ルノー アルカナ エスプリ アルピーヌE-TECHフルハイブリッドに試乗
仏ルノーの「アルカナ/キャプチャー/ルーテシア」には、日本市場に正規導入されている輸入車では唯一のフルハイブリッド車である「E-TECHハイブリッド」が設定されています。いずれも輸入車としては最高の低燃費を誇ることもあって、国内マーケットでもなかなかの人気を得ているそうです。そして、その三兄弟の中でもフラッグシップというべきアルカナは、2024年春に後期型にあたるフェイズ2へと移行。10月9日から日本国内でも正式に発売されました。さっそくその進化を検証します。
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本国デビューから4年目のビッグマイナーチェンジ
ルノー「アルカナ」は2020年秋の本国デビュー以来、じつに29万台以上を販売したという、このクラスのクーペSUVとしてはなかなかのヒット作。日本では「E-TECHフルハイブリッド」版の輸入が昨今の国際情勢もあって一時的に途絶えるというトラブルに見舞われつつも、2022年5月から2024年8月までに2000台以上を売り上げたとのことである。
そしてこのほど日本国内デビューを果たした改良新型「フェイズ2」では、ルノーの最新CI(コーポレート・アイデンティティ)に基づく新デザインのエンブレムがフロントグリル中央に鎮座する。また、アッパーグリルのメッシュ部分には、エンブレムのモチーフを反映した菱形のメッシュパターンが施され、テールゲートにも新エンブレムを中央に捧げ持つリアガーニッシュがあしらわれる。
フルハイブリッドとマイルドハイブリッドの2種類をラインアップ
日本向けの新型アルカナは、フランス本国ではラインアップされる基本グレードは用意されず、最上位グレードにあたる「エスプリ アルピーヌ」のみの構成。従来型で高い評価を得たE-TECHハイブリッドのほか、1.3L直4ガソリンターボを基幹とする「マイルドハイブリッド」からなる2種のパワートレインから選択できるとのことである。
おそらく新型でも大多数を占めると目されている「E-TECHフルハイブリッド」は、これまでのシステムと基本的には変わらないとのこと。単体で94psを発生する1.6Lの直列4気筒NAガソリンエンジンに、駆動用のメインモーターとHSG(ハイボルテージ スターター&ジェネレーター)からなる2つの電気モーター。ドグクラッチを組み込んだマルチモードギアボックス、蓄電容量1.2kWhのリチウムイオンバッテリーを組み合わせ、システム全体で最高出力143psを発生すると謳われている。
また「EVモード」では、市街地走行の最大80%を走ることが可能で、この領域では通常のガソリンエンジン搭載車に比べて、燃費を最大40%向上させるという。
くわえて新型アルカナでは、限定バージョンではない通常のカタログモデルでは初めて「E-SAVE」機能がインストールされたのも重要なトピック。センタースクリーンの車両設定から選択することができるこの機能は、バッテリーの充電量を最低でも40%に保つことで、必要に応じてEVモードで走り続けることや、急な上り坂でエンジンをアシストするための充分なバッテリー容量が得られるという。
しかし、今回のマイナーチェンジでもっとも注目すべきは、ルノーグループ傘下の高性能車ブランド「アルピーヌ」のDNAにインスパイアされたスポーティな内外装を身上とする「エスプリ アルピーヌ」が、日本市場に初めて正規導入されたことだろう。
エスプリ アルピーヌ仕様は、すでにEU市場ではミドルクラスSUV「オーストラル」を皮切りに、3列シートの高級SUV「エスパス」、コンパクトカーの「クリオ(日本名ルーテシア)」、最上級SUV「ラファール」でも導入されており、このほど日本国内で初公開された改良新型アルカナは、エスプリ アルピーヌ第5弾になるとのことである。
インテリアはスポーツシックな雰囲気を演出
2022年春、ルノー初のクーペSUVであるアルカナが初めて日本市場に導入された際、筆者は当初日本における唯一の販売モデルだったE-TECH「R.S.ライン」に試乗の機会を得た。それから約1年を経た昨年夏には「エンジニアード」という新グレードに移行したアルカナE-TECHに試乗し、スペックでは判定できない進化を実感させられることになった。
そしてさらに1年後、今回ステアリングを委ねられた新型アルカナは「エスプリ アルピーヌE-TECHフルハイブリッド」モデル。外観こそ新エンブレムとそのデザインを引用したグリルの採用程度で、フランスにおけるクーペSUVを先取りした従来型から大きく変わっていないようにも見えながらも、いっぽうエスプリ アルピーヌの真骨頂であるインテリアでは、素材の10%がバイオテクノロジー由来という黒い人工皮革「TEPレザー」を、シートやステアリングホイールにも使用。
手触りには若干の人工感が否めないものの、グレーのスエード調生地や「トリコロール」のステッチなども巧みに合わせ、いかにもフランスらしく見事なまでにシックな雰囲気を醸し出している。
