2021年1月25日、日本電産の永守重信氏が、自社の決算会見の席上で「EVの価格は最終的に30万円になる」と発言しました。永守氏は以前、「クルマの価格は1/5になる」とも発言して話題になっています。
ズブの素人による発言なら「そんなバカな」と一蹴して終わりですが、発言主は世界一の総合モーターメーカートップ。自動車メーカーへ数多くの部品を供給しており、経営陣にはメーカー出身者も加わっています。
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だとしたら、あながち夢物語でも…ない…? それともなにか思惑が…?? この「クルマの価格は(現在の)1/5になる」、「EVは30万円になる」という話、本当に可能性はあるのか? それともまったく無理なのか? 自動車ジャーナリストの国沢光宏氏に伺いました。
文/国沢光宏 写真/日産、日本電産、Adobe Stock@Andrey Popov
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■「EVはどんな企業でも作れる」…?
日本電産の永守CEOは「将来的にクルマの価格は5分の1になる」と主張する。150万円のN-BOXが30万円まで値下がりする、ということか…?
世界一の総合モーターメーカーとして知られる『日本電産』の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は、講演会などで「将来的にクルマの価格は5分の1になる」と主張している。
N-BOXのような150万円の軽自動車で30万円に、RAV4と同じ車格となる300万円のSUVだと60万円ということ。
真っ当な金銭感覚を持ってる人なら瞬時に「無い!」とわかる。
10年くらい前のこと。東京大学の村沢義久特任教授が「スモール・ハンドレッド」(簡単な構造の電気自動車=EVはどんな企業でも作れる、という内容)というアピールしたこともベースになっているのだろう。
興味深いことに「スモール・ハンドレッド論」を鵜呑みにしている人って多いようだ。はたしてクルマの価格は5分の1になるのだろうか。
少し真面目に検証してみたい。
写真右が日本電産の永守重信CEO。写真左は2020年6月に日本電産の代表取締役社長執行役員に就任した関潤氏。元日産自動車執行役副最高執行責任者(写真は日本電産公式サイトより引用)
■将来的に莫大なコストがかかるエンジンが不用に
まずガソリンエンジンに代表される内燃機関からEVに切り替わった際、不要となるアイテムを挙げておく。
筆頭がエンジンでしょう。クルマの構成部品におけるエンジンのポジションたるや、極めて大きい。自動車メーカーの開発部門における人員規模は最も多い。正確に言えば生産設備への投資が莫大である。
量販車の場合、年間50万基くらいの生産規模を10年以上続けないとペイしないと言われているほど。EVになれば構造的に簡素なモーターへ置き換えられるため、コストダウン効果は絶大かと。
日本電産の中期戦略「Vision2020」より。液晶テレビやデジカメで起こった価格破壊が、自動車でも起こると予想しているようだ。たしかに液晶テレビはここ15年で劇的に安価になった。はたしてクルマはどうなるか…
エンジンのほか、これまた巨額の投資を必要とするトランスミッションが不要になり、同じ役割を電気的に行うインバーターに姿を変える。
トランスミッションを独自開発したスバルのCVTやマツダの6速ATを見てもわかるとおり、年産70万台規模の自動車メーカーが10年くらい作り続けないと利益上がらない。
いっぽうインバーターは、たとえばプリウスで言えばすでに4世代目。どんどんコストダウンされていく。エンジン+トランスミッションのコストとモーター+インバーターのコスト、圧倒的に違う。
■そんなに簡単な話じゃない
内燃機関から電気モーターにシフトすると、エンジンやトランスミッションが不要になる。代わりに、コストがずっと低いモーターとインバーターが主役の座に座る
車体側を見ると、パワーユニットが内燃機関からモーターになってもコストダウンできる要素は少ない。
しいて言えば安全性でエンジンルーム内に大きくて硬いエンジンを搭載しなくてよいため、いろんなアイデアも出てくるかもしれません。ただ大きなコストダウンになるかとなれば難しいと思う。衝突安全性には、物理的な対策が必要。
電子装備類も直近30年で大きく進化したけれど、コストダウンと反対方向へ向かってます。2021年夏から自動ブレーキを標準装備していないと認可されなくなっている。
自動ブレーキシステムを構築しようとすれば、センサーだけで済まない。ブレーキペダルを踏まなくてもブレーキの油圧を掛けるシステムが必要。10%のコストダウンすら無理。
サスペンションやブレーキに代表されるシャシーは、これまた安全に大きく関係してくるため、コストダウンする余地がほとんどないと思う。
もちろん最高速60km/hといった極端に速度の低いモビリティならば、ゴルフカートのような安価な構造を取れるだろうが、100km/h+αの速度域までカバーしようとしたら安くならない。
ブレーキすら高速域や長い下り坂では回生しきれないため、電気系がトラブルを起こした時のため現在と同じような容量の油圧ブレーキを必要とするだろう。
EVに搭載される回生ブレーキは、高速走行や長い下り坂を弱点とする。安全性を確保するため、従来の油圧式ブレーキはそのまま残り続けるだろう
エアコンやAVのコストだって変わらない。
詳細に分析すると、安くなるのはエンジン+変速機分くらいになる。しかもEVを走らせるためには大容量のバッテリーが必要。
私はエンジン+変速機=モーター+インバーター+バッテリーだと考えてます。つまりバッテリーの価格が大幅に下がったとしても今のエンジン搭載車と同じくらいの価格になる、ということ。
それでもエネルギーコストが圧倒的に低いEVが圧倒的有利。繰り返すけれど60km/hくらいまでしか出ないクルマなら安く作れる可能性あります。
■言うだけならタダ
じゃあ永守CEOはなぜ「5分の1になる」と言ったのか? こらもう簡単。10万円の商品を見て「2万円にまからんか?」という人っています。「なる」とは思っていないが、言うだけならタダだ。自分のプライドさえ考えなければ「10%じゃなくデタラメな値引き要求」をすると注目されます。上手なアピールだと思う。
唯一ありえるのは中国のGM五菱汽車の「宏光MINI」のような小型EV。最高速105km/h。実用航続距離120km。エアコン付きで60万円だ。
徹底してコストダウンすれば、軽自動車なら半額で売れる可能性を持つ。
ちなみに日本電産はGM五菱汽車に売り込みをして宏光MINIのモーターを受注したという! このクルマを日本で売る?
2020年7月に中国で発売された宏光MINI EV。価格は約45万~60万円。航続距離は120km
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みんなのコメント
そんな事、ありますか?
価格が下がることも、税金が下がることも、あり得ないですよ。