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これぞ“アメリカンSUV”! ジープ・グランドチェロキーSRT8&トラックホーク試乗記

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これぞ“アメリカンSUV”! ジープ・グランドチェロキーSRT8&トラックホーク試乗記

登場から丸10年を迎えたジープのフラグシップ「グランドチェロキー」に塩見智が試乗した。V8 OHVエンジンを搭載する「SRT8」&「トラックホーク」の印象はいかに?

6.4リッター、今や貴重な自然吸気

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2009年春、クライスラーがチャプター11を申請して経営破綻し、フィアットの資本を受け入れた。両社はのちに合併し、現在のFCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)となった。再建が始まったばかりの2010年に発売されたのが、現行型グランドチェロキーだ。開拓、鉄道敷設、工業化、戦勝後の凱旋など、アメリカの歴史を振り返る映像をバックに「The things we make, make us」というキャッチコピーが映し出される発売当初のCMは、リーマンショックから立ち上がろうとするアメリカ人を鼓舞し、支持された。

あれから10年、ロングセラーとなったジープ・グランドチェロキーの試乗会が開催され、東京~山梨・小淵沢間を往復した。

往路で走らせたのはグランドチェロキーSRT8。「SRT」はストリート&レーシング・テクノロジーのイニシャルで、「8」は8気筒を意味する。当初はノーマルモデルにもV8搭載モデルの設定があったが、現在日本仕様でV8を搭載するのはSRT8と後述するトラックホークのスペシャルモデルのみ。それ以外はV6エンジンを搭載する。SRT8が積むのは、1950年代に確立されたソリューションである半球型の燃焼室を採用した高性能OHVとして知られるHEMIエンジンだ。

排気量は6.4リッター。今や貴重な自然吸気だ。大排気量の自然吸気エンジンの良さは、回転数の上昇とドライバーの期待と実際のパワー増大がレッドゾーン手前までシンクロしてくれる点だ。忠実に言うことを聞いてくれる駿馬に勝る存在はない。より新しいOHCやDOHCのほうがOHVよりも優れていると言われがちであるが、実際にグラチェロSRT8が放つ最高出力468ps、最大トルク624Nmのパワーを体験すると、「これのどこがダメなの? 」という気持ちになる。気筒休止システムが付いていて、低負荷時には4気筒状態になって燃費を稼ぐ。切り替えはスムーズなので、ドライバーはメーターに表示が出て初めて変化を知る。

確かにステアリング・ホイールやシートを通じて伝わる回転フィーリングはラフだ。けれどもドライバーがそれをビートだと感じれば印象はまったく別のものとなる。少しでも振動がないほうがいい、少しでも静かなほうがいいということであればテスラをどうぞ。どちらもアメリカ製というのが面白い。

ハイパワーを受け止めるのに必要なだけのボディ剛性は確保されているはずだが、体感的にはガッチガチで安心感の塊というわけではない。ドア開閉時のフィーリングやステアリングポストをはじめとする各種操作系の剛性感は、まぁOKというレベル。乗り心地は基本的にソフト。路面からの入力の角を丸めて乗員に伝えてくれる。

インテリアのレザーや加飾パネルの質感やデザインは決して悪くはないが、うっとりするほど手触りがよいわけでも美しいわけでもない。好きな人には十分であり、嫌いな人には安っぽく感じるインテリアだ。デビュー以来10年間の間に何度もアップデートが図られ、インフォテインメントやADAS(先進安全装備)は、最新レベルのものが備わる。カーナビについてもオーディオについても、それにACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)についても我慢させられる要素はない。細かい年次改良でどんどん進化するのはアメリカ車の良き伝統だ。

710ps! 凄まじいトラックホーク

復路はトラックホーク。グランドチェロキー史上最強の、いやジープブランド史上最強の、最高出力710ps、最大トルクが868Nmを発揮する6.2リッターHEMIヘッドV8スーパーチャージャーの通称“ヘルキャット”エンジンを搭載したモデルだ。

欧州プレミアムブランドはパワフルなエンジンを搭載したSUVを北米にどんどん投入し、マッチョ(でリッチ)なアメリカ人を満足させ(て儲け)ることに余念がない。しかしアメリカン・ブランドはいつの時代もそうした欧州勢の攻勢を受けて立ってきた。バイアメリカン!

米国産車を信じる層がいて、彼らの期待に応えるためだ。アメリカの地で、メルセデスAMG、BMW M、アウディRS、レンジローバーSVRあたりのハイパワーSUVあたりに好き勝手させるわけにいかない! という砦としてのグラチェロ・トラックホークであり、フォード「F150ラプター」なのだ。

欧州からはSUVだけでなくスポーツカーもどんどん入ってくる。それらに対するカウンターとして存在する2ドアクーペの「チャレンジャー」や4ドアセダンの「チャージャー」にも搭載されるこのエンジン。装着される過給器は、一般的にターボチャージャーよりもラグが少ないとされるスーパーチャージャーであるが、6リッター超という大排気量ということもあってか、アクセル操作と加速の間にほんの一瞬の間がある。

けれどそれがあってよかった。覚悟の時間として。発進時であろうと巡航中であろうと、雷(いかずち)のようなV8サウンドを立てて怒涛の加速を見せる。車両重量が2470kgもあったって、少なくとも体感的には関係ない。295/45ZRの20インチもの極太タイヤが4輪とも駆動するため、この日のようにセミウェットでも、背中を蹴飛ばされるような凄まじいトラクション能力を発揮する。

ブレンボ製ブレーキの絶対的な制動力を試すことができるシチュエーションはなかったが、少なくともドライバーがあり余るパワーを2度、3度と試そうという気になるのに十分な利き方をしてくれた。

SRT8もトラックホークも、ゆっくり走らせれば、V6を搭載したノーマルモデル同様の鷹揚さを感じさせ、さまざまな用途に対して寛容なSUVとして使うことができる。このことこそがグラチェロのスペシャルモデルたちの本当の価値かもしれない。付けくわえるとしたら、トラックホークは数値上、欧州のどのライバルよりもスペックが高いにもかかわらず、価格は1356万円ともっとも安い部類であるということか。

変わらぬ良さ

面白いことに、新しいモデルほど売れる傾向にある日本において、2011年デビューの現行グランドチェロキーの、この10年間の販売台数は右肩上がりだ。2018年、2019年にはメルセデス・ベンツ「GLEクラス」、BMW「X5」、ボルボ「XC90」、ポルシェ「カイエン」などを抑え、ラージクラスSUVとして最も販売台数の多い輸入車となった。

思うにグラチェロが支持される理由は、日欧の人気モデルが支持されるそれとは根本的に違うのだろう。特筆すべき新機能や斬新なコンセプトが期待されているわけではなく、コカ・コーラ、ハーレー・ダビッドソン、リーバイスのように変わらぬ世界が求められているのかもしれない。

だったらますますOHVをやめるわけにいかないし、電気モーターを付け加えて燃費を稼ぐのもできるだけ遅らせるに決まっているのだ。

文・塩見智 写真・安井宏充(Weekend.)

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