さらに、従来型では7インチだったダッシュパネル中央のディスプレイは9.3インチまで大型化され、タッチパネルとしても格段に使いやすくなった。
徹底した洗練志向は、アルピーヌの名を掲げるに相応しい
これまでにもお伝えしてきたとおり、E-TECHパワートレインは2基の電動モーターに電子制御ドグクラッチ式マルチモードATを介して、1.6Lのガソリン4気筒エンジンを組み合わせたルノー独自のフルハイブリッド機構。ルノー技術陣が開発に着手した際、あのLEGOブロックで模型を製作してアイデアを絞り出した……、という逸話も残る優れモノである。
まずは発進時のデフォルトである「EVモード」で走り出したのち、漫然とドライブしていると気づかないくらいにスムーズに始動するガソリンエンジンは、電動アシストの制御がこなれたのか、あるいは自然吸気の強みなのか、とにかくレスポンスがナチュラル。
また、システム総出力143psという数値のわりにはトルクフルで、とくに低速域で調子に乗ってアクセルを踏むと「ハッ!」とさせられてしまうほどの勢いで加速を開始する。
くわえて、回転が乗ってくると聞こえてくるサウンドも健康的な4気筒の快音で、我々が長年にわたって親しんできたガソリンエンジン由来の魅力は、依然として充分に残されていることがわかる
さらに、このシステムの最大の特徴であるドグクラッチを使用したモーターの変速は、シームレスなのにダイレクトという点では従来型と変わらないものの、ここでも制御系がリファインされたのか、これまでドグクラッチが変速時に発していた「カシャッ」という音は、よほど耳を澄ませていても聞こえないまで低減されている。
いっぽう、SUV+ハイブリッドという重量を嵩ませてしまう組み合わせであるにもかかわらず、走行性能やハンドリングにも独特の軽快感が味わえることも従来型から継承された美徳ながら、この新型では身のこなしも格段に洗練されたとともに、タイヤ/ホイールが従来型の18インチから19インチに変更されたにもかかわらず、乗り心地も非常に良好。じつに心地よいドライビング体験を提供してくれる。いわゆるマイナーチェンジでありながらも、この洗練度の高さは特筆に値するのだ。
* * *
思えば、傑作「A110」のつくり手であるアルピーヌは、世界のあらゆる量産スポーツカーブランドの中でも際立って洗練度の高さを追求している、まさしく「コニサー(通人)」向けのブランドといえるだろう。
だから、その「エスプリ」へのオマージュを掲げる新型アルカナの「エスプリ アルピーヌ」が洗練志向をさらに強めてきたのは、むしろ当然のことにも感じられたのである。
specifications
■RENAULT ARKANA esprit Alpine E-TECH FULL HYBRID ルノー アルカナ エスプリ アルピーヌ E-TECH フルハイブリッド
・車両価格(消費税込):499万円 ・全長:4570mm ・全幅:1820mm ・全高:1580mm ・ホイールベース:2720mm ・車両重量:1470kg(電動パノラミックルーフ装着車:1490kg) ・エンジン形式:直列4気筒DOHC 16バルブ ・排気量:1597cc ・エンジン配置:フロント ・駆動方式:FF ・変速機:6速AT ・エンジン最高出力:69kW(94ps)/5600rpm ・エンジン最大トルク:148Nm/3600rpm ・メインモーター最高出力:36kW(49ps)/1677-6000rpm ・メインモーター最大トルク:205Nm/200-1677rpm ・サブモーター最高出力:15kW(20ps)/2865-10000rpm ・サブモーター最大トルク:50Nm/200-2865rpm ・燃料タンク容量:50L ・公称燃費(WLTC):22.8km/L ・サスペンション:(前)マクファーソン、(後)トーションビーム ・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク ・タイヤ:(前&後)225/45R19
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みんなのコメント
このルノー(当時)のモスクワ工場というのは、ソ連時代から現地で生産されていた小型車モスクビッチのポジションを実質的に引き継ぐ施設であった。そんな旧モスクビッチ(AZLK)の最後の主力車種が、やはりアルカナと同じ5ドアハッチバックの2141スビャトゴルという小型車であり、そのボディはプジョー傘下のタルボ(クライスラー・ヨーロッパ)が80年代半ばまで生産していた、タルボ1510(シムカ1308)の設備を購入して流用したものであった。
そんなタルボ1510のイギリスでの販売名がアルパイン(Alpine)だったのである。だから、アルカナがAlpineのサブネームを名乗る由緒は充分にある。「アルピーヌ」と呼ぶかどうかは別として。