1955年に初代が登場した登場したトヨタ クラウン。高級車の代名詞として親しまれ、『いつかはクラウン』のキャッチコピーでも知られている。
2018年のモデルチェンジで15代目となったクラウンだが、登場直後こそ好調だった売れ行きが、ここ最近は失速の気配を見せている。
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名車クラウン失速の理由と今後を片岡英明氏が解説する。
文/片岡英明 写真/TOYOTA
【画像ギャラリー】いつかはクラウン……高級車の代名詞だった歴代クラウンを見る!!
■若返りを図るべくクラウンはガラッと生まれ変わった
ガラッとデザインを変えて少し若返りを狙った現行クラウン。すでにデビューから3年が経とうとしている
2018年6月、15代目のクラウンが登場した。
TNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャー)と呼ぶ後輪駆動用の新世代プラットフォームを採用し、ホイールベースを延ばすとともにボディサイズをひと回り大きくしている。だが、クラウンを何台も乗り継いでいるファンが持て余さないように、全幅は先代と同じ1800mmを守り通した。
エクステリアは挑戦的なデザインだ。アウディのようにサイドを6ライトウインドーとし、Cピラーもクーペ風に寝かせている。インテリアも上手にまとめ、見栄えだけでなく触感も向上させた。
ハイブリッドのみならず2L直4ターボも設定しスポーティな味付けを残した
パワートレインは、3タイプを用意している。頂点に立つのは、レクサスLCと同じ3.5LのV型6気筒DOHCにモーター、そしてエンジンの出力軸に4段の変速機を追加して擬似変速を行うマルチステージハイブリッドだ。
この他に2.5Lの直列4気筒エンジンにモーターを組み合わせ、熱効率40%以上を達成した新開発のハイブリッドも設定した。また、2Lの直列4気筒DOHC直噴ターボもあり、これには電子制御8速ATを組み合わせている。
最新のプラットフォームに加え、サスペンションはダブルウイッシュボーンにマルチリンクの凝ったレイアウトだ。しかもドイツにあるニュルブルクリンク・サーキットのオールドコースを徹底して走り込み、走りの実力を磨いた。
だから走りの実力は非凡だ。それでいてキャビンの広さや快適性は先代のクラウンを大きくしのいでいるから、売れて当然だった。
■当初は月間7000台オーバーの大セールスを記録した
リアシートの手すりなどクラウンの伝統は残しつつの変化だった
デビューした6月は4216台の販売にとどまったが、生産が軌道に乗った7月には7000台を超え、販売ランキングの10位に食い込んでいる。
その後も安定して売れ、7月から12月までの半年で平均6330台を販売した。好調にスタートを切ったように見えたが、徐々に失速し、19年5月にはランキング30位に下がり、販売台数は2461台まで落ち込んだ。
発売から2年目には月平均で2500台レベルになり、トップ30に顔を出さない月も多くなる。20年度(20年4月~21年3月)は新型コロナウイルスが蔓延したこともあり、12カ月の合計は2万1858台にとどまった。月平均の販売台数は2000台に達していない。
クラウンはコンスタントに売れ続けてきたドル箱車種でもあるのだが近年は苦戦を強いられていた(写真は14代目クラウン)
21年になると、セールス氏の努力などが功を奏し、ちょっと盛り返した。だが、歴代クラウンのような勢いはない。販売が低空飛行だからか、次期クラウンはSUVになるのではないか、という噂までも囁かれるようになっている。
■盟友マークXの消滅と新デザインでクラウンは売れなくなった!?
マークXとの相乗効果もありお買い得感が際立っていたクラウン
販売が低迷している理由は、いくつか考えられる。
ひとつは販売価格だ。これまでクラウンとマークXはコストパフォーマンスが飛び抜けて高く、多くの人が買い得と感じた。が、今のクラウンは、廉価グレードでも500万円近くからのスタートとなり、ライバルが多くなっている。
日本車は身内のレクサスやミライなど、それほど多くない。だが、上級グレードは700万円を超えているから、メルセデス・ベンツやBMW、アウディ、ボルボなどのヨーロッパ勢と競合する。
輸入車はクラウンより個性豊かだ。最近は走りの装備だけでなく、快適装備や安全装備も充実している。また、ディーゼルターボやプラグインハイブリッド、上質なV型8気筒エンジンを設定するなど、クラウンにはない魅力を持つクルマも多い。
注目度と存在感は高いから、買い替えのときに輸入車に流れてしまうことも少なくないようだ。
クラウンのスタイリングはコンサバティブなセダンではなくなった。まるでハッチバックかのようなデザインに違和感を覚える人も多い
もうひとつは若返りを図ったデザインにあるように思う。
サイドビューは伸びやかでスポーティだ。が、クラウンらしさが薄く、先代までのような高級車らしい風格や押しの強さが感じられないのである。歴代のクラウンは、意識してコンサバの味わいも盛り込みながら半歩だけ新しいチャレンジを入れた。
先代はイナズマグリルでオーナーを驚かせたし、12代目のゼロクラウンは果敢にスラントノーズと異形ヘッドライトに挑んだ。それでもバランス感覚は絶妙で、上手に新しさを表現している。だからファンは乗り換えた。
が、現行クラウンは、デザインバランスが悪い。サイドビューは4ライトウインドーのドシッとした落ち着きを感じさせるほうがクラウン好きは喜ぶだろう。また、フロントマスクとリアビューも風格と威厳を感じない。
若々しいし、スポーティな印象を与えるが、前後の印象がチグハグだ。リアビュー、とくに細身のリアコンビネーションランプは格下のイメージで、クラウンを乗り継いでいる人や年配のオーナーは違和感を覚えた。ここは定石通り、慣れ親しんだ角型デザインのほうが親しみやかったはずである。
■ポルシェはSUVが売れ筋だからクラウンにも勝機あり
走りの質感は非常に高いクラウン。すばらしい要素をどう生かすかトヨタのかじ取りも気になるところ
走りの実力は高いレベルにあると思う。エンジンはいずれも軽快に回り、ハイブリッド車は燃費も良好だ。また、ハンドリングは洗練度を高め、懐の深い走りを見せつける。
確かにセダン需要は減っているが、車格に見合った大人のデザインなら、これほどの落ち込みは見せなかったはずだ。5代目のレガシィと同じ失敗をクラウンは演じてしまった。
富裕層の生活の形態やユーザーの嗜好が変わってきている。
だから4月の上海ショーに参考出品したクロスオーバーSUVのクラウンクルーガーやVIPカーの味わいを加味したミニバンのクラウンヴェルファイアを加えるのもアリだと思う。新しいファン層を獲得できるだろう。
かつては911を主流にボクスター、ケイマンなどスポーツ系車種だけで生きてきたポルシェ。いまや売れ筋はSUVなのだ
ポルシェだって、現在の売れ筋はカイエンであり、パナメーラなのだ。だが、クラウンの場合、派生モデルはもう一本の柱とみられるだろう。
セダンに未練を残すファンも多いから、屋台骨のセダンのテコ入れを急いだ方がいい。メカニズムもデザインも魅力的なセダンが登場すれば、クラウンはこれからも生き延びられるはずである。
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みんなのコメント
ただ、伝統あるロイヤルの廃止や6ライトのデザインなどで変に冒険せず、もう少し保守的でもよかったように感じる。