時代とともに人々の車に対する嗜好は絶えず変化してきた。それは新たなコンセプト・技術・優れた性能などで時代を切り開いた自動車たちの歴史でもある。
いま絶対的な存在として我々の記憶に残る画期的なモデルたちも、かつては旧来の“絶対王者”へ果敢に挑み、新しいスタンダードを築き、下剋上を成し遂げた車たちばかりなのだ。
決断は正しかったのか間違いだったのか?【自動車業界の大鉈(おおなた)事件史】
文:片岡英明
写真:編集部、NISSAN、DAIHATSU
ベストカー 2018年10月10日号
人気と性能で王者を脅かした2台の日産車
■日産 シーマ(初代)/1988年登場
プレミアムセダンの代名詞だったクラウンから高級車ナンバーワンの座を奪い、地団駄を踏ませたのが日産のシーマだ。
1987年10月に開催された東京モーターショーに参考出品され、センセーションを巻き起こした。クラウンは同年9月にモデルチェンジして8代目になっていたが、わずか1カ月でシーマより格下に見られてしまった。
シーマは1988年1月に発表されるや爆発的に売れ、「シーマ現象」と呼ばれる社会現象を巻き起こした。当時トヨタの社長だった豊田英二氏に「ウチにはシーマみたいな高級車はないの?」と言わせた下剋上グルマだ。
■日産 スカイライン(R32型)/1989年登場
1980年代前半まで、日本のスポーツセダンはヨーロッパ勢、特に“ジャーマン3”(ベンツ、BMW、アウディ)に水をあけられていた。メルセデスベンツは1982年に190Eを送り出し、BMWも1983年に主力の3シリーズを第2世代のE30に進化させている。
日本勢は排ガス対策に全力をあげていたから、ハンドリングにおいて後れを取ってしまった。特に滑らかな直列6気筒エンジンを積むBMWの320iには走りにおいて格の違いを見せつけられている。
が、1989年に登場した8代目のR32型スカイラインは、エンジンもハンドリングも上を行き、BMWの技術陣を仰天させた。
世界も注目した国産スポーツ
■ランサーエボリューション&インプレッサ/1992年登場
スカイラインGT-Rは小型車枠、2Lの排気量にこだわってきた。だが、1989年に登場したB
NR32型GT-RはグループAレースで勝つために2.6Lの直列6気筒ツインターボを搭載する。これに続くBCNR33型とBNR34型GT-Rもメカニズムは同じだ。
が、ランサーの走りを大きく進化させたエボリューションシリーズとインプレッサを進化させたWRXのSTIは2Lの排気量にこだわり、そのなかで最高性能を狙っていた。
GT-Rは国内では名を知られたが、世界に名声を轟かせたのはランエボとインプのWRXだ。WRCで快進撃を続けた。
■スズキ スイフトスポーツ(2代目)/2004年登場
2004年秋、スズキはスイフトをモデルチェンジした。それまでは軽自動車ベースだったが、このスイフトから小型車専用の開発を行い、世界戦略車に成長させている。
そして、1年後に第2世代のスイフトスポーツを送り込んだ。エンジンは1.6LのM16A型4気筒DOHCで、気持ちよく回る。サスペンションも欧州感覚の軽快な味わいだった。
2速から5速をクロスさせた5速MT車は、欧州のホットハッチに負けないほど元気だ。ステアリングを握って楽しいし、コスパも高かった。だからフランス車やイタ車から乗り換える人が相次いだ。
新市場開拓で定番車を脅かした国産車
■ダイハツ タント(初代)/2003年登場
1993年9月、スズキはワゴンRを発表した。発売されるや大ヒット作となり、軽自動車の流れを変えている。
これ以降、販売の主役は利便性が高く、快適なハイトワゴンに移り、同じコンセプトの軽自動車が続々と登場してきた。が、10年ほどは、ワゴンRの牙城を切り崩せなかったのである。
この独占状態に待ったをかけたのが2003年秋に登場したダイハツのタントだ。ワゴンRやムーヴより背を高くして、上級クラス顔負けの広々としたキャビンを実現した。タントはスーパーハイトワゴンの市場を切り開き、スズキの首脳陣を慌てさせた。
■トヨタ アルファード/ヴェルファイア(2代目)/2008年登場
2002年、トヨタは最上級ミニバンのアルファードを市場に放った。上質なV6エンジンやハイブリッド車を投入したから、アッという間にエルグランドを首位の座から引きずり下ろし、販売トップに立っている。
2008年5月にモデルチェンジを行い、この時に兄弟車のヴェルファイアも設定した。キャビンが広いことに加え、フロントマスクもきらびやかで押しが強い。だからプレミアムセダンに乗っている人の取り込みにも成功した。
大打撃を受けたのはレクサスLSだ。後席はそれほど広くはないから、アルファード/ヴェルファイアに上客を奪われている。
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