新たに登場したBEVのID.4。実際に乗ってみると、その世界観はごく普遍的な地平に落ち着く。何よりもスペシャルであることが追求された、かつてのRモデルとは似て非なる個性だと言える。BEVの本質は特別さではなく普遍性にある、とフォルクスワーゲンは考えているのだろう。(Motor Magazine2023年3月号より)
愛車のシロッコRとは13年13万kmのお付き合い
フォルクスワーゲンの新しい流れとなる「ID.」。そこに、存在のあり方や乗り味を含めて「ID.とはこうである」という、共通項のような哲学があるのだろうか。「正直に言います。ID.4は、至って普通のクルマでした」
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
極端に言えば、やや拍子抜けしてしまうほどに、まるでBEVであることを忘れてしまうぐらい、良い意味で「普通」だった。
実は私、その「フォルクスワーゲンの普通」にはちょっとうるさい、と自認している。これまでの愛車で所有率が高いのはフォルクスワーゲンであり、ゴルフ5のGTIに始まり、現在もシロッコRとポロGTIを所有。ゴルフ5 GTIではカップレースに参戦、ポロでは全日本ラリーに参戦と、言ってみれば極限の状態でも、それなりの時間を共にしてきた。
そして所有年数も長い。中でも、いちばん長い付き合いになっているのがシロッコRで、今年で13年目。走行距離も13万kmを超えた。しかし好き過ぎてまったく手放す気にならず、近々また車検を通す予定だ。そればかりか、年末には改めてボディコーティングを行い、ピカピカウルウルに仕上げ直して毎朝、惚れ惚れしている。
質実剛健でありながら、遊び心も忘れない
それほどまでにシロッコRへ思いを寄せる理由はいくつもある。単純にデザインがカッコ良くてまったく古さを感じないし、最近のクルマがどんどん大きくなっていることを考えると、ボディサイズも扱いやすい。ただしドアは驚くほど長く、狭い場所での乗降性の悪さは玉に瑕、というよりも壊滅的でさえある。だがその分、スタイリングは流麗にまとまっているので、オーナー的には「行って来い」だと思うことにしている。
続いて、R独自のエンジンサウンドがたまらない。低音のドッドッドッと脈を打っているかのようなアイドリングから始まり、その気になれば猛々しい咆哮も上げる。だが普通に街中を流して走っている分には聞き分けがよく、大人しくて扱いやすいのが良い。
この時代のDCT(DSG)は現在のものと比べればシフトショックも大きいが、だからといって気になるほどではない。アイドリングストップ機構やADAS関係の装備は皆無で、運転サポート機能も単なるクルーズコントロールしか装着されていない。だがそのハンドリングは驚くほどに自然で素直。操舵フィールは重いが、思ったとおりに曲がってくれて・・・と欲目が入っているのは自覚しつつも、美点の枚挙にいとまがない。
まとめると「根底は真面目で普通なのだが、人とはちょっと違う。しかしその違いにさえ、誠実であり質実剛健という精神は忘れないという、フォルクスワーゲンの異端児」であるところが好きなのだろう。「この範囲からは、はみ出さないはずだ」という予測を裏切らない安心感を保ちつつ、遊び心とか冒険心とかやんちゃな心がある「ちょっと特別な存在」が私には付き合いやすいのだ。
誠実に「ちょっと特別」であるスタンスは、RとID.の共通ポイント
そしてID.4だが現時点ではBEVということでまだ「ちょっと特別な存在」に見える。しかし乗った感じは、あくまでもフォルクスワーゲンのラインナップの中に溶け込める「普通の存在」だ。
各種パワートレーンが選べる時代がやってきて、他のフォルクスワーゲン車から乗り換えても何ら違和感なく操れる、ということが重要視されていて、ID.4が目指したのは「BEVのゴルフになること」のように感じられたのだ。
エネルギーの供給方法も違えば出足の感覚も違う、そしてサウンドも違うと、従来のエンジン車と比べれば違うところだらけだ。さらにパフォーマンス的には、ID.4「R」が出たらTロック Rと肩を並べられそう、という印象。
「特別な存在」という意味ならばむしろID.バズの方が近いかもしれない。ただそう思えるのは、ID.4にフォルクスワーゲンとしてレベルの高い「普通の存在」が担保されているからこそ。実は「普通」であることが、一番凄いのである。(文:竹岡 圭/写真:伊藤嘉啓)
[ アルバム : フォルクスワーゲン ID.4 プロ ローンチエディション × シロッコ R はオリジナルサイトでご覧ください ]
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