2022年シーズンは、劇的な形でタイトル争いが決着したスーパーGT・GT300クラス。ここでは、光るところを見せながらも最終戦を前に事実上のタイトル争いから脱落してしまった陣営に、『反省』や『タラ・レバ』などを含めて、2022シーズンを総括してもらった。
第3回は、第5戦鈴鹿で5年ぶりの勝利を挙げたグッドスマイル 初音ミク AMG陣営だ。
優勝後に苦闘したロングランでの“センシティブ”な一面【2022年GT300“反省”レビュー(2)Studie BMW M4】
その鈴鹿に至るまで、勝利目前で涙を呑むラウンドがあったものの、ここ数年の苦戦からすると、上位を走る機会が多かった2022年。河野高男エンジニアは、夏場のタイミングで「ウチに合うタイヤになってきたから」とヨコハマの開発面での成果を強調する。
「クルマの方は、昨年から大きく変えていません。ヨコハマさんがかなり頑張ってくれたおかげで、(第4戦)富士、(第5戦)鈴鹿と強かった。もちろん、鈴鹿の頃には周囲がだいぶ重くなっていた、というのもありますが」
他の多くの陣営と同じく、第3戦後の約2カ月のインターバルに、SUGO、鈴鹿とタイヤテストに参加したグッドスマイル初音ミク陣営は、ここで性能を確認したタイヤを第4戦富士に投入。レース前半から首位に立つと、やがて独走態勢を築いて久々の勝利へと突き進んでいた。
しかし、終盤に入って左フロントタイヤがパンク。勝利を目前で逃してしまうというショッキングな幕切れに。富士は参加条件面も有利なことから、谷口信輝と片岡龍也は失意のレース後「鈴鹿に行ったら厳しい」と漏らしていた。
だが、チームとしては事前のタイヤテストの時点で「鈴鹿もいける」という手応えをつかんでいたという。河野氏が説明する。
「7月の鈴鹿でのタイヤテストでは、フルウエイトを積んで走っていました。タイヤ的にはかなり厳しかったけど、タイムは悪くなかったんです。テストのラップタイム的にはGT-Rの方が速かったけど、『ウエイトを下ろせば、GT-Rと勝負できるね』というレベルでした」
富士でフロントタイヤが壊れてしまったことは、河野氏にとっても予想外であったという。このあたりは、メルセデスAMG GT3が同じタイヤサイズを採用する車両のなかで少数派のフロントエンジン車ということもあり、リヤよりもフロントの負荷が大きくなったことも影響しているのでは、と河野氏はみている。反対に、ライバル勢に比べ負荷の少ないリヤタイヤ側のメリットをうまく活かして、夏場以降の好調を生み出したとも言えそうだ。
結果的に第4戦富士をとりこぼしたことで、サクセスウエイト12kgで臨んだことも奏功し、鈴鹿でも好走を見せることに成功したグッドスマイル初音ミク AMG。「もちろん鈴鹿はJAF(GT300規定)勢が速いと思ってましたけど、温度的にも想定より低く、タイヤメーカー含めて(周囲が)外しているところもあったので」と河野エンジニアは相対的なポテンシャルが高かった要因を冷静に分析している。
河野氏は2022シーズンの参加条件について、「つらいことには変わりありませんが、GT-Rのブーストが下がったりした結果、GT3勢はだいぶイコールになってきていると思う」という。
「それでも加速では負けていますけどね。富士に関しては(比較的良い条件の吸気リストリクター径である)36mmというのがあるので『加速で負けても、エンドでは(追いつける)』というのがありますが」
富士、そして鈴鹿でも好走を見せることができただけに、夏場に投入されたタイヤをもっと早い段階から採用できていれば、第2戦・第3戦の結果も違っていたものになっていたかもしれない。それが、グッドスマイル 初音ミク AMG陣営にとって2022年最大の『タラ・レバ』であろう。
なお、第6戦SUGOでは谷口が予選後に急病に見舞われるというアクシデントが発生。決勝は片岡がひとりで2/3を走ったところでリタイアを選択したが、この走行機会も無駄にはしていない。
「ウエット路面だったけど、いろんなことやってました。チョイ濡れは難しいと思っていたものが、使えるようになっていたのも分かったし、クルマ側でもいろいろと対策ができた」(河野氏)
陣営は早々に2023年の体制を発表、不変のラインアップで挑むことがすでに確定している。タイヤ開発が一段進んだ2022年中盤からの良い流れを維持すれば、安定した上位進出も実現できそうだ。
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