Porsche 911 Carrera S / 911 Carrera 4S
ポルシェ911カレラS/911カレラ4S
ラグジュアリーSUVクーペ、アウディ Q8が示す「新しい価値」【Playback GENROQ 2019】
磐石の進化と変わらぬ世界観
911が生まれ変わった。例によってスタイルこそどこから見ても911だがその中身は大幅な進化を果たしている。常に最新こそ最良、と言われ続けて55年。ターボ第2世代となるタイプ992は、どのような楽しさを我々に見せてくれるのか。タイプ993オーナーのGENROQ編集長が海外試乗で最新911と対峙する。
「ドアノブに手をかけた時点でちょっと違和感を覚えた」
新型911を初めてドライブするのは、実にいいものだ。当たり前だがひとつのモデルに対してその思いを味わえるのは、最初の一回のみ。まだ知らぬ新型911への期待に心を躍らせながらドアノブに手をかけ、乗り込み、ポジションを合わせてからエンジンをスタートさせる。大人になってからというもの、これほどワクワクできる経験なんて、そうそうあるものではない。
だがタイプ992は、ドアノブに手をかけた時点でちょっと違和感を覚えることになった。これまでのグリップタイプから引き込み式へと変わっているのだ。使いやすいかどうかと聞かれれば、正直言ってグリップタイプの方が使いやすいが、空気抵抗を考えれば引き込み式の方が良いのは明らかだ。これも進化の一端として、納得するしかないだろう。
「誰が見ても911でありつつ、すベてが新しくなっている」
いきなりネガなことから入ってしまったが、タイプ992のデザインは素晴らしい。ボリューム感は増したが、誰が見ても911でありつつ、すベてが新しくなっている。左右が繋がったテールライトも、写真で見るより実物の方が断然かっこいい。そしてさらに素晴らしいのがインテリアだ。5連の丸型メーターは空冷時代をイメージさせる雰囲気で、昔からのファンは思わず笑顔になってしまいそう。もちろん丸型メーターといっても中央のタコメーター以外は液晶画面だ。992ではタコメーターも液晶化されるか、と思っていたが、幸いそれは見送られたようだ。
センターの大型ディスプレイやその下の5つのトグルスイッチ、小型化されたPDKシフトレバーなど、インテリアには新しい要素がたくさん盛り込まれており、そしてそのどれも質感が非常に高い。ただメーターの両端がステアリングに隠れてしまうのはちょっと残念ではあるが。
「新型911は以前にも増して走りに硬質感が感じられる」
メカニズム的なトピックはたくさんあるが、主役となるエンジンは大きく刷新された。ボア×ストロークはそのままに、2つの吸気バルブのリフト量に差をつけてスワールを発生させ燃焼効率を改善、ピエゾインジェクターの採用、新型ターボチャージャーの採用、インタークーラーの移動による効率改善など、様々な改良が加えられている。その結果、カレラSは450ps/6500rpm、530Nm/2300~5000rpmを達成している。これは先代よりも30ps、30Nmアップしているのだ。
ステアリング左のノブを捻ってエンジンを始動すると、3.0リッターの水平対向6気筒エンジンは咆哮とともに目覚めた。それでも今どきのスポーツカーとしては大人しめかもしれないが、低周波のボクサーサウンドはなかなかに心地いい。Dレンジにシフトして少し走っただけで、ボディのしっかりとした感じが全身に伝わってきた。フロアやステアリング周りの剛性が非常に高く、動きの精度が高い感触だ。そしてエンジンのサウンドは伝わってくるものの、振動は明らかに減っている。これはエンジンマウントを移動し、振動減衰力を高めた効果だろう。このため新型911は以前にも増して走りに硬質感が感じられる。
「速さも素晴らしいが、感心するのはステアリングのリニアリティの高さだ」
街中を走るペースでは乗り心地も良く、非常に快適だ。ファミリーユースとして使われることも多いクルマだから、このあたりは抜かりない。エンジンはどの回転からでも分厚いトルクを生み出し、ストレスのない走りを披露してくれる。
ワインディングに入り、ペースを上げていく。速さもさることながら、感心するのはステアリングのリニアリティの高さだ。特に中立付近における動きは素晴らしく、わずかな操舵に対しても素早く、素直にクルマが反応する。試乗車にはリヤアクスルステアリングが装着されていたせいもあるだろう、面白いようにクルマが向きを変え、ボディの大きさをまったく感じさせない。
ペースを上げていっても、タイプ992は狙った通りのラインをトレースしていささかの乱れも起こさない。ターボラグなどまったくなく、エンジンのフィールはNA時代に戻ったかのよう。どこからでも望む通りのトルクが引き出せて、レスポンスも申し分ない。ちなみにカレラSとカレラ4Sではその走りに大きな違いを見出すことはできないが、カレラ4Sの方がステアリングを切り込んでアクセルを開けた瞬間の挙動がわずかに安定しているようだ。
