエネルギーをコンスタントに消費するわけで、それを電力だけで補うにはハイブリッド車のように大容量の電池と発電システムが必要となる。

 ハイブリッドやEVではなくアイドル停止機能だけついているクルマではこれだけのエネルギーを賄いきれないから採用したくても採用できない。

軽自動車でもアイドル停止機能は必須となっているが、電動コンプレッサーは電力を使うため通常のバッテリーでは厳しい。アイドル停止機能をカットが最も簡単な対策

すでに量産効果でコストダウンを実現

 さらに、初期に問題となったのは、電動コンプレッサーのコスト高だ。

 通常のコンプレッサーは圧縮機本体とベルト/クラッチで構成されるが、電動化するとベルト/クラッチは不要になるかわり、出力1~3kWクラスのモーターと制御用インバーターがコストに加わる。

 トヨタだけは、デンソー、アイシン、豊田自動織機などのグループ総力を挙げて、ハイブリッド初期からコスト低減にメドをつけていたが、他メーカーはこういう補機類のコストだけでハイブリッド車開発をブン投げたくなるほどの難題だったといわれている。

スズキスイフトはマイルドハイブリッド、ハイブリッドとも電動コンプレッサーを使用していない。その代わり冷気を蓄えておくエコクールを開発し快適性を確保

 この点で興味深いのは、ホンダが2代目シビック・ハイブリッド(FD3型)で、ベルト駆動のスクロールと電動駆動のスクロールを両方備えた、ハイブリッドスクロールコンプレッサーを採用していること。

 素人目には素直にフル電動化した方がコスト低減できそうにみえるのだが、おそらく電動コンプレッサーの負担を下げることで、モーター/インバーター系をふくむ電動部分のコストを抑制するのが狙い。初期には、電動系のコストはわれわれが想像する以上に高かったというわけだ。

2代目プリウスに搭載された豊田自動織機が開発した電動コンプレッサーのES18。軽量化、静粛性を大きく進化させた第3世代の商品を登場させている

 しかし、ハイブリッド車ブーム到来のおかげで、2016年には豊田自動織機が電動コンプレッサーの累計1000万台突破を達成するなど、電動コンプレッサーの普及はわれわれの想像を超えたスピードで進んだ。

 トヨタが先駆者としてエアコンコンプレッサーの電動化を推進してくれたおかげで、他メーカーもエアコンの電動化がしやすくなったとは言える。

 特にこれから台数が増えてゆくEVにとっては、手頃な価格で高効率な電動コンプレッサーを調達できるというのはありがたいこと。

 2000年代初頭からのハイブリッドブームがなかったら、電池の低コスト化だけではなく、補機類の調達でもEVはずっと苦労することになったと思う。

 アイドル停止していても室内が冷えひえの快適なクルマは、すべて電動コンプレッサーが黒子として大活躍しているというわけですね。

ホンダのIMAはベルト駆動のコンプレッサーを使っていたが、2005年にデビューした2代目シビックハイブリッドで、ベルト駆動と電動の両方を備えたハイブリッドスクロールエアコンを登場させた。アプローチがホンダらしい力作だったが、フル電動との性能差は明らかだった

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