「PDKはこちらの意図を見透かしたかのようなギヤチェンジを行ってくれる」
8速となったPDKの制御も素晴らしい。アクセル開度をパーシャルにして山道を走っている状況では、SPORTモードだと1800~2800rpmくらい、SPORT+モードだと2800~3800rpmくらいを保ってくれるが、峠で気持ち良く走るにはこれくらいが最も美味しい回転域だ。複数のデータから判断した先読み制御も行うらしいが、確かにこちらの意図を見透かしたかのようなギヤチェンジを行ってくれるので、積極的にマニュアルモードにしようという気にはあまりならなかった。
試乗のステージを峠からサーキットに移してみると、今度はタイプ992のポテンシャルの高さに驚くことになった。コーナーでの姿勢は驚くほど安定しており、まるで4輪が路面に張り付きながら走っているかのようで、安心してアクセルを開けていくことができる。シャシーのダイナミクス性能も非常に高く、高速コーナーからタイトコーナーまで、ステアリングの動きに対する反応は狙い通りで、いささかの遅れも過敏さも感じない。
これはまずフロントのトレッドがタイプ991に対して46mm拡がっていること、ステアリングギヤ比がやはりタイプ991に対して6%(リヤステアありの場合。無しは10%)ダイレクトになっていることが大きな効果を生んでいるのだろう。200km/hオーバーでの直進安定性にもまったく不安を感じなかったことも、付け加えておきたい。
「911が見せてくれる世界は、今後のスーパースポーツのあるべき姿だ」
ところで今回は注目のウエットモードも試すことができた。ホイールハウス内のマイクロフォンが路面の水を検知して切り替えを促してくれて、ステアリング上のロータリースイッチを左に回すことでいつでもセットできる。水を撒いたショートコースで走ってみた結果は「何も起きない」だ。多少ラフにアクセルを踏み込んでも、まるで挙動は乱れない。ありえないくらいに踏んでみるとわずかにテールが滑るが、それも一瞬のこと。試乗したのはRWDのカレラSだったのだが、これが4Sだったらさらに何事も起きないだろう。GTマシンとしての資質を重視する911に、これは強い味方となるテクノロジーだ。
新型911に初めて乗る瞬間がなぜ楽しいのか。それは911が見せてくれる世界は、今後のスーパースポーツのあるべき姿だからだ。まずはカレラS/4Sでスタートしたタイプ992だが、今後バリエーションをどんどん増殖させていくはず。果たしてタイプ992はこれからどんなスーパースポーツの世界を見せてくれるのか。
いずれにしても、新しい911の示す世界が間違っていたことは今までなかった。それは今後も変わらないだろう。たとえそこに“電気”が加わったとしても。
REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/Porsshe AG.
【SPECIFICATIONS】
ポルシェ911カレラS
ボディサイズ:全長4519 全幅1852 全高1300mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1515kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc
最高出力:331kW(450ps)/6500rpm
最大トルク:530Nm(76.5kgm)/2300-5000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後305/30ZR21
最高速度:308km/h
0-100km/h加速:3.7秒
車両本体価格:1666万円
ポルシェ911カレラ4S
ボディサイズ:全長4519 全幅1852 全高1300mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1565kg
エンジンタイプ:水平対向6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2981cc
最高出力:331kW(450ps)/6500rpm
最大トルク:530Nm(76.5kgm)/2300-5000rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後305/30ZR21
最高速度:306km/h
0-100km/h加速:3.6秒
車両本体価格:1772万円
※GENROQ 2019年 4月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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